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凡人の追記

 人は無限に堕ちきれるほど堅牢な精神にめぐまれていない。何物かカラクリにたよって落下をくいとめずにいられなくなるであろう。そのカラクリをつくり、そのカラクリをくずし、そして人間はすすむ。堕落は制度の母胎であり、そのせつない人間の実相を我々は先ず最もきびしく見つめることが必要なだけだ。
(坂口安吾)

 オレは低俗で世間並み。朝、オレはオレより偉い奴に起こされて、そいつに従って決まった時刻の列車に飛び乗る。朝メシの腹をちょっとばかり揺さぶられ、引きずられながら何かが始まる。

 とにかく歩く。とにかく職場まで歩く。行き交う人もみんな何かに引っ張られて歩くよう。方角はバラバラだけれど、一方向に向かっている。

これは「義務」なのか?
何かの「負債」を負うのか?

 さて、さっき電車の降りぎわに、佐藤さんに出くわした。乗るあの人は降りるオレの腕を引っ張って会釈した。あゝあの人も、列車で行った。「何か」に引っ張られて行くのだ。

 まだ職場に着かない。引っ張られる毎日はひどくないかな。しかし、その身の上にあぐらをかく連中がいて、いい気になって命令してくる。オレたちがつないでいるだけなのに、おもしろいくらい偉そうにふんぞり返りる。

 奴らはどこかの土地に線を引き、どこにだって名前を書き、王国をつくる。オレの国とか「権利だ」とか言って、永久に凡人から徴税する。

 小さな国に王様がたくさんいる。小さな王様は命令する。王様は非凡な天才だろうか。それならきっとオレも天才だ。つながれてないのに毎日引っ張られているのだから。

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