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映画レビュー

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新作映画などを紹介します。海外作品、特にヨーロッパのものが多め。
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映画『春の画 SHUNGA』/美術展示「銀座の小さな春画展」

映画『春の画 SHUNGA』/美術展示「銀座の小さな春画展」

ドキュメンタリー映画『春の画 SHUNGA』(監督:平田潤子)は、春画のコレクターや愛好家、研究者、アーティストらの話から、春画の多彩な世界や魅力を紹介する。

無修正で春画を映し出すため、R18指定。春画をアニメーションのように動かして、俳優の森山未來と吉田羊の詞書の朗読により、濡れ場(?)的なシーンも少しある。

美術家の横尾忠則と会田誠、作家の朝吹真理子も出演。横尾は、血のつながっていない母

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『マシュー・ボーンIN CINEMA/眠れる森の美女』

『マシュー・ボーンIN CINEMA/眠れる森の美女』

オーロラ姫が王子ではなく森番の青年(名前はレオ)とひそかに恋人だったり(つまり身分違い)、悪い妖精のカラボスの息子カラドックが母の復讐のためオーロラと結婚しようとしたりと、クラシックバレエの『眠れる森の美女』とはストーリーが少し(だいぶ?)違う。舞台設定も、オーロラが目覚める頃(眠りに就いてから100年後)は現代のようだ(オーロラの伝説が知られていて、城に観光客が写真を撮りに訪れる場面がある)。

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映画『ソウルに帰る』フランスで養子として育った女性が初めて出生地の韓国へ

映画『ソウルに帰る』フランスで養子として育った女性が初めて出生地の韓国へ

韓国で生まれて間もなくフランスに養子に出され、生物学上の両親を知らずに韓国語を習うこともなく育った25歳の女性が、ひょんなことから初めてソウルを訪れる。そこで知り合ったフランス語を話す女性の協力を得て、実の両親を捜そうとするがーー。

韓国とフランスの描き方に少しステレオタイプ的なところもあるのだろうかとも思いつつ、それよりも主人公の個性が際立つ映画だ。

※以下ネタバレ注意。

作家でもあるグカ

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映画『サントメール ある被告』アリス・ディオップ監督:「私」の存在がおびやかされる時

映画『サントメール ある被告』アリス・ディオップ監督:「私」の存在がおびやかされる時

最近(といっても10年以上?)のフランス映画はハリウッド的なエンタメ要素も強くて見やすくて、その中でも社会問題を扱った割と骨太のいい作品もあったが、この映画は別格ではないだろうか。少なくとも社会的テーマを扱ったシリアスな映画としては数十年に1本といえる質の高さだと思う。

フランス北部の海辺の町サントメールで、生後15カ月の娘を死亡させた容疑によりセネガル出身のロランスが裁判にかけられる。作家のラ

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映画『君たちはどう生きるか』宮崎駿監督

映画『君たちはどう生きるか』宮崎駿監督

特に気に留めていなかったが、ひょんなことから見に行った。

児童文学(ナルニア国物語、不思議の国のアリスなど)やジブリ作品の要素がいろいろと詰め込まれている印象。映像はすごい(IMAXで見たせいかはわからないが、たぶんそうでなくてもすごい)。劇中音楽はややベタ過ぎ?声は棒読み的な人と上手な人が適度に混ざっていた感じ。

太平洋戦争中の話だが戦争は直接的にはほとんど描かれず、裕福な一族内の物語となっ

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映画『CLOSE クロース』少年同士の柔らかな親密さから生じる悲劇と再生

映画『CLOSE クロース』少年同士の柔らかな親密さから生じる悲劇と再生

13歳の少年であるレオとレミは幼なじみで仲がよい。中学に入学するとそのことを同級生にからかわれ、レオはレミに冷たくしてしまい、2人はけんかする。レオは「男らしい」スポーツを始めるが、戸惑ったレミはーー。

悲惨な出来事を描くが、センセーショナルな描写はせず、語り過ぎず、淡々と静かに物語が進行する。さりげないが力強い演技と、色彩と光が印象的な映像が美しい。

関係性をラベリングして決めつけないこと、

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ロイヤル・バレエ『赤い薔薇ソースの伝説』シネマ上映

ロイヤル・バレエ『赤い薔薇ソースの伝説』シネマ上映

1992年の映画『赤い薔薇ソースの伝説』(スペイン語: Como agua para chocolate、英語: Like Water for Chocolate)を昔見たので(映画には原作小説があるが、読んでいない)、どんなバレエ作品になるのだろうとかなり気になっていた。

クリストファー・ウィールドン振付。フランチェスカ・ヘイワード主演。

物語をわかりやすく伝えつつ、官能的な世界を音楽や踊り

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映画『アフター・ヤン(After Yang)』

映画『アフター・ヤン(After Yang)』

夫妻と中国から来た養子と共に家族の一員のように住み、子どもの世話を担当するロボットのヤン。AIが搭載されており、見た目や動き、話し方は人間のよう。彼には「心」もあるのか?ある日突然停止したヤンの内部と過去を、残された「家族」がたどる物語。

『不思議の国の数学者』脱北した天才数学者と自信を失っている高校生の関係を描く韓国映画

『不思議の国の数学者』脱北した天才数学者と自信を失っている高校生の関係を描く韓国映画

経済的格差、学歴社会の暗部、南北の問題などの社会問題と、数学や音楽の関係と美しさを、わかりやすい物語で描き出している。親子(とそれに類似した)愛情も大きなテーマ。

円周率の数字を楽譜に見立てた円周率のピアノ曲や、バッハの「無伴奏チェロ組曲 第1番 ト長調」が響き渡る。

正しいとされるものに盲目的に従うことの危険性と、自分なりの美学のようなものを追求する大切さ。

ラストの展開では、パスポートを

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映画『裁かるるジャンヌ(La Passion de Jeanne d'Arc)』カール・テオドア・ドライヤー監督

映画『裁かるるジャンヌ(La Passion de Jeanne d'Arc)』カール・テオドア・ドライヤー監督

1928年のフランスのサイレント映画。ジャンヌ・ダルクの異端審問裁判とジャンヌの火刑を描く。クロースアップ(クローズアップ)が効果的に使われている。

映画『散り行く花 Broken Blossoms』日本語字幕版 全編:1919年アメリカ、デヴィッド・ウォーク・グリフィス監督

映画『散り行く花 Broken Blossoms』日本語字幕版 全編:1919年アメリカ、デヴィッド・ウォーク・グリフィス監督

パブリック・ドメインのサイレント映画。音楽が使われ、場面の状況やせりふが文字で表示される。上映時間は約1時間30分。

短編小説が原作。アメリカのスラム街で、中国人青年が、ボクサーの父親から暴力を受けている15歳の少女に恋をする。

アメリカ出身の同監督は、人種差別の表現が当時から問題とされた無声映画『国民の創生』(原題:The Birth of a Nation、1915年公開)も撮っている。

ナショナル・シアター・ライブ(NTLive)『かもめ』チェーホフ作、ジェイミー・ロイド演出

ナショナル・シアター・ライブ(NTLive)『かもめ』チェーホフ作、ジェイミー・ロイド演出

イギリスのナショナル・シアターの舞台が日本の映画館で見られるシリーズ。ナショナル・シアターは古典的な戯曲や文学作品でも演出が面白いことが多いのだが、今回の舞台も、1人1脚の椅子が置いてあるだけの舞台セットで、その椅子を動かすことで場面転換や心情の変化、関係性を表現したりするという興味深い演出だった。

(多様な人種やいわゆる身体障害のある俳優が出演していることは、ナショナル・シアターなどイギリスで

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