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KILLING ME SOFTLY【小説】129_テレビのボーカリスト

夢から覚めれば次の仕事が控えており、休む間もなく最寄駅まで疾走した。
エスカレーターにてスマートフォンのブラウザを開くと検索サイトのトップに躍り出た文字で一瞬思考が止まってしまい、転びそうになる。
慌てて電車を待つ列の最後尾に並び、そのニュースを読んだ。



『◎◎ボーカル・キヨタカ、〈ブランドプロデューサー〉美女と歳の差"禁断愛"』
CMソングやドラマの主題歌などタイアップが絶えず、全国ツアーをアリーナ規模で行うベテランバンドのフロントマンを務める彼が、妻ではない女性と数回に亘り腕を組んで歩く写真を週刊誌の記者に撮られ、都内の高級マンションで逢瀬を重ねる、とか。

率直に言うと有り触れた〈バンドマンのスキャンダル〉、ところがどっこい。



……不倫相手は、夏輝だった。



「おい、チンタラしてんじゃねえよ!」
師走の忙しなさに怒鳴られてわざと抜かれる。
冷たい視線を向ける車内のあちらとホームのこちらに存在しない筈の境界線が見えた途端に頭がパンクした。


たかがインターネットの狭い範囲で、でっち上げの交際が騒がれ、私怨によってSNSの非公開アカウントやら本当の恋人とのツーショットを晒された私のストーリーは序の口、ボヤ騒ぎに過ぎず、夏輝について飛び交う噂がいよいよ公に、それもまさかあのような売れっ子と関係を持つとは思いも寄らない。


キヨタカにあったクリーンなイメージも相まり、凄まじい速さで世間に衝撃を与える。





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