見出し画像

くずれる

 何度目かのトラバーチン模様を眺めていつも思う。
 『虫みたい』
 小さい頃から通うここにはもう慣れた。
 でも、初めてここで目が覚めた時は、その後もう眠れないと思った。
 あの虫が落ちてくる夢を見そうで、目を閉じられなかった。
 泣いて家に帰りたがったが、許してもらえす母を困らせた。

 手の中にあるこの赤い錠剤が苦手だ。
 初めての時は毒々しく見えて、飲み込むのを拒否した。
 この赤い色には慣れないが、飲み込む事には慣れていった。
 飲めるが、その後気持ち悪くなるのだ。
 吐きそうで吐けない感じの気持ち悪さに飲めないと泣き、医者に嫌な顔された。
 「副作用が少ないし、飲み続けないと意味ない」
 と呆れたように言われて絶望しかなかったが、諦めるしかないのだと思った。
 それも11歳の女の子には仕方のない事ではないのか…と今は思う。

 その日まで、気がつかなかった。

 朝はスッキリ起きて、夜はすぐに寝付く。
 身長は平均より少し高めで、体重は少し少ない。
 体育は得意で、勉強は並だったと思う。
 私は普通という日常を過ごしてきたから。

 だけれど、その日は何となく違和感があった。
 寝た筈なのに寝不足。
 お腹が空いているのに、食べたくない。
 軽いはずの体が重い。
 ふらふらする。
 そんな時に限って、全校集会なんてものがあったりする。
 体育館のこもった熱気に我慢できず、その場に座り込もうとした時、バランスを崩して倒れてしまった。

 保健室で目が覚めてトラバーチン模様を初めて見た。
 その後養護教諭から初潮がきた事と、倒れた時に結構な量の出血があった事、ほんの少し騒ぎになった事を伝えられた。
 でも、知らない人から顔を覗かれたり、私を見てコソコソ話をする人なんかがいて、多分大きく騒ぎになったんだと思った。
 暫くそんな事が続いたから、物怖じしなかった私から内向的に変わっていった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?