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僕の書いた小説たち

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高校生の趣味で書いた文章です。 読み切り、短編メイン
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記事一覧

連載小説 「カエルさん」#1

1.大学2年、夏

何かがある訳ではない、事足りない訳でもない。南栄原はそんな街だ。この街のオススメの場所を挙げるのならば、僕は「カエル通り」と呼ばれる風俗街を挙げる。数十年前、バブルと同時に最盛期を迎えたカエル通りは今やほとんどの店がシャッターを降ろしている。最近はアジア圏からの移住者がポツポツと飲食店や移住者向けの商店を構えている。だから、この通りに行く人なんて今は殆どいない。ただ、年始だけは

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短編小説「春」

短編小説「春」

「春」
断られるのは分かってた。
それでも気持ちにケリをつけるには、これしか無かった。
真っ直ぐに、ただ真っ直ぐに彼女の方を向いて言う。
背筋を伸ばして。
冬と春の間のなんとも言えない澄んだ空気を胸いっぱいに吸う。
覚悟は出来た。
「ずっとずっと、僕は優奈のことが好きだった。」
「知ってるよ。ずっと前から。でも、ごめん。」

春のあの日、僕は優奈に出会った。
3年生に上がる時、この高校に優奈はやっ

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短編小説「中身」

公園のベンチで僕はまったりしていた。
すると目の前に男がやって来た。
その人は僕に包装紙に覆われた小さな箱を渡してこう言った。
「その中身は君次第だ。」
僕は包装紙を取って、小さな箱を見つめた。
なぜだかそうしなきゃいけないという衝動に駆られたのだ。
目の前にいたはずのその人はもういなかった。
小さな箱は真四角で真っ白だった。
積み木のようなその箱には開ける場所が見当たらない。
どこからこの箱を開

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短篇小説「裏向きの月の下で」

短篇小説「裏向きの月の下で」

駅のホーム、月が顔をのぞかせる。
ギリギリ満月じゃないくらいの形 。
「なぁ、あれ見てよ。」
「うお、ここから月見えるんだね!ビルばっかだから、この駅から空なんて見たことなかったよ。」
ゆきは丁寧に返答をくれた。
「夏貴は寒くないの?」
「寒いに決まってるだろ。」
ホームには12月の冷たい風が入ってくる。
今日は昼間暖かかったから、俺は上着を持ってきていなかった。
とりあえずベンチに座る。
「はい

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短篇小説「合鍵」

短篇小説「合鍵」

上京なんて華ばなしいものではない。
このアパートに越してから知ったことだ。
古いアパートの一室に住み初めて1年。
東京はいつでも人に冷たい。
日本の人情を海外の人が語るCMに嫌気がさす。
テレビを消して、持ち物の最終確認。
私は家を出る。
「おはようございます。」
隣の家の女性が冷たいトーンで話しかけてくる。
「おはようございます。」 と予定調和な挨拶を交わす。
それこそが毎日私を東京の孤独に引き

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短篇小説「幸福伝達物質」

短篇小説「幸福伝達物質」

とある病気が発見された世界のお話。
名前は「拒幸症」
Happiness rejection syndrome
通称HRS。
「彼」もその患者の1人だ。
急激に世界に広まったその病気はとても単純な症状を引き起こす。
幸せになることを拒絶するのだ。
仕事を投げ出したり、学校をやめたり、食事などの日常生活を避けたり。
その人が思う一番の幸せを自分の意思に関係なく拒絶する病気だ。
患者に対して幸せを与え

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連載小説「切符にはイヤホンを」#1

連載小説「切符にはイヤホンを」#1

短篇の「切符にはイヤホンを」を読んでからの方が更にこの作品を楽しんで頂けると思います。

短篇小説「切符にはイヤホンを」|るーぺ https://note.mu/yuuka_fiance/n/n04a0ca6100db

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都会はとても息苦しい。
人はみんな小さい画面を眺めながらうつむき加減でいる。
誰も他人に興味が無い。
なのに街はうるさい。
今日も都会は他人

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短篇小説「中毒」

短篇小説「中毒」

今更言えるわけもない。
「やっぱり好きだ。」なんて。
俺は未だに元カノのことが忘れられない。
別れる時になんで簡単な一言が言えなかったんだろうって考えると。
もしも言えてたら。
なんて。
ただただ女々しい俺だから見捨てられたんだろうな。
そんなことを考えながらソファで横になっている。
あんなに狭く感じた部屋がバカみたいに広く感じる。
友人からのLINEだろうか。
スマホから通知音が鳴るが、無視する

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短篇小説「夕凪」

短篇小説「夕凪」

「ねぇ、どうしてここに来たの?」

「理由なんて沢山ありすぎて。」

「ここに来る人はみんなそう言うよ。」

「だろうね。それにしても静かだね。風もない。」

「凪って言うんだ。海風が吹かないのを。だから今は夕凪。つまり何もない時間。」

「響きがいいね、凪か。さて、僕は何をしよう。」

「どうせあっちに行くんでしょ?」

「そうだけど。今ここで何をするかは決めてない。」

「じゃあさ、私の話聞い

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短篇小説「切符にはイヤホンを」

短篇小説「切符にはイヤホンを」

おそらく都会に住んでいる人からすると、この町は田舎なのだろう。つまり田舎に住んでいるのだから私は田舎者ということになる。そんな田舎者の私が都会に憧れるのは別に特別な話でもなんでもない。この町は海が見える。しかも内湾に位置してるから、海辺に行けば対岸の街も見える。あれが都会。高い建物が連なっていて、オレンジ色の光がふわっと灯っている。比べて私の町にあるものと言えば無駄なほどに煙を出す工場と寂れた漁港

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短篇小説「うるせぇ、馬鹿」

短篇小説「うるせぇ、馬鹿」

「吉原、週末から出張頼める?」また俺かよなんて言える訳もなく「分かりました、また海外っすか?」と嫌味を込めた返答で部長に最大限の抵抗をする。「またってことはないだろ。近頃トラブル続きで海外の工場が大変なんだよ。」そこそこデカい製造系の会社に務め始めて十数年。三十も後半の俺は良い仕事をしても昇進できる訳でもなく、良いように使われていた。機械の基礎知識や、ある程度の英語を買われて営業に配属されている。

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短編小説 「足場」

短編小説 「足場」

初めて小説書きます。

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マンションの定期修繕工事が始まって数日が経った。僕の住んでるマンションは11階建て。僕の部屋は2階だから、工事が始まってすぐに足場がベランダを覆い隠した。 リビングから工事してる人がたまに見える。ガガガと工事音が周期的に響くのが不快で、僕はテレビの音量を上げた。リビングが僕の1番落ち着ける空間だっただけに、足場と忙しく移動する人が不快だった。これがあ

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