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KILLING ME SOFTLY【小説】66_もっと私(俺)を知って欲しいんだって

透かさず私が睨み付けると、千暁は慌てて訂正する。
「冗談だってば、俺のタイプは莉里さんだよ。……どうしようもなく好きな人が全っ然一筋縄じゃ行かなくて、すげえ腹立ったり、身体の水分枯れるレベルで何度も泣いて、もうやめよう、高嶺の花、俺には無理だとか……あれ?なんで付き合ってんだろ。未だに分かんない。けど、散々弄ばれて騙されてもいいし、俺ダメなんだ、相手が莉里さんでなきゃ。なんつーか、その存在自体が弱点、みたいな?一生勝てません。

やがて彼は呻きながらどこかの寂れた漁港付近で停車した。頭を抱えて頬を赤らめる。


まさか海どころか心の奥底まで潜れるとは、想像すらしておらず驚くも瞬時に喜びが込み上げて千暁に抱き付いた。
何故いつも彼は私の心を奪うのだろう。
これ以上、恋に溺れてしまえば東京へと帰ることがより精神的に辛くなる。


「てか、マジただのドライブだね。つまんなくないの?」
「正直言うとかなり面白い、アキくんからこんな話が聞けるなんて!」
「そっちかよ。」


例え恥ずかしくても、多少格好悪かろうが結構、胸に秘めた〈本当の気持ち〉を曝け出せ。
綺麗事を並べ、腹の探り合い、好かれたいが為に良い点だけにフォーカスして、悪い部分を塗り潰す恋人ならば要らない。
それを乗り越えた先でさえも新たに何かしら訪れるであろう。この繰り返しだ。


私達はスタート地点に立ったばかり。
千暁とはどこまでも深く関わりたかった。



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