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記事一覧

【詩】春分

「これで最後にしよう」と
言うのはもう100度目くらい
だからもう誰も私を信じてくれないし
私だって信じていない
みんながほしがる青い鳥
しらんぷりする赤い鳥
誰かに愛されるために
大きくなった苺と
小さくなった犬
僕の体から春が分かれて
ただの点になった
今度こそ
これで最後にしよう

【詩】変色

ある日世界の色が変わった
紫の空に黄いろい山並み
ふもとを流れる赤い川
桃色の草原には
黒い花が揺れている
だけど鏡の中の僕だけは
昨日と変わらない青白い顔
君の濃い灰色の瞳と
光を受けて緑がかる髪が
今はどんな色をしているのか
知るのはまだ少し怖い

【詩】映画を観ました

映画を観ました
それは希望をなくした二人のロードムービー
いつ死んでもいいと思いながら
どこか分からない場所を列車で走る
終点に着いたら今度は車を盗んでまた走る
もしも一人だったら
まだあの町にいて
なんとか暮らしていたかもしれないな
でもあなたがいたからここまで来てしまった
氷みたいに透き通った目をしている
そんな映画を観ました

【詩】海の底でも

置いておく場所がなくなったので
写真をたくさん捨てた
これで思い出せなくなることがまた増えた
風の吹かない朝
月の出ない夜
もしも逃げだせない時は
いつでも電話してほしい
海の底でも
崖の上でも
あのファミレスでも
どこへだって迎えにいくよ

【詩】あとの二人

100人いたら
90人は同じようにやるだろう
5人は変わり者だと笑われ
3人は金持ちになり
あとの2人は今も行方知れず
あのことを告白するのは
もう少し後にするよ
雨が埃を流した頃
ぬかるみにそっとつける足跡のように
君が私を忘れた頃
その髪をなでる風のように

【詩】海の町の嘘

君の町の海は宝石みたいに輝く緑色で
この町の海は見慣れた灰色
知らない人が人気者になって
すぐに忘れられていった
少しだけ信じていたあの予言が
当たっていた世界のことを考えてみる
「小説は読まない。だって全部嘘だから。」
そう言いながら 私の話はいつも聞いてくれたね
全部嘘かもしれないのに

【詩】昇る時と沈む時

太陽が昇る時と沈む時、
どちらが美しいと思う?
君は昇る時で
私は沈む時だった
君の好きな人は
私の嫌いな人で
君がとっておきの日に選んだ服は
私が苦手な紫のジャケット
いつか今日と同じ悲しみに出会う時には
思い出すことくらい許してくれよ
まぶしすぎる朝日と
しずかな夕暮れの色

【詩】偽物

本物の星は手に入らないから
星空の絵を描いた

本物の月は手に入らないから
紙を切り抜いて作った

それでも足りなかったから
庭の木に電球を吊るして
光らせてみたりした

本物の君にはもう会えないから
君が好きだった歌を聴いている

【詩】表面

遠く光るその美しい星の表面は
猛毒のガスで覆われているらしい
お湯を沸かす音だけがはっきりと聞こえる
それ以外のことはどうでもいいみたいに
記憶を消して一話から
読み返したら何か変わるのかな
好きな人ばかりが死んで
嫌いな奴ばかりが生き残っている気がするだろう
誰も見ていなかったとしたらあなたはここで何をしますか
どんな願いでも叶うとしたらあなたは何を願うでしょうか

【詩】態々

わざわざ日付と場所を調べるんじゃなくて
たまたま見た流れ星じゃないと願いは叶わないと思う
お金で買える四つ葉のクローバーで満足ならそれもいいけど
あのとき思ってもいないことを言ったのは
君の前ではそういう人間でいたかったから
オレンジの灯りが反射して夕焼けみたいになった
書きかけの返事をずっと送らずにいれば
いつまでも繋がっていられる気がした

【詩】一番星

こんな時間に行ったって
もう誰もいないし
何も残っていないよとみんなが言う
月と一番星の距離はまた少し離れた
このまま離れ続けたら
隣にいたことさえ
いつか忘れてしまうだろうか
仰向けになって
無限のひとつ前まで数える
たった一言が見つからないまま
空は美しい群青に染まっていく

深海と宇宙のカフェオレ【2022年の短歌まとめ】

どうせなら美しいサイコロを振れ出る目すべてが宝石のような

最後まで気持ちよく好きでいたかった魚が絶滅した海さえも

かろうじて死刑を免れてるような私たちの愛私たちの美

説明書も読めないくせに神様の言う通りになんてほんとにできるの

海底で生まれた新種の生命は誰とも交わらないまま死んだ

絞り器で絞り出される虹を見ていた 君は笑ってそれを食べた

「もし原始時代だったら死んでるよ」原始時代じゃな

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【詩】お早う

【詩】お早う

明るい星たちが
まだ眠りたくないと言っている
夜でも朝でもない時間
「おはよう」と声に出して
むりやり朝にした
星たちは文句を言いながら
きれいな後ろ姿で帰っていった

【詩】今年の春

夢の中で卵を買ったら
全部割れていた
薄着の女の人が同情して
リンゴを一つくれた
懐かしくなんかない
あれからずっと食欲もないし
「気にしなくていいよ」
「誰も悪くないよ」
本当にそうかな
蒲公英の黄色だけじゃ
太陽の代わりにはならなくて
今年の春は嘘みたいに寒かった
君のいる場所は
もっと暖かければいいんだけど