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KILLING ME SOFTLY【小説】33_騒がれるのは輝いたものばっか

都内某所のコーヒーチェーン店にて。
「夏輝ちゃん、去年から啓ちゃんと付き合ってたんだね。」
彼女が無表情でスマートフォンを弄る中、こちらはどうにか勇気を振り絞って本題を切り出す。


「そう。まず啓裕くんは有名だし、りーちゃんの元カレでしょ?ぶっちゃけ言い難くって!ごめーん。」
わざとらしく片手で謝るポーズをして見せたが、微塵もそのようには思えなかった。
2人の馴れ初めがまさに啓裕が荷物を纏めて家を出て行った時期と重なる、とは夏輝の口からではなくSNSに投稿された〈ご報告〉により悟る。


期間限定ドリンク()の容器を持ち上げれば、テーブルへ滴が落ちた。
「やっぱ新作は映えんね。ほら、反応いい!」
不自然な程に〈通常運転〉、親友と共に過ごす大切なひと時すらも馬鹿げた趣味に没頭する。
私などお構いなしとばかりに何枚も画角にこだわって撮影した末にようやく載せたものを画面越しに見せられた。


私も同じ飲み物を注文しているにも拘らず、手間暇かけて加工した写真を、何故?
理解不能な言動に苛立ちを覚え、口走る。
「ライブ配信で友達に彼氏盗られそうになった、最悪とか病んでたのも聞いた。もし違ってたらめっちゃ申し訳ないんだけど、……誤解してる……かも。」
「は?」
初めて夏輝と視線が合う。


彼女は読者モデル時代から異性に媚びぬ個性的なファッションとやらで絶大な人気を誇り、高い鷲鼻と吊り目に、端整だがややキツめの容姿は性格をも表すようだ。
そこに多量のピアスやタトゥーが加わる。


実際は自立どころか依存、超のつく恋愛体質で身勝手な為にトラブルを起こしがち。
しかし流行がどれだけ変わろうとショートヘアを貫き男装も様になる、独特のセンスとカリスマ性だけは抜群だった。


専属モデルを差し置いて、真っ先にアパレルブランドプロデュースの話が舞い込んできたのも頷ける。



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