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青葉
2024年9月2日 19:48
どんな種類のものであれお別れはさびしい。さびしいけれど、それはその時々の私たちの胸に、大粒の涙のようなものをぽたりと落としていく。別れが誰との別れであっても、たとえそれを望んでいなかったとしても、水面に雨粒が落ちるみたいに波紋を形づくる。永遠がないと知っているから、やっぱり永遠であればいいのに、と思ってしまう。なんでもないこの瞬間がいつまでも続けばいいのに、みんなで笑ったりひとりで泣い
2024年8月23日 08:13
朝目覚めたらコップ一杯の水を飲みなさい、そこから1日を始めなさい、というのは父の教えのようなもので、それは結局のところは父の母、すなわち私の祖母の教えなのだった。毎朝きちんと水を飲んで、体内に新しくきれいな血液をめぐらせなさい、と。私は昔から、こうした血液にまつわるイメージがかなり好きで、たとえば母は玉ねぎをつかった料理を出すたびに必ず「玉ねぎを食べたら血液がさらさらになるよ」と言ったもの
2024年8月20日 19:28
夕陽が海に沈んでいくのを眺めて、地球の自転速度というものが存外速いことを知る。そんな少女時代だった。日本海側で育った私にとって、太陽とは山から昇り、海へ沈むものだった。家のありとあらゆる窓から海を見ることができる環境にあったから、夕方に海の底へと沈んでいく太陽を肉眼でじっと見つめるのは幼いころから好きだった気がする。さびしいから夕方は苦手だ、というひとも結構いると聞くけれど、私は夕方が
2024年8月11日 20:52
なにを希望として、なにを絶望とするのか、それは私たちひとりひとりに委ねられていて、そのことにできるだけ希望を見出したい、と思う。くたびれてものも考えられないとき、そんな気もなく今までこつこつと集めてきた、星屑みたいな記憶のかけらや、愛しい誰かとの関係性や、おまもりみたいな大切なものたちにすこしでも救われるのであれば、私たちの日々は、ほんのすこしだけやさしさに満ちたものになる。がんばっている
2024年7月22日 22:15
春ごろから、今まで書いてきたnoteの記事を少しずつプリントアウトしている。数年間にわたって書いてきた、140ほどの記事をわざわざプリントアウトした理由のひとつは、電子データのみではなく形あるものに文字を印字して残すのもいいなと思ったから。もうひとつは、単に自分が書いてきたものを紙媒体で読み直したくなったから。そしてプリントアウトするのに加え、私は自分の書いてきたnoteのタイトルとそ
2024年7月13日 14:27
蝶がふわふわひらひらと飛んでくると、あの蝶には誰が乗っているのだろうか、と考えてしまう。同じように、風の入らないような場所でろうそくの火が強く揺らめいたときも「ああ、いま誰か来ているのだな」と思うけれど、これは火の話になるので別のときにする。死者の魂は、蝶や鳥のように空を飛ぶかろやかなものに乗ってくるのだと、幼いころ母が教えてくれた。大学生になり、4年間かけて学んだ文学の世界においても
2024年5月2日 22:35
午後の光というのは、どこか穏やかなようでいて情熱を秘めていたりするので、なんとも好ましいなあと思う。桜が散ったあとの季節の太陽の光は、春にしてはやや強すぎて、夏というにはまだまだ未熟だけれど、私にはちょうどいい。やさしくてほがらかでさわやかで。風がぬるくて気持ちがいい。木かげがひんやりしていて気持ちいい。大体、季節というものは総じてたちが悪い。季節は私の手をとって巧みにエスコートし、心底楽
2024年3月17日 21:31
小学生だったころ、同級生の誰かが脱いだまま置き忘れている体操服とか、制服の上着とかのにおいをかいで、その持ち主を当てることができた。田舎の小学校で、学年の人数が20人にも満たなかったからというのもあるのだろうけれど、私は同級生みんなのにおいを知っていた。私だけではなく、きっとみんなもそうだった。たとえ誰かが分からなくても、そういうときは別の誰かがくんくんと鼻を動かし、「これはあいつのだ」「
2024年3月3日 23:39
熱しやすく冷めやすいというのは、少女にはありがちなのだろうと思いつつ、私いつから大人の女になってしまったのだか、自分でもよく分からない。分からないなりに、大人といっても差し支えないんだろうな、などと考えている。ただ同時にこうも思う。つまり、少女だったころの私といまの私はずっと地続きでつながっているのに、その境目がどこかなんて、一体どうして線引きできるだろうか。虹やゆうやけのグラデーショ
2023年12月20日 18:58
土曜日じゃないのに土曜日とタイトルをつけた。そして夏じゃないのに、夏に撮った写真を使うことにした。そうでもしないと、やってられない気分なのだ。冬のつめたい風に負けてしまいそうなのだ。たとえば非常階段の3階に立ち、爆音で音楽を聴きながら雨交じりの風に吹かれても、この気持ちはどうにもならない。胸の中へ押し込むことも、逆に追い出すこともできない。だったら、書くしかないではないか。***とびき
2023年11月11日 21:12
季節が少しずつ冬に近づいている。風が強くつめたくなり、昼は短く、代わりに夜が長くなり、太陽が私を照らしていてくれる時間がどんどん減って、それが頭を抱えたいほど憂鬱だというのに、月は空が凍てつくにつれて美しくなっていくのね。なぜなんだろう。ここ最近、ふとした瞬間に言いようのない、苛立つような、哀しいような、焦るような、そういう気持ちが私を満たして、それにすぐ応じてしまう自分がすこし憎い。
2023年9月25日 22:10
いつもどんなに明るく、楽しく、朗らかに生きているように見えるひとにも、ひとりでは抱えきれないほどのかなしみや、ふとした瞬間におそいくる痛烈な孤独の時間があって、私たちは胸のどこかでそのことを分かっていなくてはならないと思う。そのひとの本当の部分は、いま見えているところだけではない。私たちは他者に打ち明けたくない心をうまく隠したり、見せないでいたりすることができる。だから私たちは誰かの表面を
2023年9月12日 00:28
花は好きだけれど、花言葉は好きじゃない。花にまで意味を与えたがる人間が、すこしだけおそろしいもののように思える。花は花として咲いているだけでうつくしいのだから、別に意味などいらないのにね、と思ってしまう。けれど花言葉を好きだというひとはきれいだと思う。純粋で、やさしい人だと思う。花言葉を信じられるということは、私には、本当にやさしいひとにしかできないことのように思える。私はどこかすこし
2023年7月22日 17:03
わすれられないもの。幼いころ、手から離れて青空に飛んでいった赤い風船。鼠取りにかかった鼠を水に沈めた瞬間の祖父の横顔。恋人でも親友でもない男の子と、中学生の夏に半分こしたパピコ。ただただ小さな花を摘むだけの穏やかな夢。コントラバスの弓に塗る松脂の匂い。生まれたばかりの1人目の妹を病院に迎えに行った嵐の日。同級生の男の子達と成り行きで打ち上げ花火を見た中学生の夜。インフルエンザで寝ていた平日の晴