マガジンのカバー画像

インターン記者の記事

50
月に吠えるのインターン記者たちが企画~取材・執筆まで手掛けた記事です。
運営しているクリエイター

記事一覧

芥川龍之介『煙草と悪魔』から考える、耳への種の収納方法

芥川龍之介『煙草と悪魔』から考える、耳への種の収納方法

 朝の通勤電車、運よく座席に腰を下ろすことができた。昨日の睡眠不足を解消しようかと思ったが、次の駅でおばあさんが乗ってきたので、勇気を出して席を譲る。物珍しそうに筆者を観察しながら、「ありがとうねえ。優しい子だねえ」と目を細め、「お礼にこれをどうぞ」と筆者の手のひらに「何かの植物の種」を乗せた。

 突如として見知らぬおばあさんから「何かの植物の種」をもらった筆者。その場で振り払うわけにもいかず、

もっとみる
よくわからないものが登場する小説3選

よくわからないものが登場する小説3選

 突然ですが、みなさんは最後に「?(はてな)」が残る小説はお好きでしょうか?

 例えば、ルイス・キャロル作「不思議の国のアリス」のチェシャ猫は物語の中で最高クラスにわけがわからないキャラクターですし、夢野久作の代表作「ドグラ・マグラ」は物語自体の正体がわからない作品です。

 筆者はこのような、明らかにならない存在が登場する物語に、妙な趣を感じてなりません。あれはなんだったのだろうと考えているう

もっとみる
現代の絶滅危惧種?ある文芸評論家の”書生”をしていた青年の数奇な半生

現代の絶滅危惧種?ある文芸評論家の”書生”をしていた青年の数奇な半生

 「書生」をしていたという人に会った。この平成の世においてである。

 浪漫派の作家・泉鏡花は尾崎紅葉の書生をやっていた。私小説作家・藤澤淸造も斎藤隆夫という弁護士の書生であった。しかしそれらは明治の話である。

 そんな21世紀において絶滅危惧種である職業の経験者は、世希哲(せきさとる・筆名)さん、47歳。彼は某文芸評論家の書生を10年間やっていた。

君の住むところを確保しといたから 世希さん

もっとみる
白塗りメイク、学生帽でライブ…アングラ文化を継承したバンド「フーテン族」の実態

白塗りメイク、学生帽でライブ…アングラ文化を継承したバンド「フーテン族」の実態

 アングラ演劇で知られる寺山修司の作品を彷彿とさせる、白塗りの妖艶なボーカル、それを取り巻く奇抜なメンバー。彼らは強烈なビジュアルと渋くて重厚なサウンドを兼ね備えているバンド、「フーテン族」だ。2024年2月には、「はっぴいえんど」や「裸のラリーズ」など伝説のロックバンドを輩出してきた渋谷B.Y.Gで初のワンマンを決行。

 数多のバンドが乱立する中、明らかに異彩を放っているフーテン族。彼らの独特

もっとみる
本を買うとき文庫本派?単行本派?アンケートを取ったら共感と発見ばかりだった

本を買うとき文庫本派?単行本派?アンケートを取ったら共感と発見ばかりだった

 筆者は断然、文庫本派だった。本屋へ行くと真っ先に文庫本コーナーに向かう。書店員の書いたポップを眺めつつ、惹かれた一冊を手に取る。背表紙のあらすじを読んで、「うん。やっぱり面白そう」。小さくて持ち運びしやすいし、価格も単行本に比べれば求めやすい。

 しかし、筆者は今、単行本派に傾こうとしている。きっかけは半年前に始めたバイトだ。今までのバイトより時給が高くて、筆者は貧乏大学生からプチリッチ大学生

もっとみる
ポアロ、ホームズ、金田一耕助……推理小説のような名探偵は本当にいるのか?現役の探偵に聞いてみた。

ポアロ、ホームズ、金田一耕助……推理小説のような名探偵は本当にいるのか?現役の探偵に聞いてみた。

 シャーロック・ホームズやエルキュール・ポアロ、金田一耕助など、物語の世界には数多くの名探偵が存在する。誰もが見落とすようなことに気づく着眼点で疑問を抱き、その推理力で瞬時に謎を解き、犯人を追いつめていく……そんな名探偵は実在するのだろうか? 疑問を解決すべく、取材を敢行した。

 協力いただいたのは、今まで数十社の探偵社の立ち上げを手掛け、自身も探偵事務所を運営するSさんだ。

ホームズのような

もっとみる
世界チャンピオンから作家へ転身したボクサー、ホセ・トーレス プエルトリコの英雄と呼ばれた男の半生

世界チャンピオンから作家へ転身したボクサー、ホセ・トーレス プエルトリコの英雄と呼ばれた男の半生

 プロボクサーの”モンスター”こと井上尚弥による2階級・主要4団体での王座統一や、”神童”と呼ばれたキックボクサー・那須川天心の転向など、ボクシング界に注目が集まっている。

 ボクシングに関する本と言えば、沢木耕太郎が悲運のボクサー・カシアス内藤の半生を描いた名著『一瞬の夏』や、百田尚樹がファイティング原田とライバルたちの激闘を描いた『黄金のバンタムを破った男』、マイク・タイソンによる自伝『真相

