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掌編小説

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140字から始まる超短編小説です
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#超短編小説

義務との相克【掌編小説】

右手にアザができた。

すこし痛い。
病院の薬を塗ると痛みは消えた。
でもやめると再発する。

治らない。

理由が分からないまま、アザは手に何年もあった。

大小の変化はたまにある。広がることもあるが、数ヶ月かけてまた元の大きさに戻る。

考えた。
大きさの変化に、法則性はあるのか?

ハッとした。
自分に合わない仕事についた時や、家族サービスが多い時期に、アザは大きくなっていた。

これはつま

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春のつくし【掌編小説】

春のつくし【掌編小説】

暖かくなって、つくしは起きました。

まわりはきれいな花がたくさん咲いています。赤、白、黄色。

子供たちが、花を思い思いにつんでいます。花束にしたり、髪にさしたりて遊びます。
でも、花の咲かないつくしは見向きもされません。

つくしは道端に小さくなっていました。

「これ、なあに」
お母さんと歩いていた子供が、足を止めました。

「つくし」
ママは笑顔になりました。
「小さかったころに、よく集め

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雪の恋【掌編小説】

私は雪女よ。
最期に君は笑った。
だから空に還っていくわ。

雪国育ちだったね。
君の純粋さは、雪のように白かった。
クールな所は、雪の冷たさ。
微笑みは、日の下の雪のきらめき。
君の体は、雪肌のなめらかさ──

君の故郷を歩く。君のかけらを探して。
気がつくと山に迷いこんでいた。
雪が降る。ためらいがちに。
ああ、君だね?

自由になった君は、雪の舞いで僕の肩をたたく。僕の頬をぬらし、唇にふれ、

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空からの「おめでとう」【掌編小説】

空からの「おめでとう」【掌編小説】

「あなたのウェディング姿を見るまでは死ねない」と言った祖母は、私が彼と挨拶にいく前に逝ってしまった。

結婚式の日。教会のドアをあけて、ライスシャワーをあびながら階段を下りた時。

ピールリー……
すんだ鳥の鳴き声。
「あ」
涙がこぼれた。祖母の好きなオオルリだった。
見に来てくれたのだ。

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我が家のソーシャルディスタンス【掌編小説】

我が家のソーシャルディスタンス【掌編小説】

コロナで社会生活に影響が。
でも日本人は「食事中はしゃべらずに箸を動かしなさい」と躾られてるし、手づかみで食べるものもない。ハグはせずにお辞儀を。土足はしない。
疫病対策が日常的にある。

うち? うちも昔から出来てるよ。
食事は毎日無言だし。妻とは1m、娘とは2m以内に近づけないよ。
対策はバッチリさ。

あれなんだろう目から水が……

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あこがれに似て、恋に似て【掌編小説】

あこがれに似て、恋に似て【掌編小説】

彼女は明るくやさしい。
誰にでも。
こんな地味な私にも。

(もっと私としゃべって。笑顔ももっと。どこにも行かないで。他の人としゃべらないで──)
蜘蛛の糸のような思い。ずっと自分のそばにいてほしいと願う。他の人をすべて排除したいという思い。

これは嫉妬だ。友情ではなく。
自分を恥じた。

都会への大学進学を機に、引っ越しをすることに決めた。

「行かないで」
駅のホームで涙ぐむ彼女。
「またね

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お酒のアルバム【掌編小説】

お酒のアルバム【掌編小説】

互いの家に、あけましておめでとうとあいさつに行き、甘酒を飲んだ子供時代。

お父さん秘蔵のウィスキーをなめて倒れ、こってりと母親たちに怒られた中学時代。

久しぶり元気? とビールで再会を祝った大学時代。

ワインボトルを真ん中に、別れ話をした社会人3年目。

緊張しながら並んで三三九度を交わした結婚式。

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タイムマシンに乗って【短編】

タイムマシンに乗って【短編】

──タイムマシンがあったら何をしますか?

突然話しかけてきた男がいた。戦後の闇市で芋を買う金もなくさまよっていた時。
懐のにぎりめしを半分に割って、俺にくれた。
路肩にしゃがんでむさぼり食った。3日ぶりの飯が腹にしみた。

──私は、先祖達のプロポーズをぜんぶ見たい。お見合いや、結婚式でもいい。
通りすがりの人として、おめでとうと言いたい。

男がなにを言ってるのか分からなかった。
家族はみんな

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対価の減少【掌編小説】

対価の減少【掌編小説】

欲しい神棚がある。でも高い。
メルカリで検索したが、無い。仕事の無理がたたったのか病気にもなった。ますます欲しい。

すると見つかった。購入して神に感謝した。

病気は一進一退。有名な占い師に相談した。
「神棚を買い叩きましたね」
「でも病気はその後に」
占い師は首を振った。
「思った時からご加護が目減りしたのです」

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「行くぞ」【掌編小説】

「行くぞ」【掌編小説】

お見合いの時からせっかちな主人。どんどん先に歩いて、私はいつも後から小走り。
結婚式では神主さんに叱られてました。お宮参りも初詣も、階段の上で腕組みして「遅い」と怒る。

それが、いつからか数歩先くらいに。
今日は息切れしてたら、「ほら」と声。
目をあげると、手。それと、視線をそらし気味にした主人の顔が。

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マスコット【掌編小説】

マスコット【掌編小説】

君のことをずっと見ていたのは私なのに。なぜ急に、カバンにうさぎのマスコットなんて付け始めたの。縫い目がバラバラなのは、誰かの手作りプレゼントかな。
「貸して」
奪うと、君は「返せよ」と。怒った声は初めてだね。
「おっと」
窓から落とすフリをして、止めた。君に本当に嫌われてしまいそうだから。

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書類の向こう側で【掌編小説】

書類の向こう側で【掌編小説】

会社の上司が、定年退職をする。仕事は早く人望も厚いが、ロボットのあだ名をもつ人だった。何があっても感情的にならず、淡々と対処していた。

私がミスをして謝るときも、
「そうか。じゃあこうしよう」
と指示を出す。怒られない分、よけいに恐かった。書類の向こうの表情が読めないから。

「皆さんと共に仕事をした日々は充実し…」
手には下書きの紙。口調は一本調子。最後まで書類の向こう側にいたいらしい。でも彼

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誰かのためのごはん【短編】

誰かのためのごはん【短編】

経営してた三ツ星のフレンチレストランがつぶれ、借金を抱えた。

従業員は解雇し、自分はツテを頼って知人の店に。味の意見が衝突して辞めた。
何度かそれをくりかえして、ハローワークへ。
そこからまた何軒か転々とした。

今は格安のチェーンで、決まったメニューを出す日々だ。
味付けは会社が指定している。変えたらクビだと言われた。

クリスマスに、客なんか来やしない。

すみのテーブルに、牛丼を食べている

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ドキドキのお誘い【掌編小説】

ドキドキのお誘い【掌編小説】

社内の気になる先輩が、車の免許を取った。
新車か中古車のどちらを買うか、同僚と話している。
「傷つけないように気をつけるから新車」
「ぶつけても心配ないから中古」
「迷うなー」
先輩は笑いながら、私のほうに来た。
「助手席に人がいると、運転が上達するんだって。こんど乗ってくれない?」