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絵…加藤久仁生 文…平田研也『つみきのいえ』

 海の水がだんだん上がってきてしまう街。

 そこで一人暮らしをしているおじいさんを描いた絵本。

 ※注意
 以下の文は、結末までは明かしませんが、ネタバレを含みます。




 この街に住み続けるためには、自分の家の上にまた家を作り足していくしかありません。

 まるで積み木を積み上げるかのように。

 そしてまた海の水が上がってきたら、また家の上に家を作ります。

 その繰り返し。

 多くの人が、家を作り続けるのを諦めて街を出て行きました。

 おじいさんは、数少なくなった住人のうちのひとり。

 おばあさんは亡くなりました。

 子どもたちは遠くに住んでいます。

 おじいさんは生活に必要なものを舟でやって来る行商人から購入し、近所のおじいさんと舟の上でチェスをしたりしながら暮らしています。

 ひとり暮らしだけれど寂しくない、平和な日々。

 ところが。

 ある日。

 おじいさんは家を作っている最中、大事な大工道具を落としてしまいました!

 大工道具は、海の水で満たされた下の下の家まで沈んでいってしまいました。

 これでは新しい家を作ることが出来ません…。

 そこで、おじいさんは潜水服を着て、下の下の家まで大工道具を取りに潜ることにしました。


 …というのが、この絵本の前半のあらすじです。

 後半以降を読むと、おじいさんがなぜこの街から引っ越そうとしないのかが明らかになります。

 普通、スキューバダイビングは主に魚を観賞するためのものですよね?

 ところが、この絵本の場合は違います。

 …この絵本の魅力を伝えるため、あともう少しだけネタバレさせてください。

 「これ以上のネタバレはお腹いっぱいだよ!」という方はこの辺でお帰りいただいて結構です。

 「いいや、わたしはあともう少しだけ気になるぞ」という方だけ、これから先をお読みください。




 実は、おじいさんが潜るのは、記憶の海。

 この絵本を読む人は、おじいさんと共に、おじいさんがその家で家族と過ごした大切な思い出を見ることになるのです。

 下の家へ下の家へと潜れば潜るほどに、記憶をどんどん遡っていきます。

 おばあさんを天国へ見送った時の思い出。

 子どもたちが、おじいさんから見ると孫を連れてきた時の思い出。

 おじいさんとおばあさんの娘が花嫁さんになって家から出て行った時の思い出…。

 どの家も深い海の底に沈んでしまっています。

 でも、その家で過ごした日々はいつまでもいつまでも色褪せないまま残っています。

 そしておじいさんは一番海底の、一番古い家へと辿り着きます。

 おばあさんと結婚して一緒に暮らし始めた頃の、一番最初の家へと…。


 この続きが気になる方は、是非ご自身でこの絵本を読んでみてください。

 わたしはこの絵本を読み始めた時は「悲しいおはなしなのかな?」と不安だったのですが、読み終えた時は優しい気持ちでいっぱいになりました。

 きっと誰もが、知らず知らずのうちに「つみきのいえ」を作り続けているのですよね。

 命が続く限り。

 その積み木のパーツは、幸せいっぱいのものばかりではないけれど。

 喜びも悲しみも、あらゆる気持ちを複雑に組み合わせた、この世にたった一つしかない「つみきのいえ」。



 〈こういう方におすすめ〉
 大人向けの絵本を探している方。
 また、子どもの時に読んで、大人になった時に読み返した時に、「そういうお話だったのか!」と、より深く味える絵本を探している方。

 〈読書所要時間の目安〉
 30分前後くらい。

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