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KILLING ME SOFTLY【小説】77_心は穴だらけ

千暁とはお揃いのものが2つあるが、私は一方についてのみ、しかも、話した相手はただ1人だった。
夏輝曰く〈りーちゃんの交友関係なんてたかが知れてる〉。まさにその通り。
先月まで同じ職場に勤めていた長谷川(はせがわ)は、私の世界が狭いという点に全く気付かず、迂闊にも身元が割れるような情報を流出させた。


アルバイト先の吉祥寺店には従業員が4名おり、フリーター同士で、こちらは特に向上心がなくとも彼女はいずれ正社員を目指して勉強に励む努力家、尚且つ、淑やかな美人に見える長谷川が意外と気さくに声を掛けるのが嬉しく、幾度か閉店後に食事を楽しんだ。
「ホントに仲良しだよね。」
と顧客から言われる程の付き合いや何もかも、あちらにとっては取るに足らなかったらしい。


長谷川は輸入雑貨の知識ばかりか美容にも詳しく、あれは千暁と交際を始めた頃だろうか。
私が出勤するや否や呼び止める。
もしかして香水、新しいのに変えました?
「流石ハセさん!敏感だね。実はこれ、今の彼氏と一緒にしよっかなって。誕生日プレゼントに……どう思う?」
彼女に信頼を寄せたからこそ、はにかみながら打ち明けた。


嫌がらせの対応に追われ、更には私が急きょ退職したことによってシフトに穴を開け、多大なる迷惑をかけた自覚はあれど、こういった風に吐き出されると強い精神的打撃を受ける。



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