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ショートストーリー

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②もどかしくもあり

②もどかしくもあり

 「そーいえば」
 寝ていたのかと思ったのに急にきた。
 「うん?」
 ようやく眠れそうだった私は機嫌が悪い。
 「今度の金よう、ダメになった」
 そう言ってまた寝よとする。
 「いや、いや、ちょっと待って」
 一気に覚醒した頭がクラクラする。
 「その日最終日。チケット取ったんだけど。ほんとは初日に行きたかったの一緒に行くって言うから待ったんだけど?」
 捲し立てる私に今度は彼の方が機嫌が悪くな

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①やらずの

①やらずの

 外は雨が降っている。
 「おっかしいなぁ…」
 「う…ん 何が?」
 呟く声に起こされて、彼のひとり言に聞いてみた。
 「……俺、晴れ男のはずなのに、お前といるといつも雨に降られるなぁと思って」
 まだダルさの抜けない身体を起こして、小窓から外を眺める。
 「いつから降ってるの?」
 「ちょっと前?」
 雨の音で起きちゃったと、何故か嬉しそうに言う彼。
 「昼間暑かったもんね、私のせいじゃないよ

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あるもの

あるもの

 普通に生きるってどうするのだろう。

 早くもなく、遅くもない年齢で結婚する事?
 子どもを産んで、優しい母親になる事?
 何事も出しゃばらず、そつなくこなしていく事?
 どれも私には難しい事ばかりで、それがら出来ている人を敬い、畏れている。
 それに、周囲に影響されず自分を通す強さも無い。
 私の中で普通という事が、失望にカタチを変えて届くので、やる気を無くしていくのだ。

 私は結婚する事は

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いつものように

いつものように

 私の手に包み込まれたホットミルクを、ゆっくり飲む。
 それでも徐々に冷えていく。
 そうやって忘れてしまう色々な事にいつまでも怯えて、なかなか眠る事ができない。

 ……寝過ごす。
 とは言っても、私は在宅勤務で週1の打ち合わせ以外は自由の身である。
 もう少し早く起きれていたら二度寝ができたのにと、少し残念。
 「お腹空いた〜」
 空腹に勝てず、勢いよく起き上がる。
 だって1日の中で1番朝食

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原因

原因

 ひとりは寂しい。
 特に熱の出た夜とか、咳が止まらず胸が痛いとか、水を飲むだけで喉がヒリヒリするとか、ベットに丸まって寝ている私とか。

 久しぶりの風邪に辛くて、辛くて。
 ひたすら寝て治す方針のうちの家系は、薬を常備してない。
 それに倣って、一人暮らしをしている私も常備してない。

 熱が出ようと、身体がだるかろうと、ご飯を食べて、一晩寝て治す父と兄。
 日々の努力を怠らない、免疫力の高い

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金木犀

金木犀

 あの角を曲がると長く続く壁からきれいに剪定された金木犀。
 花が香り始めると思い出す。
 朝は早く家を出て、ゆっくり学校まで行くようにしていた。
 この長く続く壁に沿って歩くのが好きで、頭を空っぽにすら時間にしていた。
 嫌な事があっても寝たら忘れられればいいのに、なかなか忘れられない。
 だから、この壁に手を軽く添えて目を瞑りながら歩くと忘れられる様な気がして時々そうして朝の時間を過ごしていた

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会いにくる理由

会いにくる理由

 蒸し暑さにやられて寝不足気味の私。
 でも今は朝からの雨で少し肌寒いくらいだ。
 そして隣で手が冷たいと、私の首から背中にかけて暖かい所を探すこの男は多分恋人とは呼べない人。

 私がこのマンションに越してきた日はあいにくの雨の日だった。
 それでも、多くない荷物に『助かった〜』と話す若い業者さんにお礼を言って予定より早くひとりになれた。
 (おまかせプランにしておいて良かった)
 濡れた服を脱

