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エッセイ

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#掌編小説

【エッセイ】花はグロい

【エッセイ】花はグロい

 花は、グロテスクだ。

 断じて詩的な意味ではない。花を美しい、きれいだなんて思うのは、我々人間の、一種の思考停止だ。まやかしだ。花そのものを、見ていない。

 試しに今度、花を改めて観察して花びらのひとつひとつや茎や根や、花弁のなかをじっくりと見てみてほしい。花が発する臭気を感じてみてほしい。

 生々しくて、仕方がない。花は、生きることの、生の、かたまりみたいな形をしている。臓器のよう

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【エッセイ】詩人カメラ

【エッセイ】詩人カメラ

 詩が最もその力を発揮するのは「フォーカス」する力だ。ひとつの詩のなかでも、急にレンズを振り、アングルを変えることのできるカメラのように、縦横無尽に視点が変化する点が面白い。

 読者はその唐突さに、最初はついていけない。日常ではあり得ない、断片みたいなことばの羅列と、論理の飛躍や跳躍。心情やシーンについて詠っているくせに、一体他人に分からせる気があるのか、と憤慨したくなるほど、詩は不親切であ

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【エッセイ】テンプレートの乱

【エッセイ】テンプレートの乱


 わたしたちは、テンプレートを生きている。

 朝起きてから夜眠りにつくまで、テンプレートなことばが、毎日ひしめき合っている。
 人と話したり、メールしたりする内容なんて似たり寄ったりで、相手を怒らせないように気を遣って、常套句を吐き出す。世間仕様のわたしが発することばは、口に出す前に粒をそろえている。わたしの口は、わたしの意志とは別の生き物のようににゅるにゅると、自動運転で蠢く。

 大

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『猫を棄てる 父親について語るとき』 / 村上春樹(著)を読んで

『猫を棄てる 父親について語るとき』 / 村上春樹(著)を読んで

ページを繰るほどに、私が感じたこと。
この本はラジオのようだ。
村上春樹の声をそのまま聴いているようだ。

1.あらすじこれほどまでに、肩の力を抜いて、柔らかい口調で語りかけてくれる村上作品はちょっと他にないと思います。良い意味で、裏切られました。
うまく言えないけど、他人の家の庭に、勝手に入り込んでいる感覚。

本の内容は、村上の父の歴史(とその戦争体験)、父と一緒に海岸に猫を棄てに行く体験をは

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【エッセイ】一生の寝顔に捧ぐ

【エッセイ】一生の寝顔に捧ぐ

きみの名前は、「一生(いっせい)」と言います。これは、きみだけに宛てた手紙です。

これからきみが大きくなって、自分の道に迷ったとき、静かにでも確かに、内から温かい力をもらえるように、きみの名前の由来を記しておきます。

「ひとつの生、ひとつの命。君だけの一生を。」

それがパパとママがきみの名前に込めた、シンプルで、たったひとつの願いです。


ひとりの人間の生は、長いようで短いものです

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書きあぐねている人のための小説入門

ブックオフで『書きあぐねている人のための小説入門』という文庫本を買った。

読んでいたら、
「とりあえず書きあぐねている場合じゃないからさっさと紙に書け」と言われた。

次の日、僕はその文庫本をブックオフに売った。
大丈夫、元は取れた。きっと名著に違いない。

【エッセイ】脳内師匠と星の見えない夜

【エッセイ】脳内師匠と星の見えない夜

私が小説家について語るとき、放課後の誰もいない小学校の、音楽室を思い出す。

バッハ、モーツアルト、ベートーヴェン。
壁一面にずらりとならんだ作曲家たちの肖像画。生きた時代も、生まれた国も、世の評価を受けた歳だって皆ばらばらなのに、彼らは一団として、ぞろぞろと教室を見守っている。
ましてや、死んでから生前の楽譜を掘り起こし、再評価され、額縁に収まった人もいるというのに。

正装に身を包んだ彼らは、

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