旅と花束

花を通して、人と出会い、思いを一つの束にする。

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最近の記事

【OPENまで1週間】 たんぽぽのような花屋を作ろうとしている。

「たんぽぽの綿毛みたいですよね」 地元の大学生で、お店を一緒に盛り上げてくれるナイスガイが言った一言。 まるでたんぽぽの綿毛のように、風に吹かれて土地に根差し、花を咲かせる。そんな「育つ花屋」を、私は作りたいんだなと思った。 ・・・ 長野県に拠点を構えてみると決めたのは、昨年の11月。気づけば5ヶ月の時間が経っていた。正直、思い通りに言ったとは言い難い。来て早々、建設途中の空き家再生プロジェクトのマネージャー(地域おこし協力隊)に就任した。花屋だけで食っていける自信はな

    • 2024年はこんな年にしたい。

      真冬の凍てつく冷たい風を一身に浴びながら、一日が始まる予感なんてまったく感じないほど真っ暗な朝5時、自転車で駆けて市場に行った。初めて自分の好みで、自分のために花を仕入れた。パンパンに籠に花を詰めて外に出ると、卵の黄身が溶けたような橙色の朝焼けが広がっていた。この光景を見たとき、花屋になったんだなと静かに実感した。 初めて花が売れたとき、少し身体が震えた。ピンク色で、花びらの先が白いレースのようにヒラヒラとしているチューリップ。市場で真っ先に一目惚れした花だった。ラッピング

      • この生を誇りに思える気がします。

        人生に彩りが生まれる瞬間はどんな時でしょうか? 私は、自分の想像を超えたポジティブな出来事に遭遇したとき、それが生まれるのではないかと思います。 人生の底に落ちる瞬間はどんな時でしょうか? 私は、自分の想像を超えたネガティブな出来事に遭遇したとき、それが生まれるのではないかと思います。 ・・・ 花屋として、各地を動き回ってみました。 どんどん減っていく貯金に反比例して、たくさんの経験値と出会いが生まれました。文字通りすっからかんです。社会人として大丈夫なのか?と不

        • 旅する花屋が拠点を「塩尻市」に決めた理由。

          国道沿いには熟した葡萄が実り、 壮観な日本アルプスの山々が、雪化粧でおめかしを始めている。 私は今、長野県塩尻市にいます。 こんにちは。 「旅と花束」という屋号を掲げ、実店舗を持たずに全国各地を巡りながら花屋さんをしています。代表の相徳夏輝(アイトクナツキ)です。 車を持っていなかったので、花瓶をキャリーバッグに詰め、面白そうな地域を選び、飛び込む。たくさんの方々に助けていただきながら、生産農家さんや市場の方々、地域プレーヤーとのご縁に恵まれて現在に至ります。 さて、

        【OPENまで1週間】 たんぽぽのような花屋を作ろうとしている。

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        • 花農家で研修をした話
          38本

        記事

          自由と責任と”やってみよう”

          自由だったな、と思う。 昨年の1月、私は賃貸契約を解除した。家を棄てた。 インスタグラマーがおすすめした無印の家具も、高級ハンドソープも人にあげた。何かを所有することをなるべくやめたとき、「理由」を無くすことに成功した。家に帰る理由、どこにも行かない理由、何かに挑戦しない理由・・・。そこまでしてようやく、私の重い腰が上がった。 それから1年半が経った。自由を手に入れた私は無敵だった。いろんな場所に行き、人と会い、職業選択の自由を行使して花屋になった。その途中に失ったものもあ

          自由と責任と”やってみよう”

          現在地とこれから

          承認欲求は否定するものではなく、育てるものなのですね。 約半年間、個人事業主の花屋として活動してきましたが、最初の壁にぶつかったように思えます。今から綴る文章は、未来の私が読み返した時に懐かしむための言葉であり、今の自分にとっての現状整理であります。何に悩み、これからどうしていきたいのか。頭の中はグッチャグチャだけど、誰かに話している感覚で書きます。 「将来どうしたいの?」 と聞かれることがあります。その度に私は、「様々な国の花文化に触れる旅を20代のうちにしたいと思って

          現在地とこれから

          いつか別れる。でもそれは今日じゃない

          美しい文体、秀逸な感情表現、明快でときに辛辣な言葉。 そんな文章に出会うと嬉しさ反面、この言葉が自分の言葉として誕生しなかったことに悔しさを覚える。 本書は、作者「F」が綴る恋愛観や人生観を語ったエッセイだ。女性を中心に圧倒的支持を得ていると聞くが、私はむしろ男性こそ読むべきではないかなと思った。特に、恋愛について語られる章では、女性視点での恋愛における男性の見られ方が語られる。胸を抉られると言うか、恥ずかしいと言うか…。今まで付き合って頂いた女性に皆さん、全員ごめんなさ

          いつか別れる。でもそれは今日じゃない

          【書評】朝井リョウ作「正欲」

          「目も耳も鼻も使えない人がどうやって恋をするか知ってる?」 思い出したのは、友人の言葉。 朝井リョウ作「正欲」。 昨今良く謳われる「多様性」という言葉の核心を痛烈に突いた作品。自分は他人と違うんじゃないかと不安に感じたことがある人はもちろん、誰かを差別してしまったり、イジめてしまった自覚があって、それを少しでも後悔したことがある人は是非読んで欲しい本である。多分、心臓を締め付けられ、脳天を殴られたような気分になる。でもそれは上質な痛みとして、読了後の人生に寄り添ってくれ

