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花農家で研修をした話

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#花

#最終章 愛してるぜ宮崎

#最終章 愛してるぜ宮崎

母の日が無事に終わり、同時に風の丘ガーデンでの研修が終わった。実は全く終わった実感がなく、いつものように出勤する勢いなのだが、悲しきかな、もう研修は終了した。様々な発見があったのだが、自分は文章を書くこと、そしてそれを読んでもらえることが嬉しい人間であることが分かった。
宮崎に行くまでの経緯、生産現場で感じたこと、そしてこれからの展望を記したいと思う。楽しんで読んでもらえることはもちろん、誰かの生

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#37 母の日に花を摘んだ話

#37 母の日に花を摘んだ話

日本の母の日はアメリカから伝わったらしい。
1905年5月9日、アメリカのフィラデルフィアに住む少女「アンナ・ジャービス」が母の死をきっかけに、「生きている間にお母さんに感謝の気持ちを伝える機会を設けるべきだ」と働きかけたのが始まりとされている。そして、彼女がカーネーションを母に捧げたことをキッカケに、この花が母の日のシンボルとなった。以降、5月の第2日曜日は感謝の印として母にカーネーションを贈る

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#35 いい仕事

#35 いい仕事

張った糸が切れた、とはこの感覚を指すのだろう。

10連勤くらいしただろうか。一年で最も忙しいとされるカーネーションの出荷シーズン。今年で25歳になるのだが、感覚としてはもう若くない。そんな体を無理やり動かし、鈍りに鈍った身体に鞭を打って、最後は気分がハイになっていた。そして頂いた休日。温泉に入って、美味しいご飯を食べて、よく眠って…。迎えた出勤日。布団から身体が動かなかった。

気づけばあと5日

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#31 note書いてよかったなーって話

#31 note書いてよかったなーって話

SNSが苦手だ。
Twitterの限られた文字数の範囲内で共感を得られるような言葉を紡ぐことができない。
Instagramの作り込まれた世界観に映えるような生活も送ってない。

演者をやっている時、著名なインフルエンサーの方と仕事をさせて貰った。毎日同じ時間にスマホのアラームが鳴っていた。そして、投稿する写真と文章を選定。キラキラしてるように見える姿の裏で、地道に、地道に活動を続けている姿に心底

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#30 見えない罠

#30 見えない罠

「親父が転んで病院に行ってるので、早めに来れたら来てください。」

時刻は午前8時。ここ数日妙に意識が高くなった私は、始業1時間前にハウスに到着。出社前、陽気に猫の巣を覗き込み、愛猫を愛でることに集中していた。今日も可愛いねぇと不気味な笑顔を浮かべながら、ふと携帯に通知が来たことを知る。内容は、社長が転んで怪我をしたから早く来てくれないかというお願い。

"病院に行ってる"を"入院している"と誤読

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#29 初心忘れるべからず

#29 初心忘れるべからず

"慣れ"とは本当に恐ろしい。
研修終了まで既に2週間を切っている中、研修がただの作業になっていることに気がついた。
寝ても回復しない精神的な疲労、連続するあくび。

このような症状を世間一般では「ダレる」と言う。

自分の意欲低下を自覚し、悲観に暮れる。
なぜ東京を離れ、宮崎にやって来たのか。
答えは一つ、花に関わってみたい。
その為に、産業の川上にある生産農家から携わりたいと思ったから来たのであ

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#28 目を離した隙に

#28 目を離した隙に

切られた茎が伸びた。
風の丘ガーデンの研修3日目、茎を切ることで茎がさらに増える頂芽優勢という植物の性質を利用した「ピンチ」という作業を行った。そこから約1ヶ月経った今日、出過ぎた茎がさらに出過ぎた結果、ネメシアという花が晴れて出荷されるに至った。

