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書類の向こう側で【掌編小説】

会社の上司が、定年退職をする。仕事は早く人望も厚いが、ロボットのあだ名をもつ人だった。何があっても感情的にならず、淡々と対処していた。

私がミスをして謝るときも、
「そうか。じゃあこうしよう」
と指示を出す。怒られない分、よけいに恐かった。書類の向こうの表情が読めないから。

「皆さんと共に仕事をした日々は充実し…」
手には下書きの紙。口調は一本調子。最後まで書類の向こう側にいたいらしい。でも彼らしいとも思った。
拍手、花束。

最後にもう一度挨拶をしたい。私は去っていく上司に、挨拶しようと追いかけた。

柱の陰で、目をぬぐっていた。



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こちらはTwitterの 140字小説( https://twitter.com/asakawario/status/1343936303381897216?s=19 ) を、追加修正して再掲したものです。


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