見出し画像

金木犀

 あの角を曲がると長く続く壁からきれいに剪定された金木犀。
 花が香り始めると思い出す。
 朝は早く家を出て、ゆっくり学校まで行くようにしていた。
 この長く続く壁に沿って歩くのが好きで、頭を空っぽにすら時間にしていた。
 嫌な事があっても寝たら忘れられればいいのに、なかなか忘れられない。
 だから、この壁に手を軽く添えて目を瞑りながら歩くと忘れられる様な気がして時々そうして朝の時間を過ごしていた。
 
 今も私は壁に手を軽く添えて目を瞑り歩いていた。
 門の近くまで来たら一度止まって、心の中で(1…2…3…4…5)と数えてゆっくり目を開ける。
 私の前に同じ学校の制服を着た男の子がいる。
 不思議そうに私を見ている。
 恥ずかしさで慌てて横を通り過ぎてバス停へ急ぐ。
 でも同じバスに乗り、気まずさと、初めて心にかかる何かに戸惑いながら嫌ではないと感じた学校までの距離。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?