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隣り合わせⓂ︎

隣り合わせⓂ︎

 うまくいかない

 僕が忘れた予定をアラームが知らせる。
 どんな時間に起きてもシャワーは浴びる。
 シリアルの為の残りの牛乳をそのまま飲む。
 いつもの荷物を手に取る。
 これで、寝ぐせと忘れ物は無い。
 靴は誕生日に貰ったモノを履く。
 メッセージを確認しながら外に出る。
 今日も多分間に合わない。
 大きくは無いけれど、小さく約束を破る。
 彼女は僕に何も言わない。
 彼女との約束の日に友

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隣り合わせ®️

隣り合わせ®️

 ほんの少しズレている。

 私は朝が好き。
 朝食の前の一杯の珈琲が好き。
 出かける時の荷物は、軽い方がいい。
 靴は右から履いて、左から歩き出す。
 暑い日は避ける。
 お出かけには、よく雨がついてくる。
 傘は折り畳み、大きいのはいらない。
 本屋へ視察へ行く。
 ホームセンターでぐるぐるする。
 コンビニ限定アイスを食す。
 待ち合わせには5分前に着く。
 着けない日は落ち込む。
 早く

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空談②

空談②

 ひとりになった部屋は案外広いと思ったが、断捨離したから広く感じるのかも。
 もう、百華もいない。
 いつも家に来る時は面倒だと思っていて、でも私からは何も話さなくていいから楽だと思っている。

 聿は今の時期は忙しいらしい。
 聿だけが愛される人間に育ったその分を、私は愛される事なく過ごすのが当たり前と思っていた。
 その罪悪感で聿は自由を失う。
 可哀想という言葉だけが頭に浮かぶが、心は伴って

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11話

11話

 なんで皆んなここにいるのだろう?
 そう思うけれど、言葉にはしない。
 百華はたまたまだって言っていたし。
 久しぶりに逸の背中が見えた時は嬉しかったし。
 聿は逸と普通に話をしていたし。
 『どうして』なんて考えても仕方ない事だ。

 ふたりを家に入れたはいいが、すぐに話をするのは避けたくて、『お腹すいたから…』と私は料理を始めた。
 ご飯はそんなに炊いてなかったから慌てて、人参とかごぼうとか

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10話

10話

 目が覚めた。
 スマホを見ると、11時ちょっと過ぎた辺りだった。
 さすがにお腹が空いて、起きたみたいだ。
 メッセージを確認しながら、冷蔵庫を開ける。
 聿からは『お前からの説明も聞く』と、逸からは『とりあえず帰る』『しばらく夜の散歩は無し』とあった。
 逸はしばらく私の所には来ないと言うメッセージだ。
 覗いた冷蔵庫には、飲み物と私の好きな物が補充されていて、聿の優しさを感じた。
 だから逸

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空談①

空談①

 僕は賢い子どもだった。
 たくさんの本を読んで、言葉を覚え知識を増やした。
 年齢よりもませた子どもだった気がする。
 母は、僕を賢い子だと頭を撫でる。
 父は『もっと好きな事して我儘を言ってもいいよ』と言って頭を撫でる。
 僕は好きな事してる。
 だから父の気遣いに納得できないでいた。
 そんな僕に『零と混ぜて中和したらいいかもね』なんて笑う。

 零も途中まで賢い子だと、母から頭を撫でてもら

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9話

9話

 怖い顔した聿を逸が何とかなだめてくれて、安心した私は又眠りについた。

 次に目が覚めた時にはもう聿は居なくて、逸の気まずそうな顔が私の側にあった。
 きっと聿に責められたと思うと、申し訳ない気持ちになる。
 「ごめんね」
 そう言って顔を隠す様に、逸の胸にしがみつく。
 「大丈夫」
 いつもみたいに、私の頭を撫でてくれる。
 逸は私の撫でて欲しいところがわかる。
 「もっと色々なところ撫でて」

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