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原因

 ひとりは寂しい。
 特に熱の出た夜とか、咳が止まらず胸が痛いとか、水を飲むだけで喉がヒリヒリするとか、ベットに丸まって寝ている私とか。

 久しぶりの風邪に辛くて、辛くて。
 ひたすら寝て治す方針のうちの家系は、薬を常備してない。
 それに倣って、一人暮らしをしている私も常備してない。

 熱が出ようと、身体がだるかろうと、ご飯を食べて、一晩寝て治す父と兄。
 日々の努力を怠らない、免疫力の高い姉。
 全てを放棄し、ひたすら水分と睡眠をとりベッドから離れない母。
 何故か滅多に風邪をひかない私。

 今の私は風邪に対抗する力も無く、熱で頭が痛すぎて泣く。
 胸の痛みは咳のせいじゃなくて、ひとりのせいかもと情けなく泣く。
 喉のヒリヒリに阻まれて、水を吐き出してしまって泣く。
 自分を抱きしめて、身体がバラバラになったらと恐怖に泣く。

 そしていつの間にか、深く深く眠りにつく。


 音や光、人の気配に目が覚める。
 いつの間にか朝で、TVの音が隣から聞こえて、人の動く気配がわかる。
 ぼっーとした頭が少しづつ認識しだす。
 それでも身体は動けない。
 しばらくして、満面の笑みで部屋を覗く人。
 ひとりだった筈がふたりになっていた。
 更に私に差し出された無骨なお粥。
 ひと口私の中に。
 もうひと口私の中に。
 「ふぅ〜」と息を吐いて更にもうひと口私の中に。
 嬉しいけれど、もう入らない。
 でも少し食べられた事を褒めてくれる。
 大きな手が近づいて、おでこに頬に首に這わせる。
 くすぐったいけれど、心地よい。
 「熱下がったね」
 「うん」
 「今日一日ゆっくり寝てな」
 「うん」
 「俺の仕事休みで良かったな」
 「うん」
 「一日一緒にいてあげるよ」
 「ありがとう」
 「寝てな」
 「うん」
 嬉しいふたりの会話。
 あぁ、安心して眠くなる。
 うとうとしながら……

 ふと目が覚めて思った。

 風邪あんたからうつされたよね。

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