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読んだ本の感想、日々に感じたこと考えたことなどスケッチします。

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記事一覧

出会うべくして出会うこと

 巡り合わせか偶然か、時折、今読む本なんだよと思える一冊に出会うことがある。『数学する身体』がそうだった。  本に思い出がある年齢をさかのぼれば、幾冊も良い出会…

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6日前
53

「存在のありどころ(疎外と暴力)」

 《存在のありどころ》を問えば、ただここにいて“茫然”としているそこと答える。  サルトルは「人間は自由の刑に処せられている」と言った。ただ立ち尽くし“茫然”と…

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13日前
62

自分は正しい

“自分だけは正しい” “自分だけは許される” “自分だけは特別だ”  銃を構える奴は、撃つ方も撃たれる方も、撃たれる方も撃つ方も、自分が正義と疑わない。疑わないだ…

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3週間前
63

身一己(みいっこ)

 朝(あした)に生まれ、夕べに死すなら、たとえば蜻蛉(かげろう)のような生き物なら、日の出とともに再び明日が始まるだろうことは理解できない。『日昇し日没するだろ…

GEN
3週間前
46

足乳根の母は死にたまふなり

 母という“秩序”がこの世から失せたのは30年以上前のことだ。子はのち、大人となり、人並みの苦労も味わった。しかし今、失われ取り戻せないものがあると強く思っている…

GEN
1か月前
35

コミットメント(関与・参加)

 ただ参加し、役割を求めるでもなく、当然だが報酬などまったく期待することはない。  偶然見かけたポスターに、『予定のない日曜日の午後にあるから行ってみよう』とい…

GEN
1か月前
31

長男にことばを

 今日は長男の結婚式だった。型通りの祝辞もよかったが、良い時も悪い時も共に生きてきた子だ、心から伝えたいことを文豪の力を借りて言葉にして送ることにした。

GEN
1か月前
25

凡人の追記

 人は無限に堕ちきれるほど堅牢な精神にめぐまれていない。何物かカラクリにたよって落下をくいとめずにいられなくなるであろう。そのカラクリをつくり、そのカラクリをく…

GEN
1か月前
17

純度100%の愚痴

 馴染みのお好み焼き屋のマスターの体調が悪い。入院してもう数週間になるが、回復の見込み、退院の見通しが立たない。急場しのぎで娘さんが奮闘して店を切り盛りしている…

GEN
1か月前
16

月曜日の憂鬱

 毎日毎日同じ道を走っている。バイクにしがみつきながら思う、それは人生の可能性を踏みつぶすことだろう。  かつて旅していた時とは乖離した日々。一直線に目的地に向…

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2か月前
13

なんで殴りあう

 ボクシングをする。スパーリングの大会に出たりする。還暦間近の年齢と、80kgオーバーの体格ゆえに適当な対戦相手がいない。今日はひとまわり以上年下の手練れに散々な目…

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2か月前
10

死を身近に、

 車は無謀な運転だった。突然壁が現れ進行方向を遮られたようなものだった。力の限りブレーキを握って、でも、どうしたってこのバイクは衝突を免れないことがどんどんわか…

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2か月前
12
出会うべくして出会うこと

出会うべくして出会うこと

 巡り合わせか偶然か、時折、今読む本なんだよと思える一冊に出会うことがある。『数学する身体』がそうだった。

 本に思い出がある年齢をさかのぼれば、幾冊も良い出会いがあった。大きな影響を受けた本があり、それは皆とても偉大な人たちの仕事ようだった。

 拙劣極まりない愚か者は、そうした人達の仕事を、高い山のように見上げ、霞む頂を見て、麓に近づいては巨大さに圧倒され、視野に収まりきらない全体像を、ガイ

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「存在のありどころ(疎外と暴力)」

「存在のありどころ(疎外と暴力)」

 《存在のありどころ》を問えば、ただここにいて“茫然”としているそこと答える。

 サルトルは「人間は自由の刑に処せられている」と言った。ただ立ち尽くし“茫然”としているのは『自由の刑』に処せられる姿なのか。

 しゃべろうとしても“主語”になる言葉が見つからないので、代わりに古い友人に主語(おれ)になってもらう。

 中上健次の初期の代表作『十九歳の地図』は、新聞配達をしながら生計を立てる予備校

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自分は正しい

自分は正しい

“自分だけは正しい”
“自分だけは許される”
“自分だけは特別だ”

 銃を構える奴は、撃つ方も撃たれる方も、撃たれる方も撃つ方も、自分が正義と疑わない。疑わないだけの理由を弾丸にこめる。でないと引金など引けないだろう。

 信号を無視しても『急いでるから』、電車の列に割り込んでも『疲れてるから』、歩きスマホしても、そこらにゴミをまき散らかしても正当化する理由はある。弾丸に込めたのと違わないものだ

