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#261 『「日本企業」という企業はない』を読んで【日経新聞記事】

本日の日経新聞朝刊37面、経済教室の記事を読んでメモ。


1、どんな記事?

一橋大学の楠木建教授が寄稿した『「日本企業」という企業はない』という記事です。楠木教授は「逆・タイムマシン経営論」を書かれた方です。この本は以前取り上げました。


記事の「ポイント」として以下3点が挙げられています。
☑️ 優良企業はコロナ前から戦略の根幹不変
☑️「日本的経営」はマクロ要因へのすり替え
☑️ 日本企業を主語にして戦略や経営語るな


1点目について、

コロナ禍で業績を伸ばした企業として、ファーストリテイリングとアイリスオーヤマを例にあげた上で以下のように述べています。

ポイントはパンデミックへの対応の巧拙ではない。コロナ以前から練り上げてきた戦略が真価を発揮したというのが実相だ。コロナ対応だけを見ていては競争優位の正体は分からない。

また、競争力の本質を見据えることが大切だとした上で、本質について以下のように述べています。

本質とは何か。「そう簡単には変わらないもの」、ここに「本質」の本質がある。ビジネスは変化の連続だ。しかし、歴史に目を凝らすと、一貫して変わらないものが見えてくる。両社とも、基軸となる戦略ストーリーはコロナ禍のずっと前から変わっていない。変化を追うことで初めて不変の本質が浮き彫りになるという逆説だ。


2点目について、

その最大の問題点を以下のように指摘しています。

マクロへのすり替えの最大の問題は、経営者をはじめとするビジネスパーソンが他責思考に陥りやすいことにある。どうもうまくいかない。その多くが自分の責任だが、経営者が「(自分の)経営が悪い」と言えない。そこで責任をかぶせる犯人を探す。都合が良いのが日本というマクロシステムだ。「日本が悪い」なら自責に戻ってくる心配はない。心地よく思考停止できる。


3点目について、
「日本企業」はフィクションに過ぎないとした上で、その矛盾を以下のように指摘しています。

そもそも戦略の本質は、競合他社との違いをつくることにある。優れた戦略や経営に一般解はない。それが優れたものであるほど、戦略は特殊解になる。「ダイバーシティーが大切だ」と言いながら、企業の多様性を無視し、「日本企業」を主語にして戦略や経営を論じる。いかにも矛盾している。


最後に、なぜ「日本企業の競争力」といった議論が横行するのか、について以下のように分析しています。

私見では1つの理由は高度経済成長期の幻想にある。強烈な追い風を受け企業が同じ方向に進んでいった高度成長期は、本来は個別特殊的な企業経営に一定の共通したパターンを見出せた。
(中略)
高度成長期が終わってすでに半世紀、今や日本的経営というモデルは幻想にすぎない。


2、まとめ(所感)

いかがでしたでしょうか?

「逆・タイムマシン経営論」も具体例が多く大変面白かったのですが、今回の短い記事も個人的にはいろいろと興味深いものでした。

特に、コロナ禍でそれ以前からあった様々な動きが加速した、という話はよくされますが、企業経営の「本質」(=そう簡単には変わらないもの)が明らかになった、という見方はなるほど、と思いました。

例えば、「アジャイル」とか、「アジリティ」といった言葉が、その本質から離れ、「柔軟なこと、素早く変化すること、が大事」という意味で一人歩きを始めていますが、課題はそこにはなく、企業として、「柔軟性」「俊敏性」を兼ね備えつつ、収益を上げ続ける事業モデルを構築できるか、というところにあるはずです。

しかし、言葉遊びをして、おしまい(あるいは、従業員に、アジャイルだ!アジリティだ!と声掛けしておしまい)ということが多いように感じます。

例に挙げられていたアイリスオーヤマは、会長が書かれた「いかなる時代環境でも利益を出す仕組み」を読みましたが、以前から、工場に余力を持たせ(つまり稼働率は低く抑える)、複数ある工場の生産設備はなるべく汎用品を加工してラインを作るようにし、急な需要の変化があっても、柔軟に、しかも素早く、必要な製品の増産ができる仕組みを構築していることが紹介されています。

稼働率を低く抑える、などというのは、経営の「常識」の正反対、つまり「非常識」です。だからこそマネされない、だからこそ差別化であり競争力の源になるのです。

「日本的経営」「日本企業」も、「アジャイル」「アジリティ」も、その本質を追求せず、言葉だけで、分かったつもり、という思考停止になる危険性がある点では一緒かもしれません。

ことばあそび、百害あって一理なし、ですね。


最後までお読みいただきありがとうございました。

どこか参考にしていただけるところがあれば嬉しいです。

なお、ご紹介した、アイリスオーヤマの会長が書かれた「いかなる時代環境でも利益を出す仕組み」は以下でご紹介していますのでよろしければご覧ください。


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