マガジンのカバー画像

ねぇ、たびのひと

15
どちらかというとつぶやきに近い、あした笑うための言葉たち。
運営しているクリエイター

記事一覧

3つの星の話。【創作】

3つの星の話。【創作】

私は、人間じゃない「それ」と暮らしている。

男でも女でもなく、脈を打つ臓器も持たない。
五感を持っている、けれどどれも私のとはちがうらしい。

私は、傷つけてばかりだったのだ。
私が傷つかない言葉で、いつもまわりを傷つけていた。それに私は気づかずにきた。

どんなに泣いても悩んでも自分を責めても、私はそれを憶えていることができなかった。

近づけば傷つけるなら、触れればただれるなら、離れるしかな

もっとみる
【創作】星を拾ったカラス

【創作】星を拾ったカラス

生まれたときからこの町で生きてきたカラスは、光のぐあいで黒にも蒼にも紫にも光る自分の翼が大の自慢だった。

が、一方からしかカラスを見ないその町の人とは喧嘩ばかり。自分の色を忌々しそうに睨む人々に飽き飽きしたカラスは、彼らの目の利かない夜にばかり空を舞っていた。

人のいない町をいつものように飛んでいて、カラスははたと気がついた。暗がりの中に人間がいて、その目と自分の目が合ったことに。

それはそ

もっとみる
おかえりじいちゃん、私の灯りが見えましたか。

おかえりじいちゃん、私の灯りが見えましたか。

じいちゃんの初盆が終わり、茄子の牛の背後に蝉時雨が響く。

やっぱり行くことはできなかったが、あきらめの悪い孫・遊布野はこの半年間、ひそかに頑張っていたことがあった。

話が変わるようで変わらないのだが、提灯は何でできていると思う?

そう、竹でできている。

はじめてこちらに帰ってくるじいちゃんのために灯す初盆の提灯を、作ろうと思ったのである。

泣き虫なじいちゃんを、さらに泣かせる気満々の孫の

もっとみる

駆け出す夜に必要なもの。

とにかくもう頭を空っぽにしたくて飛び出す夜に大切なこと。

怒らないこと。
 
焦らないこと。
 
いらいらしないこと。 
 
考えないで前だけ見ること。

これ大切にしないと、もっと嫌なことが起こるからね。
 
あぁ、それから、
 
ちゃんと食べること。

川のほとりまで来て、ぽんわり月と星の散らばる空の下にいたら、自分がどれだけ矮小で、自分を苦しめるものがそれよりさらに小さいかがわかる。
 

もっとみる
それは寂しさだったけど、悲しみではなかったのだ。

それは寂しさだったけど、悲しみではなかったのだ。

最近、noteで書いた自分の言葉に自分が救われた出来事があった。
noteやっていて本当によかった、と思った出来事だった。

とても私事だ。そして、少し寂しい話である。

自分の中で整理もついたし、何よりタイトル通り、私の中で悲しいことではないので、自分のためにも文章として今の気持ちを残しておこうと思う。

じいちゃんをお見送りした。

転んでしまってしばらく入院していた。とても心配していた。容体

もっとみる
ガブローシュは歌う

ガブローシュは歌う

世界の情勢が、目まぐるしく変わっていく。 

私たちの知らない場所で、私たちが気づかないうちに、もしくは分からないように、大きな流れができているのかもしれない。

日本のメディアが報じない、アメリカ大統領選挙のことを知って。今現地の当事者の人たちが声を上げ始めていると知って。本当かどうかわからない。でもどうか、矛盾しているとは思いつつも「本当」が報われてほしいと、いてもたってもいられなくて、固唾を

