月子

本を読む。テレビをみる。パソコンの前に座る。時々活動的になる。

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記事一覧

隣り合わせⓂ︎

 うまくいかない  僕が忘れたアラームが鳴る。  どんな時間に起きてもシャワーは浴びる。  シリアルの為の残りの牛乳をそのまま飲む。  いつもの荷物を手に取る。  …

月子
3日前

隣り合わせ®️

 ほんの少しズレている。  私は朝が好き。  朝食の前の一杯の珈琲が好き。  出かける時の荷物は、軽い方がいい。  靴は右から履いて、左から歩き出す。  暑い日は避…

月子
10日前

なかまいり

 「おはよ」  それ以外の言葉を交わせない私は、そっとその輪の中から離れて席に着く。  輪の外側はそれぞれがよく見える。  輪の中心の彼は、皆んなに平等に顔を向け…

月子
2週間前

空談②

 ひとりになった部屋は案外広いと思ったが、断捨離したから広く感じるのかも。  もう、百華もいない。  いつも家に来る時は面倒だと思っていて、でも私からは何も話さな…

月子
3週間前

11話

 なんで皆んなここにいるのだろう?  そう思うけれど、言葉にはしない。  百華はたまたまだって言っていたし。  久しぶりに逸の背中が見えた時は嬉しかったし。  聿は…

月子
1か月前

10話

 目が覚めた。  スマホを見ると、11時ちょっと過ぎた辺りだった。  さすがにお腹が空いて、起きたみたいだ。  メッセージを確認しながら、冷蔵庫を開ける。  聿からは…

月子
1か月前

空談①

 僕は賢い子どもだった。  たくさんの本を読んで、言葉を覚え知識を増やした。  年齢よりもませた子どもだった気がする。  母は、僕を賢い子だと頭を撫でる。  父は『…

月子
1か月前

9話

 怖い顔した聿を逸が何とかなだめてくれて、安心した私は又眠りについた。  次に目が覚めた時にはもう聿は居なくて、逸の気まずそうな顔が私の側にあった。  きっと聿…

月子
1か月前
1

8話

 熱を出した。  心も身体も疲れて、食事も喉を通らない。  とはいえ、服を脱いで下着のまま何となく上掛けを羽織ったような状態で寝てしまった私の自業自得でしかない。…

月子
1か月前

7話

 私の苦手な事。  止めどなく話しかけてくる人たちの空間に置かれる事。  父の3回忌法要は、聿と叔父が取り仕切っている。  母は、ボーっとしている。  親戚は父の話…

月子
2か月前

6話

 「まぁた風呂場で寝てる」  浴槽の縁にもたれて目を閉じている私は、目を閉じたまま『寝てない』と答える。  そろそろ上がりたいと思っているのに、逸がいたら上がれな…

月子
2か月前
1

5話

 冷えた体がようやく温まってくる。  小さなお鍋でお湯を沸かして、はちみつ紅茶を入れてくれる。  逸(すぐる)は不器用なぶん、できるまで集中する人。  お茶を淹れ…

月子
2か月前

4話

 夜の散歩はいつからだろう。  小さい頃、眠れない私たちを母が外に連れ出す。  夜の公園は少し怖かったけれど、そこへ行くまでの景色は好きだった。  繋ぐ手が、強く…

月子
2か月前

3話

 兄の聿(いつ)が半月ぶりに訪ねて来た。  私と違って会社勤めをしている聿は、忙しい。  大学から一人暮らしをしていたが、私が家を出る事となり、入違いに家に戻った…

月子
3か月前
1

まるまる

 3年ぶりに風邪をひいた。  暖かい部屋に、ベッドの横でモクモク湯気が立つ。  喉がカラカラで水が欲しい。  そう思っていると、冷たい水が私の目の前に差し出される…

月子
3か月前

いとおしい

 「いたっ」  今朝もまた、ボクの隣で耐えている。  冬の日は、手を繋ぐだけで邪魔が入る。  ボクは全然痛く無いけれど、まこちゃんは痛いよね。  すごく大きなバチっ…

