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異語り〜コトガタリ〜

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【現代怪談】 日常に紛れ込んだ微かな異の物語を綴っていきます。(毎週木曜日更新)
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#不思議な話

異語り 080 コーヒーメーカー

異語り 080 コーヒーメーカー

コトガタリ 080 コーヒーメーカー

ミカの家族はコーヒーをよく飲む。
リビングにはコーヒーメーカーが置いてあり、小さな頃から朝起きるとコーヒーの香りが漂っていた。
ミカもコーヒーを楽しむ頃になると、少し大きめのコーヒーメーカーへと代替わりし、毎朝いい香りを生み出してくれている。
母が出してくれる朝食とコーヒーを詰め込み学校へ行く。
いつの間にかそんなルーティンが出来上がっていた。

それはミカ

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異語り 072 ご先祖様

異語り 072 ご先祖様

コトガタリ 072 ゴセンゾサマ

今年は久しぶりにととサンの実家へ帰省することができる。
(自分の実家は関西のため、もともと数年に一度くらいしか帰れていない)
ととサンの実家は同じ道内と言うこともあり、毎年 盆と正月には顔を出していた。
男2人兄弟だったおかげか義両親には義姉共々とてもかわいがっていただいている。
ネットでよく聞く嫁姑バトルなんてモノは都市伝説か? と思う程居心地がいい。

それ

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異語り 064 深淵

異語り 064 深淵

コトガタリ 064 シンエン

友人Mの子供の時の話

その日は朝から雨でした。
学校から帰る時にはすっかり晴れていましたが、道路のあちこちに大きな水たまりができていました。
みんな長靴を履いてきていたので、バシャバシャと水たまりを選んで帰りました。

友達と別れて1人になっても、そのまま水たまりの中を歩いていました。

さあ、次の水たまりはどこだろう

顔を上げて道の先を見ると、二つほど先の水た

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異語り 063 急加速

異語り 063 急加速

コトガタリ 063 キュウカソク

中学校の大嫌いな行事に10キロマラソンというものがありました。(男子は15キロ)
2月の極寒の中、宇治川の堤防を5キロ先まで走って行って帰ってくるという鬼畜行事です。

少しばかりの救いとしては、当日は現地集合・現地解散になるということぐらいでしょうか。
いくら北海道よりは暖かいといえ、京都でも2月には雪だって降ります(ほとんど積もりませんが)
在学中の3回のう

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異語り 062 予防接種

異語り 062 予防接種

コトガタリ 062 ヨボウセッシュ

ワクチン(予防接種)はどれだけ有用性が高く、副反応が出にくいものであっても反対派がいるようで、今騒がれている新しいワクチンには結構な数の反対派と、様子見派がいるように思う。
子供を産むと、生後数ヶ月後からかなりの数の予防接種を受けさせることになる。
スケジュール管理もなかなかにややこしかった。
我が家の予防接種スケジュールも、ようやく息子の一種を残すのみとなっ

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異語り 059 家庭菜園

異語り 059 家庭菜園

コトガタリ 059 カテイサイエン

我が家には大きな庭があります。(家が小さいとも言う)
引っ越してきた当時は大々的に庭を耕し、大きな家庭菜園も作っていました。
元々が牧場だった土地らしく、土が豊かなおかげで何を植えても(世話が下手でも)十分な実りを得ることができました。
二三年かけて好みと消費量を把握し、ミニトマト・きゅうり・じゃがいもの3種を定番と決め、プラスαでちょこちょこと冒険をするスタ

