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大日本末期文学全集

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終末感が滲み出る文章がまとまったら、ここに投稿します。イラストと文を合わせて一つの作品になっていることもあるので、雑誌のような感覚でお楽しみください。
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2023年4月の記事一覧

『「おじいちゃんやめなよ」』

『「おじいちゃんやめなよ」』

「おじいちゃんやめなよ」

あまりにわたしが小さかったので

その言葉を発したことをのぞいて

ほとんど記憶がないのだけど

春先に父の実家へ帰省すると

いつも庭先に

土俵ができあがっていて

そこへ大きなひとたち

お相撲さんが何人もやってきて

おじいちゃんは

近所のひとたちを集めて

お相撲見物をさせていたそう

お相撲さんたちのなかにはたしか

テレビで見たことのあるひとも

きっと

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『見て見ぬふりは』

『見て見ぬふりは』

「不穏分子はすべてぶち込んでおけ」

鶴の一声でそう決まり

「看守もいらんからな」

異端や邪道とされたものたちは

「どうせ逃げられないだろ勝手にさせろ」

軒並み揃って離れ小島の流刑地へ

規律や秩序のない

荒くれ者たちだけのコミュニティが

にわかに形成されて

それは集団の体を成していないから

もっともコミュニティと呼べるかどうか

とにかく小さな小さな領域に

次から次へと詰め込ま

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『          』

『          』

いまわたしは

泣きながらこの文章を綴っています

もうなにもかもがいやになりました

でもちゃんと生きますので

その点はしんぱいしないでください

にちじょう生活がつらくて

つらくてつらくて

いやでいやでいやでいやで

いやで

あぁもうどうにでもなれと思い

抑圧から解放されたいいっしんで

わたしがそんなときに

できることといえば

こうしてぶんしょうを綴ること

それくらいなのです

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『「まず記憶や自覚がないことを」』

『「まず記憶や自覚がないことを」』

部下のNさんが辞めるという

新卒以来

この部署に配属されて

4年が過ぎた

我が部署で

唯一の女性社員

仕事ぶりは堅実

職場での人間関係も

まったく悪いようには見えず

まぁ気になる点といえば

少々おとなしく

自己主張がほとんどないこと

だから辞めるだなんて

そんな気配は

まったく感じなかった

それはある意味私の

管理不行き届きなのか

こういう場合

その理由について

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『別調整組B(浮橋)』

『別調整組B(浮橋)』

「おゴールデンウィークだっつてえ!」

「うぃす!」

「浮かれてんじゃねぇぞぉ!」

「うぃす!!」

「夏はもうすぐそこだぁ!」

「うぃす!!!」

「散れぇ!」

「うぇーす!!!!!」

--

「散れぇ!」

「あの、か、監督…」

「なんだぁ!あ、う、浮橋…」

「あの…」

「なに…」

「あの僕だけ…」

「仕方ないんだ…」

「そうですよね…」

「申し訳ないけどさ…」

「わ

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『熊とたたかう』

『熊とたたかう』

中学を卒業してから

もうずいぶんと経つけど

まだあの行事はやってるんだろうか

熊とたたかう

野生のヒグマとたたかう

毎年3年生の春先

学校でいちばん強いやつが

ひとり森のなかへ放たれて

たたかうと言っても

お察しのとおり

いくら若くて

体力に自信があろうが

武器も持たない

生身の人間が

ヒグマに勝てるわけはなくて

少なくとも自分の在学中や

その前後を含めて

勝率は

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『じゃがいもとたまねぎを育ててるって』

『じゃがいもとたまねぎを育ててるって』

じゃがいもとたまねぎが

大量に届いた

会社を辞めて

田舎暮らしを始めた

S先輩から

カレーでもつくってください

って手紙が添えられてて

S先輩はニューヨーク生まれ

シンガポール育ち

仕事はずっと東京だったらしい

