マガジンのカバー画像

140文字小説

306
Twitterで日々投稿している140文字小説をまとめたものです。
運営しているクリエイター

2021年9月の記事一覧

哲学者 (140文字小説)

哲学者 (140文字小説)

 我思うゆえに我あり。

 有名なデカルトの言葉だ。

 懐疑的なものばかりでも、それを疑う自分は紛れもなく存在している。

 そう、僕はいる。

 僕はここにいるんだ!

 でも誰も僕を認知していない。

 だから僕は訴える。

 身体を使って渾身の力で。

 そして、僕は飛び込む!

 バチン!

「また蚊か…」

海はひろいな (140文字小説)

海はひろいな (140文字小説)

 海は広いな、大きいな。

 子供の頃、よく口ずさんだ。

 月が昇り、日が沈む。

 いつからだろう。

 一日中、海を眺めるようになったのは。

 海は大波、青い波。

 揺れてどこまで続くの?

 海にお舟を浮かばして、行ってみたかった他所の国。

 着いたのは無人の島。

 嗚呼、発見されるのいつなのか~。

五十の恋 (140文字小説)

五十の恋 (140文字小説)

 好きな人ができた。

 来年は五十だ。

 年甲斐もないと自覚している。

 女房とは若い頃に別れ、娘とも長いこと会えていない。

 このまま、ゆっくり歳を重ねると思っていた。

 待ち合わせの場所に彼女は急ぎ足で現れた。

「じいじ~」

 パタパタと駆けてくる姿は娘にそっくりだ。

 年甲斐もない男だ。

失格者 (140文字小説)

失格者 (140文字小説)

 怒ってないよ。

 そう口を動かしながらも、表情は冷たい。

 楽しいね。

 そう声を発しながらも、口角は下がっている。

 人の表情と裏に潜む感情の不一致に、いつも戸惑う。

 僕がおかしいのかな。

 足元に猫がすり寄る。

 彼らは気まぐれだけど裏表がない。

 人を怖いと思う僕は失格者なのだろうか。

ささやかなコーラ (140文字小説)

ささやかなコーラ (140文字小説)

 彼と別れて、1000回眠った。

 私は日課のコンビニに向かう。

 冷たくないコーラを開け、人気のない店を出る。

 道の死骸はすっかりと消えた。

 空は青く、鳥もいるのに、人だけがいない。

 土地も店も好きにできるけど、嬉しくない。

 誰かとコーラを飲みたい。

 それが、いまのささやかな願いだ。

命の矜持 (140文字小説)

命の矜持 (140文字小説)

 まずっ!食えるか、こんなもん!

 隣の席の男が吠えている。

 味は普通だけど。

 贅沢だな、と私は思った。

 七日後、世界は戦争になり生活が一変した。

 瓦礫を背にして、見たことある男が佇んでいた。

「水を分けてくれ…」

「泥水でよければ」

 拒否した男がどうなったか、その後私は知らない。

紺碧のサファイア (140文字小説)

紺碧のサファイア (140文字小説)

 これをください。

 泉の胸元で映えそうなブルーサファイア。

 誕生日に喜んでくれるだろうか。

 改札を出ると、泉から着信があった。

 僕は踵を返し、いまはつり革に釣られている。

 目的がない旅の終点は海だった。

 ─好きな人ができたの。

 残響する泉の声。

 紺碧の海に僕はサファイアを投げた。