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無為なる日々

 突然母親の干渉が無くなった。
 面倒くさくなったのだと思う。
 元々料理が得意なわけでもないのに、病院に行くたびに指導を受けるのが嫌になっていったのだと思う。

 私は正直なところホッとした。
 一緒に診察室に入ろうともしない事に。
 美味しくもない料理に感謝する事も。
 知り合いとの会話の中に、私を心配する母の様な顔を見る事にも。
 だからひとりで医者の話を聞き、ひとりで薬を管理して、ひとりで食事に気をつけた。
 難しい事はない、薬は1日2回食事前に飲めばいいし、食事は自分で作る事もできた。
 1番厄介だったのが、医者との対話だった。
 『保護者の方と一緒に』と言われてしまうからだ。
 でも、手術をするわけでもなく、話を聞いて薬をもらうだけなのだからそのうちうるさく言わなくなった。
 私が中学生になった事で、大人ではないけれどそれなりに分別がつく年頃であり、逆に母親の無関心な態度の方が問題と考えての事だと思う。

 それからは何も無かった。
 本当に診察を受けて、薬をもらって、たまに検査をする。
 相変わらず貧血が良くなることはなかったが、注意していればひどくなる事もなく、日常になった。
 しだいに病院も定期的に行く事をせず、具合が良くない時にだけ診察を受けていた。
 医者は怒っている様子だったが、私は無視をして薬をもらう。

 大学は家を出てひとり暮らしを始めて、病院へも行かなくなった。
 貧血がくる事が事前にわかる様になったので、倒れたりしなくなった。
 今だに朝はちゃんと起きれるし、夜も寝付きがいい。
 私的には健康だと思って過ごしている。
 人見知りも相変わらずで、友だちが少ない分、ストレスも少ない。
 付き合っている人もいたりしたが、直ぐに別れてしまう。
 私に執着を向ける人はいないのだろう。
 だから少し楽しい時を過ごして、険悪になる前にいなくなってしまうので、これもストレスは無い。
 母親の干渉も無くストレスが無い。

 だから、私は煩わされる事のない日々を過ごせていた。

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