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【小小説】ナノノベル

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短いお話はいかがでしょうか
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2020年9月の記事一覧

雨トーク

雨トーク

「何だ、誰かと思えば雨か
すっかり目が覚めちまった
雨の目覚まし時計か!
ばかやろう、今日は日曜日だい
まだはえーな」

チャカチャンチャンチャン♪

「しっかしよく降るね
いや待てよ。そういや久しぶりだね
雨ってのは久しぶりじゃねえか
いつ以来だ?
ちょっと天気予報をっと
ばかやろう、予報は未来だい」

チャカチャンチャンチャン♪

「まずいぞ。洗濯物を取り込まないと!
いや、洗濯なんかしてねえ

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カオス感想戦(強くなりたい)

カオス感想戦(強くなりたい)

 私たちは頭の中だけで駒を動かすことができるし、自分の対局なら棋譜を見なくても難なく再現できるものだ。私たちは死力を尽くしぼろぼろになった後でも、もう一つの対局を怠らない。
「感想戦」確かにそれは、叶わなかった夢や幻の構想、負け惜しみのような言葉をつぶやく場でもある。しかし、その本当の目的は自身の棋力向上のためだ。疲れ切った熱い頭をもう一度酷使するのは、誰よりも強くなりたいという一心から。だが、時

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ゲリラ・ライブ

ゲリラ・ライブ

 人の心は一番よくわからない。
 自分が面白いと信じることを全力で演じても、舞台の向こう側には少しも響いて行かないようだ。感性はもう置いていかれたのか。あるいは、最初から僕はズレていたというのだろうか。(こんな時に、何か言ってくれる相方がいてくれればよかったが)
 この人たちは、何がそんなにつまらないと言うのか。(みんな笑いたくてここまで足を運んだのではなかったか)
 そして、サクラのように笑って

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しめの一杯(さよならラーメン)

しめの一杯(さよならラーメン)

 大繁盛店ということで少しは期待して入ったのだが。他人の味覚ほどあてにならないものはない。麺は輪ゴムを伸ばしたようなものだった。スープの方は泥水に塩を入れたものと変わりなかった。私は思ったことがすぐ口から出るタイプだ。
「カップラーメンの方が旨いね」
 大将の手が一瞬止まった。
「それを言っちゃあおしまいよ」
 よかった。心の広い大将のようだ。その人柄に打たれて私は箸を進めた。食えたもんじゃあなか

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ワンリュック(憧れの四角)

ワンリュック(憧れの四角)

「今日はどんなのをお探しですか」
「できれば四角いのかなと」
「それでしたら、こちら一択になります」
「えーっ?」

チャカチャンチャンチャン♪

「こちら超おすすめのリュックになっております」
「なかなかのサイズですね」
「しっかりと入るようになっております」
「はあ」
「中にラーメン、チャーハン、他にも寿司やカレー、ハンバーガーなど何でも入れて運ぶことができます」
「ラーメン?」

チャカチャ

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前説ラーメン

前説ラーメン

「ラーメンは麺がすべてじゃない」
「そりゃそうだ」
「麺だけ打っても仕方がないのさ」
「そうだそうだ」
「スープがすべてでもない」
「そりゃそうだ」

チャカチャンチャンチャン♪

「ラーメンは味噌汁じゃねえ」
「そりゃそうだ」
「味噌ラーメンと言えども味噌汁じゃねえ」
「そうだそうだ」
「麺もスープも同じ丼に入らなくちゃ」
「そうだそうだ」

チャカチャンチャンチャン♪

「ラーメンはもやしがす

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先生の休日

先生の休日

「お休みの日とか何をされてます?」
「休みというのものは、
こういう仕事だから、
まあそんなには、
普通の人が持てるようには、
取ることはできない、
わけではあるのだけれど、
全くないかと言うと、
それはそういうことでもなく、
休みの日というのは、
あることはあります」

「お忙しいのですねー」
「それで、
実際に休みとなれば、
映画をみます」

「どんな映画がお好きですか」
「それは、
その日の

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名誉凡人100

名誉凡人100

おめでとうございます!
あなたは「影響力のない100人」の中の
一人に選ばれました!

