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KILLING ME SOFTLY【小説】75_多分どうしても愛してしまうんだ

気まずい沈黙が続き、耐え切れずに破る。
「あのさ、お風呂良かったよ。効能?あんま分かんないけどすごいね、疲労回復した感じ。私ハマっちゃうかも。」
「……。」
「ほら、デートにも良くない?今度は鎌倉、箱根辺りとか。もし連れてってくれるなら行きたいな、なんて。」


尚も千暁は恥じらい俯いたままだが捲し立て、返事を催促するように様子を窺う。
「それはまあ、紅葉見に行くついでに。」
「やった、楽しみ!」
私が布団から起き上がって、あからさまにぎこちない彼の顔を覗き込めば当然ながら至近距離で視線がぶつかり、往生際悪く逸らそうとしたので咄嗟に腕を掴んだ。


「は、マジなんなの?」
「ねえ、こっちの台詞。一緒に泊まるの別に初めてじゃないのに。しかも公衆の面前で散々イチャついてるよね?アキくん、いい加減慣れてよ。
「だってこんな、その、違うでしょ。俺の心臓が持たねー!降参、敵いません。」
彼は耳まで真っ赤にして思いを吐き出す。
何だか私が悪者みたいじゃん。


「はいはい。いじめてごめん、ホントは覚悟しな、って言いたいとこだけど仕方ないからやめたげる。」
一気に馬鹿らしくなり、ただ唇を重ね、背を向けて寝たふりをすると、千暁が私の頭を撫で、話し掛けた。
「莉里さん。」
「寝てまーす。」


「起きてるよね。怒んないでよ、愛してる。んん、えっと……おいで。
最高にズルい、これだけで蕩けて、全部許せる。彼は私の存在が弱点だと語ったが、余程〈一生勝てない〉のは私の方だ。



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