なかなかそういう方の移住って

うまくいかないともきく

ただS先輩の場合は

財源は充分に確保したうえで

スローライフを楽しんでいるらしい

なんたっていま

僕の

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『ニンジャさまの御一行がぁ』

『ニンジャさまの御一行がぁ』

「またか」

「誠に申し訳が…」

「よい、次を探せ」

「御意」

--

おらぁがムラへぇ

ニンジャさまの御一行がぁ

やってぇくるだぁもんで

いっしょけんめぇ

おむかえのじゅんびをしたった

ほしたらなぁ

長老さんからぁよ

おらぁ叱られただぁ

なぁーんでだべ

ニンジャさまってぇのはぁ

カンジで書きゃぁ

シノブと書くもんで

そうそう目立っちゃだめだぁて

そういうもんでなぁ

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『話が逸れてごめんね』

『話が逸れてごめんね』

パパとママは

ちょうどいまのわたしと

同じ年くらいのころ

大学のジャズ研究会で

出会ったんだって

だからおかげで

いつも家のなかでは

ジャズが流れていて

誰だかわからないけど

曲名もおぼろげだけど

わたしも知っているメロディは

とても多くて

ママが写真のアルバムを出して

みせてくれた

どうでもいいけど

むかしってチェキでもないのに

わざわざ写真を印刷して

挟んでた

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『ちょっとまだ考え中』

『ちょっとまだ考え中』

独身寮といっても

一棟をまるまる会社が借り上げて

そこへ家庭をもたない男連中が

振り分けられているだけだから

いちおうプライバシーは

守られていて

隣室の角部屋の先輩が

また何やら揉めている

もう深夜と言っていいくらいの

そんな時刻なのに

まぁどうせいつものあれだろう

厩橋総務課長も大変だよな

先輩は先月いっぱいで

退職している

それなのにまだこのアパートを

出て行か

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『忌避』

『忌避』

甚だ唐突だが私は会社で

同僚全員に無視されている

上司からも部下からも

もちろん同世代からも

仕事はきちんと与えられるし

また私の指示で部下は動く

ただわきあいあいとした職場で

唯一私だけが雑談の輪に

決して入れてもらえない

考えようによっては

業務に集中できるから

それでよしとしているが

寂しいことには変わりない

ランチや飲み会などに

誘われることも絶対にない

私の

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『にんにくのおにいさんとおねえさんが』

『にんにくのおにいさんとおねえさんが』

にんにくのおにいさんとおねえさんが

ぼくたちのがっこうに

おはなしにきてくれました

にんにくをたべると

けんこうによいとか

げんきになるとか

いろいろおしえてくれました

にんにくのおにいさんは

きんにくがすごくてまっちょで

てかてかひかって

かっこよかったです

にんにくのおねえさんは

よくわからないけど

ぶるんぶるんして

おとなっぽかったです

ふたりともすごくくさかっ

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『三本の足で』

『三本の足で』

Olsen氏は懸命に働いた

都会の片隅で雑貨商を営んでいる

ときに従業員を罵倒し

顧客をも激怒させたことがあった

しかし事業は順調に進み

Olsen氏はたった一代で

世界でも指折りの

サプライチェーンの経営者に

名を連ねるまでになった

そんなOlsen氏も

病には抗えなかった

若くして

床に伏した

短い療養が済んだら

すぐにオフィスへ戻ると

誰もがそう思った

ところ

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『華美で教育現場にふさわしくない』

『華美で教育現場にふさわしくない』

わたくしが教師という

子供たちを指導する立場

教育を運営する立場になって

初めてわかったこと

そんななかでもっとも重大で

衝撃的かもしれません

鉛筆のこと

その昔よりは若干

その数は減ったとはいえ

あいかわらず

わたくしの勤務先を含めた

小学校の教室では

鉛筆を使うことが半ば強要され

シャープペンシルは

悪の権化であるかのような

酷い言われようです

芯が折れやすい

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