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散人の作物

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私の執筆した文芸。
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#写真

死は未だ来らず、あるは生ばかり

死は未だ来らず、あるは生ばかり

高校生になってまだ二ヶ月ほどしか経っていない、大友絢香と一緒に渋谷を歩いているのはなぜだか無性に、今の彼女をカメラに写したかったからに他ならない。

五月下旬の東京は例年より暑さは甚だしく、行き交う男女の、その衣を薄くしている。もちろん、私もまた彼女も例外ではなかった。

「友達は?」

桜丘町の何ら見栄えしないカフェは、休日の為に騒がしい。添え物のジャズもどきも、今日は一段と音量がデカいのではあ

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過ぎし面影、巴里の日々、アル中の男

過ぎし面影、巴里の日々、アル中の男

不眠なる私は枕頭に立つ思い出を一晩の伴侶にする他無いという悲しき定め。是多多あり。それは確かに、かつての記憶を思い出し、その地に立たせるのだが、いかにも辛いと言わざるを得ないのは、この浮世に長く止まった性か。それは分からん。どんな思い出が立つのか。それは妄想に近い時もあれば、また忠実なる過去の一時をありありと、その上、明瞭に思い出すこともある。
女を思い出すことが多いのだが。そんな時もあるのさ。や

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パリの街の風に吹かれて 或は新帰朝者の世迷言

パリの街の風に吹かれて 或は新帰朝者の世迷言

巴里に行ってきた。フランスに行ってきた。フランスに行ってきた、それが先行するのが当たり前であるのかもしれないが、語弊を恐れない俺は巴里に行ってきたというベキ。俺は俺にとってフランスは巴里だ。なんと言っても。リヨンもオンフルールもノルマンディーも差し置いて。うん。そうだ。巴里だ。何はなくとも。阿呆なる私の周辺が生きている。そうだ。性懲りもなく生きているのだ。そんな中、私は遠く、遠く離れた巴里に行った

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変わり易くは女心と東京の街 (東京散歩のススメ)

変わり易くは女心と東京の街 (東京散歩のススメ)

私は生まれも育ちも東京でありそれ以外の県には住んだことはない。度々旅行に赴くがそれも大抵一泊二日、長くとも二泊三日で帰ってきてう。何故だろうか。それは家庭に所属しまだ独り立ちしていないという理由も挙げられるが矢張り東京こそがアットホームだからであろう。そして私は東京の大地を独り気ままに闊歩するのに興を感ずる。所謂、散歩を趣味としている男である。そんな、散歩なんぞ何が楽しい、と同輩たちは言う。どうか

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短編小説『水辺の事語』

短編小説『水辺の事語』

序章 流れ

拙宅の近くに川がある。時として勢い急であるが平静は比較的穏やかな方であろう。幼少期よりその川は遊戯に適した場所であるため親しんでいる。今でこそ泳いだり飛び込んだりはしはしない、がそれでもその流れを眺めに行く事はしばしば。殊更に美景と感じているのではないが、とはいえ、見慣れた水の流れは私に心の平安を与えてくれる。
そんな出自もあってか私は水辺をいつの間にか好む様になった。よしんば私がメ

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