言葉が紡ぐ〈世界〉の虚実

言葉が紡ぐ〈世界〉の虚実

書評:平方イコルスン『うなじ保険』(楽園コミックス)、三島芳治『児島まりあ文学集成』第2巻(torch comics) たまたま、異質な2冊のマンガを続けざまに読んで、「これは面白い対照性だ」と思った。 その2冊とは、平方イコルスン『うなじ保険』と、三島芳治『児島まりあ文学集成』(第2巻)である。 たぶん、前者の読者と後者の読者は、ほとんど重ならないだろうし、特に、後者の読者で、前者を読んでいる人は、ほぼいないと断じて良いだろう。 もちろん、前者がマイナーマンガであり、後

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この世界との〈情報戦〉

この世界との〈情報戦〉

書評:武田一義『ペリリュー 楽園のゲルニカ』第1巻(ヤングアニマルコミックス) すばらしい作品だ。だが、これは「戦争」そのものではない。 ピカソの『ゲルニカ』がそうであるように、本作もまた、この世界から切り採られた「意味」の断片群を、再構成して作られた「作品」だからである。 しかしそれは、「戦争体験者」にとっての「戦争の記憶や体験」とて、まったく同じことだ。 誰も、誰一人として「戦争」そのものを見たことも体験したこともないし、そもそも「戦争そのもの」など、実在しないのだ。

閑雅な〈迷宮散歩の日常〉

閑雅な〈迷宮散歩の日常〉

書評:panpanya『おむすびの転がる町』(白泉社) 著者の作品集は3冊目か4冊目である。そのあたりがハッキリしないのは、評者にそろそろ認知症が出はじめたせいかも知れないが、たぶんそれだけではなく(いや、きっとそうではなく)、作者独自の世界観が完璧に揺るぎないものであり、それ故にこそ、ぜんたいに区別がつきにくいからなのだ。斑がないのである。 どんなにネタを変えようと、作品を貫く雰囲気は完全に一定しており、その「panpanyaワールド」とでも呼ぶべき世界の「空気」が、たま

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ノラネコぐんだんアイスのくに

ノラネコぐんだんアイスのくに

ジェラートショップ、ではなく。 アイスクリームパーラー。 昭和のかぜを…かんじる…! アイスのコーンも、ワッフルコーンじゃないふつうのコーン。 アイスのもりつけも、さいきんよくみる山みたいなかたちじゃなくて。 アイスクリームすくうの(アイスクリームディッシャーっていうらしい)ですくわれた、まん丸なかたち。すてき! アイスクリームこうじょうには黒でんわまである…。 めったにいけない、高級感あふれる… ショウウインドウからなかをみるだけの、 きらきらしたせかい。 そん

ダメな大人の〈至福の日常〉

ダメな大人の〈至福の日常〉

書評:kashmir『ぱらのま 3』(白泉社) 私は、「鉄道」方面の人間ではなく、山野浩一(「メシメリ街道」「X電車で行こう」)や平山瑞穂(『ここを過ぎて悦楽の都』『全世界のデボラ』)といった『ウルトラQ』系の「異世界幻想」に惹かれる人間なので、まずは、本シリーズの姉妹篇「てるみな」シリーズのファンになった。猫耳少女が列車に乗って旅をし、いろんな不思議な町に降り立つという、「幻想旅行もの」である。 そしてその後に、「てるみな」ほどではないけれど、「幻想」描写をふくむ、同じ著

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LaLa2021年8月号レジェンドインタビュー

LaLa2021年8月号レジェンドインタビュー

LaLa創刊45周年レジェンドインタビュー第7弾は津田雅美先生。第6弾の安孫子三和先生が1983年デビューで津田先生が1993年デビューなので、ここで10年の空白がありますね〜。 コミックナタリーの45周年特集記事には挙げられてるのにインタビューされてない空白期間の漫画家にやまざき貴子先生や猫山宮緒先生や森真琴先生がいますが、やまざき先生以外は小粒だし、ケンカ別れのような出て行き方したやまざき先生にはインタビューもらえなかったんだろうなあ。ここが白泉社の悪いところ。 で津

【読書記録】おむすびの転がる町(著:panpanya)

【読書記録】おむすびの転がる町(著:panpanya)

上白石萌音さんがおすすめ?というか読んだ本として挙げていたのを知ってそこから購入しました。 「推し」の人が読んだ本ってどういうのだろう・・・?なんて楽しみ方できるの嬉しいよね。 私、彼女のお陰で本を読む機会が増えたもの。つい数年まえまで、小説を敬遠して、自己啓発系?の本だけ読んでいたのが嘘のよう。今は真反対の生活になりました。読みたいなぁ、って本がたーーーーーんとあるから。多分一生かけても「もう読めない」と思う位、読みたい本が出てきてるような気分にすらなります。 今回の方の

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戦争、格差社会、PTSD……いま、痛いほど沁みる80年代の名作少女漫画『ぼくの地球を守って』

戦争、格差社会、PTSD……いま、痛いほど沁みる80年代の名作少女漫画『ぼくの地球を守って』

【レビュアー/こやま淳子】 色あせることない少女漫画の名作同世代の少女漫画好きと話していると、必ず話題に出る作品がある。「ぼくの地球を守って」もそのひとつだ。初期の絵柄はコミカルなラブコメタッチなのだが、これが思いのほか壮大なSFストーリーへ発展する。「ぼく地球(タマ)」と呼ばれ愛され続けてきた名作で、男性にも女性にも世代を問わず薦めたい作品である。 しかも最近読み返したら、ストーリーの面白さは色あせることなく、さらに当時(1986年〜1994年)読んだときよりもしみじみ

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かねきょの部屋(ラジオ?)第121回

かねきょの部屋(ラジオ?)第121回

今は手に入らないけど名作だった読み切り漫画の作者さん、秋月由利先生の話をしています。雑誌の初出を捨てられずに持ってました!でも汚いんで、コミックスで短編集とかで出ないかなぁ。復刊ドットコムに依頼が出されているのはさっき見ました。うみゅ。Twitterで誰かが言ってましたが、「作風はおしゃれなつげ義春」だそうな。そうかな?うーん、そうかも。 #音声配信 #ラジオ #かねきょの部屋 #月曜日ののびのびタイム #花とゆめ #白泉社 #秋月由利 #三本目の手 #復刊ドットコムしてほしい

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表現による〈ささやかな救済〉

表現による〈ささやかな救済〉

書評:藤生『えりちゃんちはふつう』(白泉社) どう表現したらいいのだろう。重く静かに心の痛むような自伝的エッセイマンガだ。 特別に面白い話も、変わった話もない。この手のマンガでよくあるように、語り手である主人公は、貧乏な家に生まれて、親にもあまり可愛がってもらえず、大好きな友達や先生との関係も、終ってみれば、いつも一方通行だったことに気づいてしまう。それでも、主人公は、しかたないなとでもいうように、それを受けとめようとする。自分が傷ついているというのは分かっていても、それ