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異語り 053 絵蝋燭

異語り 053 絵蝋燭

コトガタリ 053 エロウソク

前回に続いて記憶の中の景色をもうひとつ。
でもこちらは、自分の中では現実世界の記憶と認識しています。

京都の観光地としてとても有名な伏見稲荷大社。

高校生の頃よく通っていました。
少なくても月に一回。
多いときは週に数回ほどの頻度で足を向けていたように思います。

近頃は有名になりすぎてしまい、海外からの訪問客も増え、境内はごった返していますね。
山の上でも多

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異語り 052 記憶の町

異語り 052 記憶の町

コトガタリ 052 キオクノマチ

子供の頃、ほぼ毎日同じ街の夢を見ていた時期がある。
もちろん夢の内容は同じではない。
でも、舞台が一緒と言うか、いつも同じ街で遊んでいた。

現実の世界と同じ部分もあるが、当然違う部分もある街。
その同じ部分と違う部分が毎回同じなのだ(ややこしい)
あまりに何度も通っていたので、未だに簡単な地図なら描くことができるほどにはっきりと覚えている。

夢の中の街では、

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異語り 025 雪道

異語り 025 雪道

コトガタリ 025 ユキミチ

買い物をしている間に雪が降ったらしい。
家に向かう路地を折れるとまだ誰も通っていない真っ白な道が続いていた。

1歩踏み出すとボスンと足が埋まる。
長靴じゃなければ靴が全部埋まってしまうぐらいに積もっている。

幸い今日はそれほど荷物は重くない。ポスポスと足を進めていく。
結構な深さがあるから、少し歩きにくい。慎重に足を運ぶ。

ポスポス
    トス・トス
ポス

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異語り 023 扉

異語り 023 扉

コトガタリ 023 トビラ

最近になって唐突に思い出した景色がある。
今まで忘れていたというか、知っていたけど意識に上らなかったような。
そんな気にならなかったものが、強烈な違和感とともに強く記憶を揺さぶってくる。

高校を卒業し進学のために上京した。
最初に住んだアパートはちっとも東京っぽくないのどかな所にあった。
普通列車しか止まらない最寄り駅は歩いて5分。
急行の止まる駅までは自転車で十分

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異語り 022 初めてのお使い

異語り 022 初めてのお使い

コトガタリ 022 ハジメテノオツカイ

年の瀬も押し迫るスーパーの駐車場。
出入り口のそばには正月飾りの屋台が並ぶ。
夕刻となり、いよいよ活気づく人の流れに最後の売り込みの声が響く。

出入り口のすぐ側のテントにはそれなりに人の列も出来ているが、その隣となると実に寂しい雰囲気になる。
私はめいっぱい火を大きくしたストーブを背に足踏みを繰り返す。

ひっきりなしに車が出入りする駐車場に向かって声

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異語り 017 生前葬

異語り 017 生前葬

コトガタリ 017 セイゼンソウ

真面目で生一本な祖父が生前葬をすると言い出した。
しかも袖摺れの大将がいる料亭を手配済みだという。

四月初めの少し冷たい催花雨の中、滋賀県の湖畔にある料亭に親族一同が集まった。

祖父母は赤い毛氈と金屏風の前に座り笑顔でお迎え、葬儀というよりは色節の趣だ

「このたび集まってもらったのは、余命宣告を受けまして……」

祖父の唐突な告白に寧静が保てずそっと席を立

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異語り 016 紙魚

異語り 016 紙魚

コトガタリ 016 シミ

懐かしい風景の夢を見た。
小学校の頃家族旅行で行った、宮崎県の都井岬。
なだらかな草原と青い海、小柄な馬がのんびりと草を食んだり寝転んだりしている

ただ思い出と違い風景には白い影が立っていた。

夢は毎日見るわけではなかったが、影は見るたびに近づいてきた

緑と青の景色の中、大きくなっていく白い影

何度目かの夢見の後、目覚めと同時に全身の毛が弥立つ。

次に見る時あ

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異語り 015 シチゴサン

異語り 015 シチゴサン

コトガタリ 015 シチゴサン

北海道の七五三は10月です
今年は海外からの観光客もなく、北海道神宮の参道は晴れ着に包まれた稚児連れの家族が目立ちました。
なれない草履に苦戦しながらも、まだ色節の自覚や気負いのない無邪気な笑顔があふれています。

神門の裏に小さな扇子が落ちていました。
七五三の子が落としたものでしょう。
すぐに警備の方が気づき、慣れた様子で詰め所脇に据えられた盆の上に置かれまし

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