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身一己(みいっこ)

身一己(みいっこ)

 朝(あした)に生まれ、夕べに死すなら、たとえば蜻蛉(かげろう)のような生き物なら、日の出とともに再び明日が始まるだろうことは理解できない。『日昇し日没するだろうこと』は蜻蛉の寿命(身)で引き受けられない。それはこの生き物の境涯だ。

 もちろん言葉を持たない蜻蛉に「今日」も「明日」もなく、これはたとえ話。ただ生き物は『およそ己の寿命のうちに変化する“出来事”をわが身に引き受けている』ということを

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足乳根の母は死にたまふなり

足乳根の母は死にたまふなり

 母という“秩序”がこの世から失せたのは30年以上前のことだ。子はのち、大人となり、人並みの苦労も味わった。しかし今、失われ取り戻せないものがあると強く思っている。それは母の存在を中心に構成された“いつかの世界”のことだ。

 いさぎよい人生でありたいと願う。グズグス言うのも性に合わない。しかし『ボクは迷子になりました』と大きな声で叫ぶ。喪失感が豪雨のようである時、やまない雨だと思う時に。

 む

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コミットメント(関与・参加)

コミットメント(関与・参加)

 ただ参加し、役割を求めるでもなく、当然だが報酬などまったく期待することはない。

 偶然見かけたポスターに、『予定のない日曜日の午後にあるから行ってみよう』という気まぐれで、祭りの実行委員会に連絡した。

 曳き手となる約束をした今朝は、午後から天候も崩れそうだし『もうよそうかな』と少し考えた。
 しかしこれは“何でもないこと”(無為)だからと思うと、不思議となおさら『参加しよう』という気持ちが

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長男にことばを

長男にことばを

 今日は長男の結婚式だった。型通りの祝辞もよかったが、良い時も悪い時も共に生きてきた子だ、心から伝えたいことを文豪の力を借りて言葉にして送ることにした。

凡人の追記

凡人の追記

 人は無限に堕ちきれるほど堅牢な精神にめぐまれていない。何物かカラクリにたよって落下をくいとめずにいられなくなるであろう。そのカラクリをつくり、そのカラクリをくずし、そして人間はすすむ。堕落は制度の母胎であり、そのせつない人間の実相を我々は先ず最もきびしく見つめることが必要なだけだ。
(坂口安吾)

 オレは低俗で世間並み。朝、オレはオレより偉い奴に起こされて、そいつに従って決まった時刻の列車に飛

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純度100%の愚痴

純度100%の愚痴

 馴染みのお好み焼き屋のマスターの体調が悪い。入院してもう数週間になるが、回復の見込み、退院の見通しが立たない。急場しのぎで娘さんが奮闘して店を切り盛りしている。

 カウンターで娘さんは気丈に振る舞う。でも心底マスターの体調を心配し、それが時々イライラな態度に現れる。ストレスが隠し切れない。

 こうして自分を心配してくれる人がいて、常連さんたちが回復を気にかけて、病状の深刻なことは察するが、そ

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月曜日の憂鬱

月曜日の憂鬱

 毎日毎日同じ道を走っている。バイクにしがみつきながら思う、それは人生の可能性を踏みつぶすことだろう。

 かつて旅していた時とは乖離した日々。一直線に目的地に向い進む。それも一生に違いはないが、どうも本質が抜け落ちる。「孤独」だということ。孤独だからこそわかるどうにもならんアホなこと。

 旅の朝の期待に満ちた気分は、今朝は微塵もない。幻想も入り込む余地がない。さまよえばコイツが何の才覚もない凡

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なんで殴りあう

なんで殴りあう

 ボクシングをする。スパーリングの大会に出たりする。還暦間近の年齢と、80kgオーバーの体格ゆえに適当な対戦相手がいない。今日はひとまわり以上年下の手練れに散々な目にあわされた。

 何もできなかった悔しさと、『どう考えても16オンスの衝撃やないやろ』という苛立ちと、頭痛のせいで眠るのに苦労する夜になりそうだ。試合後は酒も御法度(脳に悪い)うさも晴らせない。

 このまま寝たら朝目が覚めないかもと

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死を身近に、

死を身近に、

 車は無謀な運転だった。突然壁が現れ進行方向を遮られたようなものだった。力の限りブレーキを握って、でも、どうしたってこのバイクは衝突を免れないことがどんどんわかってくる。

 右折禁止エリアを右折して、一方通行の道に逆走して進入しようとした車が、一方通行路の対向車に気づき道路の真ん中で立ち往生した。
 突然進行方向を塞いだ車に、バイクは正面衝突、オレは頭から車の助手席に突っ込んだ。

 からだをガ

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