月子
3か月前
隣り合わせⓂ︎

隣り合わせⓂ︎

 うまくいかない

 僕が忘れたアラームが鳴る。
 どんな時間に起きてもシャワーは浴びる。
 シリアルの為の残りの牛乳をそのまま飲む。
 いつもの荷物を手に取る。
 これで、寝ぐせと忘れ物は無い。
 靴は誕生日に貰ったモノを履く。
 メッセージを確認しながら外に出る。
 今日も多分間に合わない。
 大きくは無いけれど、小さく約束を破る。
 いつも何も言わない。
 「ごめん」「ありがとう」にも。
 

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隣り合わせ®️

隣り合わせ®️

 ほんの少しズレている。

 私は朝が好き。
 朝食の前の一杯の珈琲が好き。
 出かける時の荷物は、軽い方がいい。
 靴は右から履いて、左から歩き出す。
 暑い日は避ける。
 お出かけには、よく雨がついてくる。
 傘は折り畳み、大きいのはいらない。
 本屋へ視察へ行く。
 ホームセンターでぐるぐるする。
 コンビニ限定アイスを食す。
 待ち合わせには5分前に着く。
 着けない日は落ち込む。
 早く

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なかまいり

なかまいり

 「おはよ」
 それ以外の言葉を交わせない私は、そっとその輪の中から離れて席に着く。
 輪の外側はそれぞれがよく見える。
 輪の中心の彼は、皆んなに平等に顔を向けている。
 そんな彼に積極的に話しかける人、焦って相槌を打つ人、彼の隣で自然に腕に触れる彼女は昨日よりも距離が近い。
 以前の私なら落ち込んで、諦めて、人知れず泣いていた。

 「どうしたの?」
 俯き目を擦る私に優しく声をかける。
 「

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空談②

空談②

 ひとりになった部屋は案外広いと思ったが、断捨離したから広く感じるのかも。
 もう、百華もいない。
 いつも家に来る時は面倒だと思っていて、でも私からは何も話さなくていいから楽だと思っている。

 聿は今の時期は忙しいらしい。
 聿だけが愛される人間に育ったその分を、私は愛される事なく過ごすのが当たり前と思っていた。
 その罪悪感で聿は自由を失う。
 可哀想という言葉だけが頭に浮かぶが、心は伴って

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11話

11話

 なんで皆んなここにいるのだろう?
 そう思うけれど、言葉にはしない。
 百華はたまたまだって言っていたし。
 久しぶりに逸の背中が見えた時は嬉しかったし。
 聿は逸と普通に話をしていたし。
 『どうして』なんて考えても仕方ない事だ。

 ふたりを家に入れたはいいが、すぐに話をするのは避けたくて、『お腹すいたから…』と私は料理を始めた。
 ご飯はそんなに炊いてなかったから慌てて、人参とかごぼうとか

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10話

10話

 目が覚めた。
 スマホを見ると、11時ちょっと過ぎた辺りだった。
 さすがにお腹が空いて、起きたみたいだ。
 メッセージを確認しながら、冷蔵庫を開ける。
 聿からは『お前からの説明も聞く』と、逸からは『とりあえず帰る』『しばらく夜の散歩は無し』とあった。
 逸はしばらく私の所には来ないと言うメッセージだ。
 覗いた冷蔵庫には、飲み物と私の好きな物が補充されていて、聿の優しさを感じた。
 だから逸

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空談①

空談①

 僕は賢い子どもだった。
 たくさんの本を読んで、言葉を覚え知識を増やした。
 年齢よりもませた子どもだった気がする。
 母は、僕を賢い子だと頭を撫でる。
 父は『もっと好きな事して我儘を言ってもいいよ』と言って頭を撫でる。
 僕は好きな事してる。
 だから父の気遣いに納得できないでいた。
 そんな僕に『零と混ぜて中和したらいいかもね』なんて笑う。

 零も途中まで賢い子だと、母から頭を撫でてもら

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9話

9話

 怖い顔した聿を逸が何とかなだめてくれて、安心した私は又眠りについた。

 次に目が覚めた時にはもう聿は居なくて、逸の気まずそうな顔が私の側にあった。
 きっと聿に責められたと思うと、申し訳ない気持ちになる。
 「ごめんね」
 そう言って顔を隠す様に、逸の胸にしがみつく。
 「大丈夫」
 いつもみたいに、私の頭を撫でてくれる。
 逸は私の撫でて欲しいところがわかる。
 「もっと色々なところ撫でて」

