マガジンのカバー画像

なんらかのレビュー

75
本・漫画・映画などのレビュー置き場
運営しているクリエイター

記事一覧

「普通」じゃないのは、自由じゃない:『自分で名付ける』レビュー

「普通」じゃないのは、自由じゃない:『自分で名付ける』レビュー

例によって、めちゃくちゃ個人的な思い入れをこめた、長い前置きから始める。

結婚のメリットを結婚した人に尋ねると「弱ったときに誰かいてくれたら嬉しいじゃん」「家に帰ったとき誰かいてくれたら嬉しいじゃん」「ずっと独りだと思ったら怖くて」「孤独死はしたくない」等の返事がかえってくることがほとんどだが、それらの返答に1回も納得できたことがない。だって、一緒に暮らすってことがしたいなら、別に同棲でもできる

もっとみる

恋愛の顔をした暴力の恐ろしさ:『ジェニーの記憶』

重い作品。でも、観てよかった。観ないといけないと思った。間接的だけど性暴力描写がある作品の話になるので、フラッシュバックの恐れがある方は注意してください。

(あらすじ)

40代のドキュメンタリー映像作家・ジェニファー(愛称:ジェニー)は、仕事も順調で恋人とも結婚の準備を進めており、充実した日々を送っている。

しかしある日、実家の母親から慌てた様子で電話がかかってくる。あなたが少女時代に書いた

もっとみる
加害者が加害者になるまで:映画『ヒメアノ~ル』の感想

加害者が加害者になるまで:映画『ヒメアノ~ル』の感想

TBSラジオ『アフター6ジャンクション』でおすすめされてるのを聴いてからずーっとずーっと観たかった作品が、ようやくNetflixに来たので視聴。最初はラブコメに見せかけて、後半容赦ない暴力まみれになっていく、ノワール映画。

一部の点を除いて(←それについても後述します)すごーくすごーくよかった!

ということで、感想をば。
※多少ネタバレになっちゃうところもあるので、ご注意ください。

==

もっとみる
「暗いところを見ようとしない人」も、悪を支えてしまう:『テスカトリポカ』

「暗いところを見ようとしない人」も、悪を支えてしまう:『テスカトリポカ』

第165回(2021年上半期)直木賞受賞作の『テスカトリポカ』、

このツイートを読んで気になって、

(まあちょっと「超異常暴力小説」と謳うのはどうかなと思ったりもするんですが)

試し読みしたらまーーー引き込まれて引き込まれて、結局電子で買って読んじゃいました。

560ページと、なかなかボリュームがある本なんですが、読みだしたら止められず、家事も仕事もほっぽって2日で読み終えました。今年読ん

もっとみる
【ネタバレ有】映画『プラットフォーム』/インタビューで拾った話のまとめと感想

【ネタバレ有】映画『プラットフォーム』/インタビューで拾った話のまとめと感想

今年前半、映画『プラットフォーム』を観て、ずっと感想を書きかけていたのだけど。
日本のNetflixでも配信が開始になったようで、ようやくまとめる次第…。

以下、公式サイトから引用したあらすじ。

ある日、ゴレンは目が覚めると「48」階層にいた。部屋の真ん中に穴があいた階層が遥か下の方にまで伸びる塔のような建物の中、上の階層から順に食事が"プラットフォーム"と呼ばれる巨大な台座に乗って運ばれてく

もっとみる
「そんな人じゃない」って、どうして断言できるの?私たちはあの人の、何を知ってるんだろう:『消えたママ友』レビュー

「そんな人じゃない」って、どうして断言できるの?私たちはあの人の、何を知ってるんだろう:『消えたママ友』レビュー

野原広子さんによる、実体験の要素を交えたフィクションのコミックエッセイ『消えたママ友』。漫画家の渡辺ペコさんがおもしろいとツイートしてて、Kindle Unlimitedの対象に入っていたので、読んだ。

(読み終わってからもう一度表紙を見ると、いろいろと思うところがある…)

最初にタイトルを見たときは、「最初は仲がよかったママ友たちから仲間外れにされて、いないことにされちゃう、みたいな話なのか

もっとみる
ほんとのテーマは『無力』じゃないか:マンガ『無敵』の考察

ほんとのテーマは『無力』じゃないか:マンガ『無敵』の考察

ということで、熱が冷めないうちに考察記事を書いていきたいと思います。

※『無敵』読後の方向けの記事です。つまり、ガンガンネタバレしていきます。
ネタバレ嫌な方はぜひ先にマンガを読んでくだされ!以下のリンクから無料で読めます!70ページくらいあるんですけど、引き込まれてたぶんすぐ読んじゃいます…。
ただ、暴力的な場面もあるので注意してください。
これから書く記事でも、暴力(含む性暴力)について触れ

