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不知火黄泉彦「あとがき」「夢魔」


あとがき


 名刺代わりの作品を、ということで拙作の中で最もいなげな――良識を疑われる――作品である「夢魔」に即決したまではよかったのですが、読者はさておき、他のメンバーが眉を顰めるのでは、と危惧していたところ、あっさり「津原先生の『天使解体』が出版されているわけですし」と杞憂に終わって失笑したことが記憶に新しく、そんないなげで寛大な朋輩に恵まれたことに感謝しています。
 というわけでいなげな私にとっては「普通」こそ最もいなげなので、第一号には極めていなげな普通の作品を載せるべく――私にとってはそれこそが挑戦なので――夜な夜な刃を研いでいます。乞うご期待。
 これから末永く、いなげなメンバーと一緒にいなげな作品と本を作っていけますように――


夢魔(自主規制ver.)


 頭部の上半分がない。
 いま、失われた。
 ギロチンの刃が上がると、男は全裸のまま立ちあがった。
 両目のような白桃色のふたつの乳首。
 耳から上のすべてを失った断面から、全開した蛇口のように噴き出す鮮血が、強く、弱く、間欠的に繰り返されて止まる。心臓が止まった。男は死んだ。
 完熟した果物のように赤く濡れた断面に、馬のひづめのように突起物が並んでいる。
 歯だ。なにもかもが赤い。
 巨大な蛞蝓なめくじのように蠕動ぜんどうしているのは舌だ。舌だけが生きている。意志があるように動いている。舌が膨張し、屹立し、硬直し、失われた頭部よりも大きな丸みを帯びた円錐になり、
 先端がちいさく縦に割れた。
 ■■だ。
 死体の上半身が巨大な■■に変貌へんぼうした。
 砂浜に打ち揚げられた魚のように暴れていた■■が、私の存在に気づいたらしく頭を垂れた。
 巨大な■■と目が合う。
 ■■が左右に大きく口をあける。奥まであらわになった空洞は、両手で■■■を押し広げたときの■の内部だった。■■■に並んだ黒子ほくろを見つけ、嬉しくなる。■■が、風船のように■■して赤子の顔になった。しわだらけの赤黒い顔が産声をあげ、目蓋がひらく。
 青い瞳。やはり彼女だった。
 彼女が微笑む。
 両目が凹んで穴になる。
 右目が■■。
 左目は■■■。
 潮風と■■と体臭がじった薫香。声。そして味。
 懐かしさに胸がむしられ、私は泣いた。
 ちいさな彼女のちいさな唇に接吻する、と彼女は牙を剥いて私の舌を喉の奥から引きり出してい千切ってはむさぼすする。私の、噴水のような大量の血。赤くない。■い。■■だ。巨大な■■は私だ。虫のように四肢を痙攣けいれんさせて嘔吐、あるいは■■する。窒息のように苦しく、同時に絶叫するほどの快感にしびれ、事実、叫んでいた。■■になったふたつの肺が代わる代わる収縮し、粘膜が、内臓が、全身が、反復的に蠢動しゆんどうしていく。
 ■■■■■■■■■。
 そんな夢を見た。
 意識を取り戻した私が■■に視たのは、自分の■■■■■■■■■■■■だった。

◆伏字部分はアンソロジー『inagena vol.0』をご覧ください◆
(『inagena vol.0』は「文学フリマ東京38」にて無料配布します)


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