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8話

8話

 熱を出した。
 心も身体も疲れて、食事も喉を通らない。
 とはいえ、服を脱いで下着のまま何となく上掛けを羽織ったような状態で寝てしまった私の自業自得でしかない。
 這いずって冷蔵庫まで行くも、食材はあるが飲み物は全く無かった。
 普段冷たい物を口にしないので、茶葉とか、お湯を注ぐだけのインスタント的な物しかなく、いつも使っているウォーターボトルを持ってベッドへ戻った。
 とりあえず喉が潤えはいい

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7話

7話

 私の苦手な事。
 止めどなく話しかけてくる人たちの空間に置かれる事。

 父の3回忌法要は、聿と叔父が取り仕切っている。
 母は、ボーっとしている。
 親戚は父の話をしたり…互いの苦労話しや自身の子どもの自慢話を声高に語る。
 どれも私には無い話しなので、返事に困る。
 必死に相槌だけを繰り返す私に、相変わらず鈍臭いと言われてしまった。
 それ以降は、おじやおば達に振り回されて過ごした。
 母は

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6話

6話

 「まぁた風呂場で寝てる」
 浴槽の縁にもたれて目を閉じている私は、目を閉じたまま『寝てない』と答える。
 そろそろ上がりたいと思っているのに、逸がいたら上がれない。
 別に恥ずかしいとかでなく、後ろめたい?が正解かもしれない。
 でも、逸がその手にタオルを構えているという事は、上がって来いという事だから。
 大人しく逸に従う。
 私の身体をタオルで包む時、やっぱり嫌な顔をした。
 「だって…別れ

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5話

5話

 冷えた体がようやく温まってくる。
 小さなお鍋でお湯を沸かして、はちみつ紅茶を入れてくれる。
 逸(すぐる)は不器用なぶん、できるまで集中する人。
 お茶を淹れるのも、聿から長時間指導を受けたみたいだ。
 そんな逸は、私みたいなのにつけ込まれる優しい人。

 中学生だった時、保健室通いが通常の私は、皆んなから好かれていなかった。
 私を『認知しない』『どうでもいい』『見下している』のどれかだった

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4話

4話

 夜の散歩はいつからだろう。
 小さい頃、眠れない私たちを母が外に連れ出す。
 夜の公園は少し怖かったけれど、そこへ行くまでの景色は好きだった。
 繋ぐ手が、強く握られた時に気がついた。
 本当に眠れないのは、母の方だと。

 今も夜の散歩は好きだ。
 ひとりで歩くとトテトテと音がついてくる。
 新しいアンクルプーツは軽い。
 雲間の月は明る過ぎず、安心する。
 夜の散歩は、いつもひとりの私が、寂

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3話

3話

 兄の聿(いつ)が半月ぶりに訪ねて来た。
 私と違って会社勤めをしている聿は、忙しい。
 大学から一人暮らしをしていたが、私が家を出る事となり、入違いに家に戻った。
 祖父らが住んでいた古い家を建て直し、それを聿が譲り受けたからだ。
 聿が結婚してからでも、と思っていた父が亡くなった事で早まったのだ。
 その当時付き合っていた彼女は、聿の自由さを好んでいたらしく、家に戻る事で母を、私を負担に感じる

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まるまる

まるまる

 3年ぶりに風邪をひいた。

 暖かい部屋に、ベッドの横でモクモク湯気が立つ。
 喉がカラカラで水が欲しい。
 そう思っていると、冷たい水が私の目の前に差し出される。
 優しい声が聞こえて、すべすべの手がおでこに触れる。
 ちょっと恥ずかしい。
 今の私は唇はかさかさで、ボサボサの髪。
 手は荒れていて、あのすべすべの手を握り返す事もできない。
 小さい頃は親が共働きで、誰にもこんなふうに看病して

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いとおしい

いとおしい

 「いたっ」
 今朝もまた、ボクの隣で耐えている。
 冬の日は、手を繋ぐだけで邪魔が入る。
 ボクは全然痛く無いけれど、まこちゃんは痛いよね。
 すごく大きなバチっていう音と火花。
 だからお母さんに聞いて、洋服に気をつけて、水をたくさん飲んだ。
 でも何故か、どんな状態でもボクは痛く無くて、まこちゃんは痛い。
 痛みに耐えてるまこちゃんの頭をなでると、またバチって小さく音がした。
 ボクは「ごめ

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