もっとみる
引き算ではなく足し算のこの世界で。

引き算ではなく足し算のこの世界で。

必要とされたい、という気持ちが、なくなったような気がするこの頃。
あっ、暗い話ではないので先に言っておく。

自分がいなくても回る世界が愛しい。
月の話や、これまでのエッセイで何回か書いてきたように思う。

自分でも、どこか諦めかと思っていたのだ、正直を言うと。

さらに正直に言うと、全くネガティブではないかと言われればそうでもない。

責任に押し潰されて正社員という形の仕事を辞めた身としては、社

もっとみる
無音の輝き

無音の輝き

いつか居た場所への郷愁だろうか。
いつか行く場所への憧憬だろうか。

だからこんなに、寂しくあたたかく、静かに賑やかで、美しい。

冬のしんとした空気を纏う星空の、

小さくて確かな輝きと瞬きの中にオリオンを探すとき、

私はいっときだけ、「私」ではない、
ひとつの星に、還る。

海よ、また君は助けてくれるかい。

海よ、また君は助けてくれるかい。

真っ暗闇から引き上げられた経験がある。
私を助けてくれたのは、海だった。

もう6年前になるのだろうか。うつ状態になり、地元に帰っていた時期がある。薬も飲んでいたから眠たくて、食事を摂っては眠り、起きては泣く毎日だった。

家にはまだ中学生だった妹がいて、ちょうど受験勉強の最中。大変な時期にそんな状態の年上の兄弟がそばにいて、申し訳なく、情けなかった。

家族以外の人に会うことができなくなって、ず

もっとみる
足下の、小さなひかり。

足下の、小さなひかり。

私は貴方に出会いたいけれど、世界はとてもとても広いから。

私はどんなに頑張っても直接貴方を助けられない。手を差し伸べて、握ってあげることはできない。悩みを全部取り払って、笑わせてあげることも。

貴方も、私を直接助けることはできない。

助ける、と、救う、は似ているようでちがうと思うのです。

助ける、は、その一回で相手を引き上げること。

救う、は、積み重なっていくちいさいもの。
なんの気のな

もっとみる
一瞬の「虹の時間」を探して

一瞬の「虹の時間」を探して

空がなないろに輝く瞬間があるのだ。
虹が出る瞬間じゃなく、虹が空になる瞬間。

「1日の中でどの時間が好きか」と問われたら、かなり悩む。

朝の澄んで鋭い空気を吸い込む瞬間も好きだし、日が差してきてあったかくなり始める時間も好き。昼下がり、外をふらふらと散歩する時間も好きだし、夜の、しんとした空に星を探す時間も好き。

でも私が一番好きなのは、夕方、日が沈んだ直後くらいの時間だ。

太陽が沈んで行

もっとみる
足元を照らす、遠くの灯台

足元を照らす、遠くの灯台

海のない町に帰る

流れる風景、電車の窓
私と同じように海に別れを告げた誰かの額の跡

海のあおと空のあおが混ざる場所
山の上で耳を澄ますとちいさく響く波の音

ざざーん…ざざーん…

青、蒼、碧、、
どの色が
あの色のほんとの名前だろうか
あの美しさを伝えるにはどのことばを使えばよいだろうか

あぁ、私は帰るよ
私の選んだ町へ

ふるさとの町
心の灯台のある町
君の町は私の町

灯りは私に届くと

もっとみる
わたしの無人島

わたしの無人島

網戸がない家で網戸を一から手作りしたり、雨漏りを直したり、突然やってきた立ち退き要求と戦ったり、パワーはある。突然無人島に放り出されても、病気や怪我さえしていなければなんとかやっていけると思っている。

むしろ、楽しんでサバイバルできると思う。生き生きしている自分が目に浮かぶ。
と、思ってしまうくらい、この世の中で生きていくのが下手くそだ。

生き抜く力があって社会を生きていくメンタルがない。そん

もっとみる

霞の向こう側にさよならを。

私の誕生日を、いつも忘れる人がいる。
覚えていてほしいとどれだけ思っても、その日に連絡が来ることはない。そして、そのことを私はわかっている。彼女の気持ちの中にほんのちょっとでも私の居場所はないんだなあと思い知らされる日。そんな日が私は大嫌いだ。もう3年になる。

そうでなくとも、割とよく、昔から忘れられてきた。

友達がいなかったわけではないのに、なんでだろう。4桁ってそんなに覚えづらい?

いち

もっとみる