もっとみる
ギリギリで踊れ、役者たち監督たちそして私たち:マンガ『ダブル』レビュー

ギリギリで踊れ、役者たち監督たちそして私たち:マンガ『ダブル』レビュー

今日は、ずっとおすすめしたかったこちらの演劇マンガを紹介するよ~。

この物語の中心となるのは、以下2人の男性(年齢は初登場のときのもの)。

(↑『ダブル』1巻より引用。左が多家良/右が友仁。)

宝田多家良 たからだ・たから (30) 
役者。
演劇は未経験であったが、7年前、友仁の出演する舞台を観てその演技に感銘を受け、彼の所属する小さな劇団『劇団英雄』に入る。もともと会社員(縁故入社)だっ

もっとみる
教育プログラムや現物支給より、現金給付がいいのはなぜか?:隷属なき道 AIとの競争に勝つ ベーシックインカムと一日三時間労働

教育プログラムや現物支給より、現金給付がいいのはなぜか?:隷属なき道 AIとの競争に勝つ ベーシックインカムと一日三時間労働

『隷属なき道 AIとの競争に勝つ ベーシックインカムと一日三時間労働』 を読んでいます。

まだ全部読み終わっていないので(というか全部読み終わるかどうかはわからないので)、巻末の日本語版編集部の解説をまとめさせていただいてこの本で語られていることの大枠を紹介しますと、こんな感じです。

----

・今日の世界には、「1970年代までは順調だった労働時間の減少が止まってしまった(国によっては上昇

もっとみる
認知の歪みは、加害者だけのものか?:「『小児性愛』という病―それは、愛ではない」

認知の歪みは、加害者だけのものか?:「『小児性愛』という病―それは、愛ではない」

ハヤカワ五味さんのツイートでこの本を知りました。

かなりショッキングな話も出てくるのですが、最近疑問に思っていたことの答えが書いてあったり、とてもおすすめなので(3時間くらいで一気読みしました)、すごく長くなってしまいましたが…内容をまとめてみました。今後さらに書き足すかもしれませんが一旦力尽きたところで公開してみます…。

著者の斉藤章佳さんは、東京都豊島区の大森榎本クリニックに所属されている

もっとみる
勝手に整数にしないでよね:『夫のちんぽが入らない』

勝手に整数にしないでよね:『夫のちんぽが入らない』

※この作品には漫画版もありますが(漫画版も好きなのですが)このレビューは原作の小説について書いたものです。 
======

面白いものをカテゴライズする方法って無限にあると思うけど、私の考える一つは、「交響曲的か、非交響曲的か」。

交響曲にも色々あると思うけど、今日日本で人気の高い曲の多くは、計算されまくってカタルシス(多くは第4楽章)に向かってくものだと私は考えている。それぞれの楽章にも緩急

もっとみる
ダメ出しされると死にたくなるあなたへ:『アダルト・チャイルドが自分と向きあう本』

ダメ出しされると死にたくなるあなたへ:『アダルト・チャイルドが自分と向きあう本』

※この記事、私の「膿出し」みたいな記事ですごい長いです。1万字以上あります。ワークに私が回答してるところは必要に応じて飛ばしつつお読みいただけると…読みやすいかと…。それでも長いので、時々タイの地獄寺の写真を挟むことにしますね。

頭では人格否定じゃないとわかっている。それでも、ダメ出しされるとこの世の終わりのようにつらい。先日、『ジェーン・スー生活は踊る』というラジオ番組に、以下のような相談が寄

もっとみる
パワーアップした思い出アルバム:『女の園の星』レビュー

パワーアップした思い出アルバム:『女の園の星』レビュー

女子校で働く国語教師・星先生の、なにげないけどおもしろすぎる日常を描いたこちらの漫画。
すでに話題ですが、もっと多くの人に読んでもらうべき!!と思ったので、レビュー書きます。

私が考えるこの漫画(というか和山やまさんの漫画全般かも)の魅力ポイントは、以下の3つです。
(1)懐かしい×かっこいい×色気のある絵
(2)独特の笑いのセンス
(3)ひとひねり加えられた「あるある」

(1)懐かしい×かっ

もっとみる
自尊感情、自給しよ!:『さよなら、俺たち』

自尊感情、自給しよ!:『さよなら、俺たち』

ジェンダーとは「社会的・文化的に形成された性別」と訳される言葉だ。常識や役割、システムやルール、教育やメディアなど様々なものの中に潜んでいて、それらを空気のように吸い込むことで知らぬ間に構築されてしまう「男らしさ」「女らしさ」のようなものを指す。何かと男女二元論で語るのは乱暴だし、「男女である前にひとりの人間」と性差をめぐる議論を敬遠する向きもある。それはその通りだと思う。しかしジェンダーとしての

もっとみる