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rainbowray
『ちょっとまだ考え中』
独身寮といっても
一棟をまるまる会社が借り上げて
そこへ家庭をもたない男連中が
振り分けられているだけだから
いちおうプライバシーは
守られていて
隣室の角部屋の先輩が
また何やら揉めている
もう深夜と言っていいくらいの
そんな時刻なのに
まぁどうせいつものあれだろう
厩橋総務課長も大変だよな
先輩は先月いっぱいで
退職している
それなのにまだこのアパートを
出て行かない
先輩の退職の挨拶
「退職をしても寮にはしばらくいますので」
そんなことができるのだなと
思っていたのだけど
それは単に独断と横行らしくて
退去を促すために
厩橋総務課長は
毎晩のように隣室を訪れていると
そういうわけ
「家賃払うって言ってるでしょうが！」
なんだかいつもより騒がしいな
「ぜったいに俺は動きませんよ！」
遅い時間に迷惑だから
ほんとうに勘弁してほしい
しょうがないから僕は
音量を大きめにして
音楽をかけた
「ほら！隣の鈴木も俺の見方ですよ！」
え
ええ
そんなつもりはないけど
仕方がないのでボリュームを下げた
「おい鈴木ぃ！応援してくれよぉ！」
直接呼びかける声まで
聞こえてきた
いよいよ行き場を失った僕は
先輩と厩橋総務課長には
申し訳ないとは思いつつ
匿名で１１０番にかけた
怒鳴り合いのような声が
とてもうるさいですと
早く引き取ってもらわないと
毎晩毎晩
僕も迷惑なんだよね
そんなふうに呟いたら
でもお隣さんのおかげで
うちの旦那の帰りも遅いから
こうして逢えてるんじゃないのって
厩橋総務課長の奥さんが
僕の腕のなかで
にっこり微笑んで
まぁそれはそうなんだよね
ところで僕もそろそろ
退職しようかな
僕はもちろん
すぐにここを引き払うけど
そのとき奥さんを
連れて行くかどうかは
ちょっとまだ考え中