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2024年2月の記事一覧
〔ショートショート〕 未来よりも明るい時間
アイマスクをして眠るキミを見るのが好きなんだ。キミの寝顔を見ながら、一緒に行った旅行先で見つけた振り子時計を思い出す。
その時計があったのは古い小さな旅館で、駐車場にボクらの車が入るとすぐに女将さんが迎えてくれた。隅々まで掃除が行き届いている庭と、木の葉を風が撫でる音が気持ちが良かったのを覚えている。
そして玄関を入ってすぐのところに、それはあった。「調整中」と書かれた札が貼ってある大きな
故障じゃない、今日は壊れた。
心の壊れる音が聞こえたから、エアーマネキンを買った。
浮き袋みたいに空気を入れたら膨らむ、その人形に文字を書く。
とりあえずは、手の辺りに初めて繋いだ日付を書く。それから、一言、「あたたかい」と付け加える。
顔には、何を書こうか。
瞳の色、ちぐはぐな歯並び、好きになった笑顔、花粉症。思い付くことを手当たり次第に書く。そして、書き終えたら次の場所へと移る。
背中は広い……。足は毛深い……
なにがどうなるかなんて、分からない。
写真に撮られるのが大キライなのに、その写真だけ持って出た。
それは、保育園のときの写真。友達が九人と、その真ん中に園長先生が並んでいる。みんな笑顔だし、私が記憶する限りその笑顔は本物だった。笑顔にニセモノがあるなんてまだ知らなかったときの、わたしが写真をキライになる前の写真だ。
そんなものを一人暮らしを始めるという日に、御守りみたいに持って家を出る。困ったときに悩みを聞いてくれる、なによりご