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ノスタルジーを科学する

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日常に見え隠れするノスタルジーを探す日々を綴っていきます。
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記事一覧

ノスタルジーを探して (音楽編)①

ノスタルジーを探して (音楽編)①

 「ノスタルジーな曲ください」とオーダーしても、私の注文にピッタリ合うような曲は意外と見つからない。それは当然のこと。だって、私の思うノスタルジーと貴方の考えるノスタルジーは違うみたいだから。俺の好きは狭い、そんな俺が好きになれたもの、大事にしたい。
 
 ノスタルジーな曲が好きだ。だから私はノスタルジーな曲を探している。「ノスタルジーな曲」、なんとも曖昧な嗜好だ。あいまいでいいよとは言うが、ここ

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夢にだけ出てくる団地

夢にだけ出てくる団地

 今朝、団地の夢を見た。団地に関する夢だったのは覚えている。しかし、その団地で何をしていたか、それはもう忘れてしまった。家族で生活を営んでいたシーンだったかもしれないし、階段を駆け上がったりしながら鬼ごっこをしていたのかもしれない。とにかく忘れてしまった。

 その団地が、自分がかつて訪れたことのある団地なのか、それもわからない。少なくとも、自分が幼少期に過ごした町にあったような団地ではなかった気

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ノスタルジー、感じたい ⑩

ノスタルジー、感じたい ⑩

第10回 特別編 :𝓛𝓲𝓯𝓮 𝓲𝓼 𝓑𝓮𝓪𝓾𝓽𝓲𝓯𝓾𝓵



 「師走」とだけあって私の職場も繁忙期に突入し、上司も先方もあくせく走り回っている。職場の窓から見える小汚い町工場がより一層痩せこけて見える。カーキ色の作業着のおっちゃんが肩を竦めて、それはそれは美味そうにタバコを吸っている姿を見る度に、紛うことなき"冬"というものを感じるのだ。かたや私は場末の食堂の古臭

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ノスタルジー、感じたい ⑨

ノスタルジー、感じたい ⑨

第9回:橋の下より 自分の住んでる町には小さな川があって、その川を跨ぐようにいくつかの橋が町内に点在する。橋があるということは、橋の上があって橋の下もある。私はどちらかというと、橋の"下"のほうが好きだった。

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 中学生の頃、いつもより早めに終わった休日の部活動帰りには、友人たちとよく川に行っていた。晴れた冬の朝、土手の植物はみなベージュ色に染まって、汚い水面に揺れていたのをよく覚えている。

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ノスタルジー、感じたい ⑧

ノスタルジー、感じたい ⑧

第8回:廃ナントカ 廃〇〇という響にめっぽう弱い。廃墟、廃ホテル、廃病院、そして廃喫茶。ちなみにこの場合の「廃」には、営業を終了し役目を終えた、という意味が込められている。廃喫茶とはその名の通り、店主が店自体の営業を終了しており、シャッターが下ろされた状態の喫茶店のことを言う。

 街を歩いていると、廃店舗は結構見かける。廃居酒屋、廃商店、そして廃喫茶。
 喫茶店巡りが趣味の私は、この廃喫茶という

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ノスタルジー、感じたい ⑦

ノスタルジー、感じたい ⑦

第7回:喫茶店とコーヒー

 ノスタルジー、感じたい。第7篇目は、ノスタルジーの代名詞とも言える喫茶店について書きます(ちょうどいいコンテストも見つけたので)。"喫茶店のこと"と一口に言っても喫茶店のことを話し出すといろいろと脇道が多岐にわたり話の収拾が付かないので、今回は「コーヒー」のみに話題を絞ります。

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 とりあえず、ホット1つ、って人差し指を立てて言いたい季節になりましたね。ほっと一

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ノスタルジー、感じたい ⑥

ノスタルジー、感じたい ⑥

第6回:そこに山と鉄塔があるから
 
 海と山に恵まれた街に生まれたので、幼い頃から海にも山にも馴染みのある私だが、最近の私はどちらかというと山に囲まれている。そして山に惹かれている。 仕事の都合で高速道路を東奔西走南船北馬しているので、山のひとつふたつやみっつ、わけいってもわけいっても青い山の山頭火な日々である。日本にはこんなに山が多いのかと感心する。まぁ確かに陸地の可住面積が25%しかない国だ

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ノスタルジー、感じたい ⑤

ノスタルジー、感じたい ⑤

第5回:ディストピアロマンス 最寄り駅にある商業テナント施設に、いつもと違う入口を見つけたので興味本位で扉を開けてみた。

 人気(ひとけ)がない。入ってすぐの突き当たりには「STAFF ONLY」と書かれた鉄扉、向かって右にはまだ新しいエレベーター。お客様用と書かれているので使っても問題なさそう。上昇ボタンを押すと、3階に居たエレベーターがすぐに降りてきた。フロアには店内BGMがずっと流れている

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ノスタルジー、感じたい ④

ノスタルジー、感じたい ④

 第4回:季節の変わり目のノスタルジー 涼しい日が増えてきた。長かった緊急事態宣言も明け、9月から10月に、それと同時に季節がステージ3「秋」へと移り変わったような気がした。
 "夏から秋の移り際"っていうのはなんとも輪郭のないボンヤリとしたもので、現代文の問題の様に受け手の感じ方によって解釈が異なる、完全(パーフェクト)な正解(アンサー)がないものだと思う。

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 上腕二頭筋から先がふと寂し

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ノスタルジー、感じたい ③

ノスタルジー、感じたい ③

第3回:あの朝の情景 あの朝のことを話そう。「あの朝」といっても、ある特定の日の朝のことを言っているのではない。この"あの"という二文字の背後には、一文節では到底書き表せられないような、遠き日の情景が広がっている。

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 先日、1回目のワクチン注射に行ってきた。その日のうちは注射をした腕が痛む程度であったが、次の日には腕が肩から上に上がらないほど痛くなった。オジサンたちが言う「四十肩」はこれの

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ノスタルジー、感じたい ②

ノスタルジー、感じたい ②

 第2回:町がノスタルジーになっていく 実に不愉快な気候だ。台風だか温帯低気圧だか存じ上げないが、天候に行動を制限されることほど面白くないことはない。

 1度目の起床、時刻は確か朝7時過ぎ、外は雨が降っている。今日は休みなので短い微睡みの後、私はまた眠った。

 2度目の起床、時刻は9時前。この日は弟と喫茶店でモーニングの約束をしていたが、この時点でキャンセルすることにした。そしてまた寝た。

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ノスタルジー、感じたい

ノスタルジー、感じたい

 第1回:ノスタルジーはなくてもいい

 月が出ると踊りだすのはタヌキだけではなくて人間もそうだ。秋口の涼しい月夜には、何故か月を模した食べ物を摂取したくなる。今宵は生憎の曇り空、たとえ月が見えずとも、この包み紙が月の代役を果たそう。

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人間は常にノスタルジーを求める生き物だ。ノスタルジーを感じられるのは人間にだけ与えられた生物としての特権だからである。遠慮なくノスタルジーを感じよう。リー

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