          【書評】朝井リョウ作「正欲」

          花が枯れることについて

          花は当然ですが、枯れます。 茎を切って根から離れた切花は、その瞬間から死に向かって時間を加速させます。 食べられるわけでもないし、料理みたいに焼いたり冷凍したりできるわけでもない。 花は、人間が生きていく上で”絶対的に必要ではない”と言う意見があります。私も同じ考えです。ある意味、非合理的な存在。誰かにプレゼントを渡すなら、普段使いできたり日用品だったり、美味しい食べ物が良いかも知れない。自分に対してもそうかも。同じお金を出すんだった、便利でおしゃれで”残り続ける物”が良

          花が枯れることについて

          【香川#2】 軽トラが壊れれば、花農家に出会える

          「風が吹けば、桶屋が儲かる」ということわざがあります。 意味を検索してみると、 「何か事が起きると巡り巡って思いがけない意外なところにも影響が出ること。」 と、結果が出ました。 なるほど。まるで我が人生を体現したような言葉です。 海上保安官を目指して、瀬戸内海に浮かぶ保安船を眺めた高校2年生の夏。 それから約10年後、男は家無し花屋となり、同じ瀬戸内海を見つめている。 きっと、当時の私にも風が吹き、巡り巡って現在の私を形成したのであろう。やれやれ、人生とは解らぬもの

          【香川#2】 軽トラが壊れれば、花農家に出会える

          【香川#1】 ヒッチハイクで大切な場所へ 

          突然ですが質問です。皆さんには、人生の転機となった場所はありますか? 私にはあります。それは、香川県さぬき市「讃岐津田」という小さな海辺の町。 この土地で過ごした1ヶ月での経験が、私を花の世界へと誘ってくれたと言っても過言ではありません。 今回は、再びこの土地を訪れて私の身に起こっているドタバタ喜劇を読者の皆様に共有したく、ノートを書くことにしました。 ・初めての一人ヒッチハイク ・公道で運転中の軽トラックを壊す ・香川県随一の花農家と仲良くなる ・花農家さんの鶴の一

          【香川#1】 ヒッチハイクで大切な場所へ 

          家がないということ。

          家がないということ。 それは、観葉植物屋の店員さんの販促意欲を喪失させるということ。 家がないということ。 それは、真冬のベランダのプレハブで寝たり、敷布団を2つ折にして厚みを出す工夫をしたり、夜中に魔女の宅急便を見て、明け方まで喋り明かしたりすること。 家がないということ。 それは、愉快で優しい人と出会えるということ。 先日、知人が務める観葉植物屋に足を運んだ。 武蔵小杉の商店街から少し外れた場所に位置する「トランシップ」というお店。店内の空間に敷き詰められた観葉植物

          家がないということ。

          企画「旅と花束」始めます。

          脱サラして花屋を始めることにしました。 これで立派な個人事業主。少しでも気を抜くと不安が襲ってきますが、周囲の人から頂く眩い刺激を存分に吸収して、走って行く所存でございます。 本記事は、企画「旅と花束」を皆様に説明するために執筆したものです。 そして、私がいつでも初心に帰れるための備忘録的な役割も果たします。 御目通し時間は約5分ほど(筆者調べ)。最後まで読んでくださると嬉しいです。 屋号「旅と花束」 ある日、屋号を何にしようか考えていました。「旅×花」がテーマだったの

          企画「旅と花束」始めます。

          愉快、痛快、奇々怪々。坂を登ったあのカフェで。

          愉快、痛快、奇々怪々。 東京に住むなら文京区一択である。 異論は認めるが、私は自信を持ってこの街は最高だと信じている。東京大学周辺の町並みは学生街特有な古き良き下町の雰囲気を纏っていて、散歩が楽しい。住民も落ち着いていて、都会の喧騒を忘れることができる。谷中商店街のメンチカツは美味しいし、おしゃれな銭湯だってある。 そして何より… 最高に面白い奴がいた場所でもあった。 満員電車を忌み嫌う私は、次に東京に住むときはなるべく職場から徒歩圏内の距離に居を構えたいと考えていた。そ

          愉快、痛快、奇々怪々。坂を登ったあのカフェで。

          花を通して人と関わり、旅をする。

          大学時代、就職活動が思い通りに行かず自暴自棄になっていた。そんな私を家から連れ出してくれた友人Kには感謝してもしきれない。日が照りつける8月の昼間、二人で永遠に続くかと思われた広大な田園を自転車で駆け抜けた。その時、自分がいかに社会に対して無知であるか思い知らされた。私達が日々の生活の中で関わる職業はほとんどが第三次産業と呼ばれる。サービス業や金融、ITなどが当てはまるだろう。そのため、少なくとも私は、仕事のほとんどを第三次産業から選ぼうとしてしまっていた。しかし、目の前の田

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          台湾にようこそ

          初めて海外に行った。20歳の時だった。 大学がつまらなく感じ、一日中家に引きこもる日々が続いていた。確か、寒い京都の冬が終わりの兆しを見せかけた、そんな季節だったと思う。その日はダウンジャケットを着ることはなく、厚手のパーカーだけで一日を過ごしていた。 退屈しのぎに床に転がっていた本を手にとった。タイトルは「深夜特急」。沢木耕太郎氏が書いた、香港からロンドンまで乗合バスで旅をする、という実話に基づいた旅物語だ。大学生になる際、父から「これは幾多の人間の人生を狂わせできた本だ

          台湾にようこそ