見出し画像

純度100%の愚痴

 馴染みのお好み焼き屋のマスターの体調が悪い。入院してもう数週間になるが、回復の見込み、退院の見通しが立たない。急場しのぎで娘さんが奮闘して店を切り盛りしている。

 カウンターで娘さんは気丈に振る舞う。でも心底マスターの体調を心配し、それが時々イライラな態度に現れる。ストレスが隠し切れない。

 こうして自分を心配してくれる人がいて、常連さんたちが回復を気にかけて、病状の深刻なことは察するが、そんなマスターを羨ましく思う。

 どこでのたれ死のうが、誰も気にかけない奴なんてたくさんいる。悲しんだり、気遣ってくれる人もない、そんな奴はたくさんいる。

 芥川龍之介の蜘蛛の糸。しがみつき、苦しみや痛み、絶えられない存在の重さを吊るす蜘蛛の糸に、つかまりたくはないのに、手を離せば命がはがれ落ちる現実の恐怖がある。

 物語では糸が”仏の慈悲”ということになる。しがみつこうとする心は苦しみ(煩悩)だと解釈される。時折、そんな教科書通りの解釈が馬鹿馬鹿しくなる。我が身を恥じつつ凡夫(バカ)以外この世に誰がいるんだよと言いたくなる時がある。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?