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これからの物語

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短編の小説たちです! 電車や待ち時間なんかにサクッとどうぞ! 夜中にハイボールのアテにしてもエモい哉。
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夢のない男

夢のない男

「わたしには夢があります」と、彼らは言う。

「わたしには夢がありません」と、わたしは言う。

朝は6時半に起きる。白米と味噌汁と、それから小粒の納豆。

いわゆる満員電車に乗る毎日。横から飛んでくる誰かの罵倒。

改札前はいつも、どこにSuicaを入れたか忘れてまごつく。

朝から晩まで、0と1の世界に潜り込んで、夜になったらまた元の世界に戻る。
木々が生い茂るところ。塩がしょっぱいところ。海が

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新幹線に乗って

新幹線に乗って

18時8分発、JR東海道新幹線のぞみ248号、東京行。

12番線はいつもと同じ人混みで、いつもと同じシナモンの香りがする。

電車は電光石火のように素早くやってきて、1分も経たないうちにわたしたちを乗せて走り出す。

最後に京都タワーを拝む暇もなく、気がつけば岐阜羽島を過ぎている。

車内は結局静かで、世界はわたしを置いていく。

それとも、置いていったのはわたしかな。後悔かな、諦めかな。

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「やさしさのめぐる」村にて

「やさしさのめぐる」村にて

目が覚めると、全く見覚えのない部屋にいた。殺風景で、窓のない部屋。コンクリートに囲まれ、光は小さな白熱電球のみ。
なぜか身体中が重い。重いというか、痛い。意識を失う前の記憶が混濁していて、ここに来るまで何をしていたのか、全く思い出せない。

一体どこだ?ここは。
あたりを見渡すと、部屋の隅には重たそうな鉄扉がある。軽くノブをひねろうとするが、ぴくりともしない。絶対開かないだろうなと思いながら、や

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缶コーヒーの中身

缶コーヒーの中身

画面越しに映る、高速道路や地下鉄の入り口。歓楽街に集う者たち。
昼間と夜間で、この街の景色は違う。

忙しそうに牛丼をかきこむ人、自らとつぶつぶのタピオカミルクティーを一緒に写真に残す人、狭そうな喫煙所で狭そうに煙をくぐらせる人。一眼レフカメラで、なにやら眺めている人もいるのかもしれない。いろんな人がいる。そう、いろんな人が。

全然関係のない話をしよう、わたしはこの話が大好きなんだ。
わたしは

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