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詩など

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自作の詩,詩のようなことばをまとめています。
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#現代詩

【詩】ユキヤナギ

【詩】ユキヤナギ

雪化粧をした枝に積もる
冷たい白粉を 集めたら

蕾に 籠めておきましょう

あたたかい朝
白い光のような雪が
咲くでしょうから

・・・・・・

春先に咲くユキヤナギの花が、もう咲きかけていたのに触発されました。
今年もぼちぼち、不定期更新で始動いたします。よろしくお願いします。

小牧幸助さんの #シロクマ文芸部 からお題をお借りしました。いつもありがとうございます。

【掌編】詩と暮らす【散文詩】

【掌編】詩と暮らす【散文詩】

詩と暮らすことにしたのは、数年前の春からです。

その春、わたしは陽気に当てられぐったりとしていました。そんな時、窓からふと、ひとひらの詩が飛び込んできたのでした。ひらひら、ひら、り。窓の内側に吹き込んできた詩を、手のひらに収めました。薄桃色の詩は、見た目の美しさとは裏腹に、少し乾いていました。わたしは硝子の容器に水を張り、詩を浮かべてみたのでした。すると、詩は楽しそうにくるくると硝子の中で回りま

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【詩】うつろう

【詩】うつろう

首元まで詰まっていた 夏が
つるん と抜けて
行ってしまったので

わたしのからだは
空っぽになって
やたら 風を通すようになった

行きつ戻りつしていても
行ってしまったら 戻ってこない

夏は 脱いでしまったのだ
わたしという 皮を

うつろう季節はいつも
すぐ 肌の下にある

*******************
今年の残暑は厳しかったなぁと思いながら書きました。ようやくの秋ですね。
素敵

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【詩】菜の花

【詩】菜の花

野原に
電灯を
つける

そこだけ
あかるい
光になる

遠くからも
よくわかる
春の合図に

心の中で
手を振る
電車の中

遥かな
土手の
菜の花

・・・・・・
いよいよあたたかくなってきました。あちこち花ざかりですね。
素敵なお写真をお借りしました。ありがとうございます。

【詩】おもたい

【詩】おもたい

長患いに瘦せ細った祖父は、死ぬ前
風呂に入れれば、その湯が
服を着せれば、その衣が
おもたい、――おもたい、と
呻くように呟いていた
五体満足に生きていたら
気にすることもないものたちの、重みを

亡くなった後
故人の服を捨てようと
集めてまとめて袋に入れれば
一枚二枚では感じなかった
衣の重みがずっしりと
袋を持ち上げる指に
引きちぎれんばかりに、食い込む

いつだって身軽でいたい
けれど人生は

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【詩】その木の下で

【詩】その木の下で

大きければ良い
いうものではないけれど
クリスマスツリーはやっぱり
大きいものが、いい

大きければ大きいほど
心を奪われるから
その木の下で鮮やかに輝く
世界に満ちるたくさんの不思議が
本当のものなのだと
思わせてくれるから

子どもたちと共に
箱の中で眠る幹を取り出して
モール、スター、オーナメント、リボンに鈴、
虹色のライト
飾り付けよう
抱えきれない期待と共に

大きければ良い
というもの

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【詩】梢の神鳴

【詩】梢の神鳴

秋は心中を決意した

後悔はないの
ただ私はもう、手遅れ
そんな言葉を残して
紅葉は真っ赤に燃え落ちた

遺言が伝わると
夜でも色がわかるほど
黄色く盛る炎となって
公孫樹は無言で後を追った

見事なまでに 秋は全焼

間に合わなかった
わたしもなりたかった
手遅れなくらいの激しさに
闇を貫けるほどの明るさに

すっかり命をなくした梢では
十月を留守にしていた神様が
知らぬ間の皆の心変わ

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【詩】生爪

【詩】生爪

サンダルの隙間から太陽を跳ね返していた
金銀のジェルネイルは
急な冷え込みに慄いた

秋雨に縮む靴の中
爪先に残っていた夏は
ばらばらに壊れ、剥がれて落ちた

現れたのは、随分息を塞がれて
少し白っぽくなって筋張った
久しぶりの生爪

雨を洗い流した風呂の中で
眺める足先の生白さ
柔らかく頼りないわたしの魂は
この身の隅々から不意に現れる

いつもより丁寧に体を拭いて
生まれたてのような爪

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【詩】平和のように

【詩】平和のように

花の名前はどのように決まり
どう受け継がれてきたのだろう
曽祖母も祖母も
なぜあんなにたくさん
花の名前を知っていたのだろう

あれはなに
おしろいばな
のうぜんかずら
さるすべり
きれいかねぇ

手を引かれ歩いた細い道
夕方の太陽の色をした実を
あるいは道端にこっそりと色づく
赤紫の丸い点々を
指さしては首を傾げた

あれはなに
からすうり
へびいちご
たべれると?
たべれんとよ

あれはわたし

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【詩】とどけもの【掌編】

【詩】とどけもの【掌編】

しずかな日曜日の午後
夕方に差し掛かるころ
インターフォンが鳴る

届けられたのは
化粧箱に入った
ひとつかみの 心

とどけもの、受け取りました。早速、風にさらして水に活けて、日の当たる窓辺に、飾りました。獣を飼うのも植物を育てるのも全く得意ではないのですが、せっかくとどけて下さったから、このまましばしお預かりします。
―――――――季節の変わり目どうぞご自愛を

受領の報せは書いたものの
宛先

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【詩】追伸、あなた様へ

【詩】追伸、あなた様へ

夜中に手紙を書くときは、
いつだって最後に
追伸、
と書きつけてしまう

言い残したことがあるのです
忘れていたことがあるのです
書きたくても書けなかった
真実を最後に、少しばかり

追伸、
あの仕事は片づけておきました
あの件はなかなか終わりません
あの子は相変わらず元気ですよ
あの日のことは忘れてください

追伸、
あいしていました
あいのようなものでした
あいしています
あいのようなものだと

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【詩】それから

【詩】それから

そう、あの子は戦いに赴き
連絡が途絶えて久しいの
過去と未来は繋がらない
羅針盤は今を指さない

そびえ立つ現実
連日積み重なる
哀しみから顔を上げて
ラジオに耳を澄ます

ソーダ水に
レモンの月を添えて
飾る窓辺に 訪れる夜明け
来年、戦争は終わるでしょうか

………………

「それから」をテーマに作ってみた小さな詩です。各行が「そ」「れ」「か」「ら」で始まっています。

素敵なイラストをお借り

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【散文詩】無花果【掌編】

【散文詩】無花果【掌編】

あれはヤツデ? ──いいや、あれは無花果。しばらくすると、美味しい実がなるよ。

その日からわたしは、来る日も来る日も無花果の葉の下で、もたらされる実りを待った。青空はくらくらする。陽炎のような誰かと遊んでさみしいよりも、空を切り取る緑の手と戯れる方が愉しい。
葉をすり抜ける陽射しが肌を焼いて、体育座りの腿の内にまで汗を浮かべさせる。登校日は忘れたことにした。青空はまだくらくらする。よく何年も、そ

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【詩】プリズム

【詩】プリズム

呼びかけられたので
振り向いたのですが

そこには
いつか投げ捨てたグラスの
破片が宿した薄いプリズム

言葉になりきれなかった
ひかりたちは
年月に透けながら
わたしの肩のあたりを
時折ざわめかせてくる

眩しい夏の手前で

呼びかけられたので
振り向いたのです、が

そこには