自分が手を加えた花が旅立つ瞬間は感慨深い。
植物は目を離した隙に大きくなるので、成長した姿を見たときは驚きを隠せない。

目を離した隙に、と言えば先

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#26 良質な筋トレ

#26 良質な筋トレ

風の丘ガーデンでの研修26日目。
遂に始まったカーネーションの出荷作業。
作業は至ってシンプル。約10キロほどのケースをひたすらに持ち上げ、運び続けるのだ。

思い出すのは高校生の頃の部活動。
私はラグビー部に所属していた。ガリガリの自分を変えたくて、「弱そう」と評される自分を変えたくて入部した。
練習は本当に辛かった。綺麗なタックルで相手を倒した記憶がほぼ無い。敵味方関係なく自分より大きな相手と

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#23 B型

#23 B型

猫の様子を見に行ったら、きなこ色の太々しい猫がいた。
社長が見た時はじゃれ合っていたそうだ。
作業中、猫の甘い鳴き声がハウスの中に響き渡っていたのだが、きっと逢瀬の最中だったのだろう。

愛娘が彼氏といちゃついている現場に遭遇したような気分であった。

風の丘ガーデンでの研修23日目。
今日も昨日と同様、苗の引越し作業。
始業から終業までノンストップで、苗を植え替えていく。

今日は昨日と品種が変

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#22 花に関わる仕事

#22 花に関わる仕事

風の丘ガーデンでの研修22日目。

月日が経つのが早く感じる。気づけば、あと3週間ほどでこの研修も終わる。花に関わる仕事がしてみたいと思い、勇気を出して参加を決めたこの研修も、終わりを意識するようになってきた。

今日の仕事はバーベナの定植作業。
カーネーションの出荷が来週から本格的に始まるので、手が空いている今のうちに作業を進めた。

これがまあ、地道な作業だった。
一つ一つ丁寧に土を払い、新し

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#20 さりげなく隠れたケモノ

#20 さりげなく隠れたケモノ

風の丘ガーデンでの研修20日目。
猫の様子を確かめてから出勤。もはやストーカーの域であることは否めない。私の顔を見ると甘い鳴き声で鳴いてくれるようになった。私の表情は不気味な笑みで崩れる。数分後、片手に煮干しをこしらえて、今日も援助を行った。

今日は水やりと出荷作業。
世間はすっかり春気分。花の引き合いが多く、最初の頃より出荷作業をすることが多くなった。
今日気になった花は「ガザニア」という花だ

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#18 クローン植物

#18 クローン植物

いつもより1時間早く出勤。
濃霧の中、目を細めながら慎重に運転。
理由はもちろん、子猫の様子を見るためだ。
昨日と変わらず元気な姿を見せてくれる。愛護心を増長させる鳴き声を発し、寝起きの怠さが一瞬に吹っ飛んだ。

そして始まった風の丘ガーデン18日目の研修。

今日行った作業は「挿し木」という作業。

切った枝を土に刺すことで、切り口から根っこが生え、成長することでクローンを生成する。

ごめんな

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#15 花の擬人化

#15 花の擬人化

風の丘ガーデンでの研修15日目。
今日の作業はまず、フレンチラベンダーを移動することから始まった。
全8つあるハウスは、それぞれが気温や湿度が違う。
それぞれの花の状況を鑑みて、移動させることもしばしば。

台車ギリギリまで鉢を詰め込み、丁寧に運んでいく。
この作業自体はさほど苦ではないのだが、フレンチラベンダーを運んでいるうちにあることに気づいた。

この花、よく見ると非常に不気味なのである。

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#14 人間だとバレた日

#14 人間だとバレた日

吾輩は人間である。
この言葉に、嘘偽りはない。

風の丘ガーデンでの研修14日目が終わった。
今日の主な作業は、カーネーションの移動とペチュニアの出荷作業。カーネーションは各種類の花弁がポツポツと咲き始め、それぞれ鮮やかな色をお披露目するようになってきた。

個人的にお気に入りなのが「いちごホイップ」という品種。
大の大人の男が「可愛い〜」というには少々甘すぎる名前だが、ピンクと白の組み合わせがそ

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