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【小説】”彼”と周囲の事情(1)【山岸美優】
山岸美優は、戸惑っていた。
今、彼女達は、渋谷の路地裏にいた。なんでこんなことになっちゃったんだろ、と、頭を抱えたい気分に陥りつつ、隣にいる親友を横目で見ながら、黙り込むしかない。
「ヨォヨォ〜、何か言ったらどうなんだよ?」
彼女達を取り囲んでいるのは、どう見ても無職にしか見えないチンピラ崩れの男達数名だった。強かに飲んでいるようで、呂律も足取りも危うい。
美優達も、つい先ほどまでは、表通り
【小説・序章】子猫と”彼”
それを見てしまったのは、本当に偶然だった。
街外れの、古いマンションのベランダの下にある隙間に、小さな黒いカタマリが、しゃがれ声で『にゃぁあ〜、にゃぁああ〜』と、悲痛な声をあげていた。
その声を聞きつけた僕が、そっと近寄ろうかと思った瞬間。
目の前を、長い影がスッと通りすぎて行ったのだ。
「・・・オマエも、俺と同じか」
大きな手で、その小さなカタマリを掬いあげると、目の前に持ってきて、”彼”