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KILLING ME SOFTLY【小説】166_『 』に穴が空いた

夏輝が好きな音楽、行きつけの店、燻らせる煙草、甘ったるい香り。
あちこちに宿る魂に怯え、苦しめられては平気なふり、8年分の重みはそう簡単に消えない。それらを抱えた上で少しずつ前に進むことが生きていく、という選択だが、またも私は咄嗟に逃げたのではなかろうか。


頭を悩ませると、翌日の晩に夏輝は『凛々香へ』とのタイトルで私に宛てたメッセージを動画に託して、彼女は啓裕との〈本当の〉馴れ初めから赤裸々に語る。
「ぶっちゃけ彼氏盗ったのは、ナツの方。別れても繋がってるんだってくだらない疑いかけた。浮気が始まりでしょ?自信なかったの。」
安全圏でさも被害者の如く振る舞う啓裕の本性が明かされ、これにて彼は烙印を押された。


次にバンドマンの菅原さんは夏輝が言い寄って呆気なくフラれた相手だったようだ。
腹立ち紛れに私へとあてがい、交際をでっち上げたと白状する。
「てな訳であの2人は付き合ってません!りーちゃんの本命はずっとあれよ、写真撮られた一般の子。ブレなかったわ、ガチ。」
千暁にも影響が及ぶ、何と余計な真似を。
開いた口が塞がらなくなった。


ナツ、りーちゃんが羨ましかったんだよ。ハーフでスタイル良くて、クッソかわいいじゃん?まーモテんのさ。しかも自分の世界観持っててキラキラ。一生勝てないよ、あんなん。現場でも嫌われて仲間外れにされてたのにいつも喋ってくれてね、初めて出会えたな。1人っ子で年下だし、なんか妹みたいだから、思い通りに出来るとか、勘違いしちゃった。」
ないものねだりによって親友を失い、その人生を壊した、彼女は俯きつつ声を詰まらせる。
このような台詞は初耳だった。


最後に、私が真実を黙ったまま表舞台から去った件に触れる。
「ウチら1回も喧嘩しなかった、優し過ぎ。りーちゃんに会ったんだけど、パニクって暴言吐いちゃった。ホンッッットごめんね、見てるかな?大好き、ナツもりーちゃんに救われた。幸せ願ってる。
視界が滲み、スマートフォンの画面に雫が落ちた。



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