チャカチャンチャンチャン♪

「あなたすごいじゃないの!」
「いや、すごくないよ」
「100人の中に入るって!」
「いや、ない方だから」

チャカチャンチャンチャン♪

「他には誰が入ってるの?」
「いや、みんな知らない人たちだよ」
「知る人ぞ知るのね」
「いや、どうかな」

チャカチャンチャンチャン♪

「世

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チェンジアップ

チェンジアップ

 抑えのエースが肩を作っている間、俺は入念に素振りをする。目に見える勝負は一瞬だ。だが、本当の勝負はずっと長い。目と目が合う遙か前に二人の激しい勝負が始まっている。
「みなさまお待ちください」
(アップのペースを上げております)
 エースのアップには時間がかかる。それでも客は誰も文句を言わない。素晴らしい勝負なら、待つ時間さえも楽しみに変わるのだ。
 投手がいないマウンドをにらんで俺は鋭くバットを

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スピンオフ・テスト

 戦国の世は速度勝負。情報戦に優位に立った者が、覇者になれるのだ。
「早馬を走らせよ!」
 北の城主に向けて緊急の伝令を送るのだ。
「申し上げます。早馬がおりませぬ」
「なんと!」
 アマゾンのセールとかで早馬がフル稼働していた。これでは速報が届けられない。

「殿。速亀ならいるとのこと」
「なに? それは真に速いのか?」
「報告によれば、他の亀など止まって見えるとか」
「それは止まっておるのでは

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大甲子園メシ

 ファンファーレが鳴ってご飯が炊けたが、誰も「いただきます」を口にすることはできなかった。杓文字がないことがすぐに発覚したからだ。

「冗談じゃない!」
「どうやって装うと言うの?」
 今にもちゃぶ台がひっくり返りそうだった。

チャカチャンチャンチャン♪

「甲子園に行ってしまったわ」
 おふくろが事情を打ち明けた。
 10年に1度の甲子園が開かれたのだ。

「杓文字でホームランが打てるか!」

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まずーい話

まずーい話

「せめてお名前を」
「名乗るほどの者じゃござんせんぜ」
「いいえ、せめてお名前だけでも」
 別に名を売りたくて助けてるわけじゃない。
 時に不可解なリクエストが俺の足を引っ張る。

「どうせ忘れんだろ」
「ええっ」
「教えたところで明日には忘れちまう」
「そんなことは……」
「だったら教え損じゃねえか」
「私は忘れません」
「忘れないって言う奴ほど忘れんだよ」
「絶対に忘れません」
「じゃあな」

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そば撃ち(矛盾決戦)

そば撃ち(矛盾決戦)

 世界一長い手打ち蕎麦vs世界一息の長い男。
 世紀の一戦として生中継されることになった。
 蕎麦1本を一息で飲めばアスリートの勝ち。途中で噛み切ったり、音を上げたら蕎麦職人の勝ちとなる。千年続く名店の蕎麦が勝つか、300年のアスリート・キャリアが物を言うか。
 今回の蕎麦は今までにない特製で、噂によると並の商店街の端から端よりも長いという。アスリートは日々努力を怠らず、民謡を歌って喉を鍛え、深海

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わんちゃんの気持ち(を読める女)

わんちゃんの気持ち(を読める女)

 犬の気持ちは人間にはよくわからない。何かを訴えかけているというのがわかる時はあるが、具体的に何を伝えたいのかはわからない。それでは何もわからないのと一緒だ。しかし、世の中にはごく希にではあるが、犬の言葉を完全に理解する人間もいる。

「そうねえ。このわんちゃんはとても賢いわんちゃんだわ。飼い主さんに何か伝えたいことがあるみたいね。どれどれ、えー、そうなの。どうやら散歩に行こうと言っているみたいだ

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