もっとみる
手づかみで食事、全身タイツでバク転…”日芸”こと日本大学芸術学部の日常もなかなかカオスなんです

手づかみで食事、全身タイツでバク転…”日芸”こと日本大学芸術学部の日常もなかなかカオスなんです

 東京藝術大学は日本最高峰の芸術家の卵が集うことで有名な学び舎。『最後の秘境 東京藝大 天才たちのカオスな日常』は、藝大卒の奥様を持つ作家の二宮敦人先生が、5年間に渡り東京藝大を取材してできた探訪記です。

 藝大生として過ごすのに一体どれだけのお金がかかるのか、その先にある進路はどうなのか。彫刻と工芸は実用性の有無で芸術か、そうでないかが決まるのか、など。面白いトピックに溢れていて、とても読み応

もっとみる
芥川龍之介も悩まされた「視野をふさぐ半透明の歯車」の正体は片頭痛の前兆だった

芥川龍之介も悩まされた「視野をふさぐ半透明の歯車」の正体は片頭痛の前兆だった

 雨の日は決まって頭痛におそわれる……そんなことありませんか? それ、もしかして片頭痛じゃないでしょうか?

 日本人のおよそ8%が片頭痛持ちで、更にその内の20~30%に「閃輝暗点(せんきあんてん)」と呼ばれる前兆症状があらわれると言われています。「閃輝暗点っていったいなに?どんなもの?」と思った方、以下の文章を読んでみてください。

 これは、芥川龍之介が晩年に執筆した私小説的作品『歯車』から

もっとみる
文学フリマに未経験・知識ゼロで出店したら新たな世界を開拓できた話

文学フリマに未経験・知識ゼロで出店したら新たな世界を開拓できた話

「本、売ってみませんか?」

 月に吠える通信編集長からの突然のお誘いメールに、戸惑い迷いました。本を売ると言っても、書店員になるわけではありません。同人誌の即売会イベント「文学フリマ」福岡で、店番をしないかと打診されたのです。

 読者としてしか本に関わったことのない私が販売する、ということ。驚きと興味が同時にやってきて、わくわくした気持ちでそのチャンスをつかみ、こう返信しました。

「ぜひ、や

もっとみる
大江健三郎が描く、知的障がい者の兄を持つきょうだいたちの「静かな生活」とは何か?

大江健三郎が描く、知的障がい者の兄を持つきょうだいたちの「静かな生活」とは何か?

「LGBTは生産性がない」ある政治家はそう自論を展開した。神奈川県の障がい者福祉施設で無差別殺人を起こした犯人は、「意思疎通のとれない障がい者は生きる価値がない」と繰り返した。

 生産性で人の生きる価値が決まってしまうのだとしたら、そんな社会はとてつもなく味気なく、つまらないものに感じる。それぞれの個性や人生の味わい深さを尊重する社会であったら。大江健三郎の小説『静かな生活』を紹介しながら、考察

もっとみる
就活に身が入らない…その理由をサルトル『嘔吐』から読み解いてみた

就活に身が入らない…その理由をサルトル『嘔吐』から読み解いてみた

 就活に対してどこか憂鬱さを感じている方がいたら、紹介したいのがサルトルの小説『嘔吐』です。

 大学4年生の筆者は就活に対してどこか腑に落ちないところがあり、なかなか手がつかない状況の中でこの本に出会いました。読み進めるにつれ、主人公ロカンタンの抱く吐き気の不快が、自分の抱く就活へのモヤモヤと似通っているものなのではと考え始めたのです。

『嘔吐』とは 題名の通り、主人公ロカンタンの吐き気をめぐ

もっとみる
「木の根」がコンセプトのブックカフェ 倉庫に広がる”好きなものだらけ”の世界観

「木の根」がコンセプトのブックカフェ 倉庫に広がる”好きなものだらけ”の世界観

 福岡の南、大牟田市の街中に、青い倉庫のような建物がたたずんでいます。そこは、人が絶えず出入りするtaramu books&café。暖簾をくぐり木戸を開けると、奥の部屋にはハシゴが必要なほど高く並べられた本と雑貨たち。2階の喫茶スペースへとつながるスリリングな螺旋階段をのぼると、雑誌と木のテーブル・椅子が並んでいます。

 一体どのようにこの空間をつくりあげたのでしょうか。そして、なぜこの場所で

もっとみる
諦めや憂鬱を歌うロックバンド・yonigeの歌詞が祈りである理由

諦めや憂鬱を歌うロックバンド・yonigeの歌詞が祈りである理由

 疲れたとき、落ち込んだとき、あなたはどんな音楽を聴くだろう。アップテンポなファイトソングもいいけれど、背中を押してくれるはずの前向きな言葉すらも、自分を追い込む呪いのように感じてしまう瞬間がないだろうか。そんなときに救いの手を差し伸べてくれるのが、日本語ロックバンド・yonigeの音楽だ。

 yonigeが歌うのは、諦めと絶望だ。飾りのない鬱々とした歌詞が、日々感じている言葉にできない憂鬱を丁

もっとみる