彩瀬まる

朝が来るまでそばにいる/彩瀬まる

雨の降りそうな湿度の高い夜に、布団の中で天井を見ながら聞く打ち明け話のような物語だった。

打ち明け話をするなら夜、というイメージがある。今みたいにアルコールの力を借りるという手段が取れなかった頃から、内緒の恋バナは修学旅行の夜だったし、進路の相談は習い事の帰り道だった。

この本に出てくる物語は昼間の公園でサンドイッチを頬張りながらするような話ではない。普遍的な登場人物に普遍的な事象が発生する話

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駆け落ち、逃亡、雲隠れ―。彩瀬まるの連作短編集『さいはての家』。短編ひとつ丸ごと特別公開!(後編)

彩瀬まる『さいはての家』(集英社)
定価 本体1500円+税 四六判ソフトカバー
ISBN 978-4-08-771691-7 
装丁 鈴木久美 装画 宮原葉月

「ゆすらうめ」(後編)

 待ち合わせたファミレスで、顕子は厳しい両親に反発して育った退屈な学生時代を語り、続けて訪れた彼女の部屋では、右乳首の横の大きなほくろが二十一年の人生でいかにコンプレックスだったかをまるで世界の終わりみたい

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駆け落ち、逃亡、雲隠れ―。彩瀬まるの連作短編集『さいはての家』。短編ひとつ丸ごと特別公開!(前編)

彩瀬まるの最新刊『さいはての家』が、2020年1月24日に発売されます。

 郊外に建つ、庭付きでぼろぼろの古い借家。
『さいはての家』は、そんな「家」を舞台に、駆け落ちしてきた不倫カップルや、元新興宗教の教祖の老婦人、逃亡中のヒットマンなど、様々な人のかりそめの暮らしが描かれる連作短編集です。そして、行き止まりの先に見える、かすかな光とは――?

彩瀬まる『さいはての家』(集英社)
定価 本

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芥川龍之介とハンバートハンバート

彩瀬まるさん『骨を彩る』を読む。

「誰かを失うこと」をテーマにした一冊。

その中でも印象に残ったのは、妻を失った夫の話。夫が遺品を整理していたところ、手帳の中に「だれもわかってくれない」という一文が妻の字で書き込まれていた。その一文は芥川龍之介の詩とハンバートハンバートの歌詞の間に書かれていたとある。

この、芥川龍之介とハンバートハンバートという組み合わせがなんだか意外としっくりきていて。妙

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スタバ読書記 ①

最近は特に用がなければ蔦屋書店併設のスタバでコーヒー一杯で5時間くらい居座って小説を数冊読む日々です。(平日夜なんで許してほしい)

こんなに読んでるとたまにいくつか紹介文書いたりしたくなるもんだ。てわけで書きます。
まずは一番大好きな作家さんの最新作を。

#彩瀬まる さんという作家さんの小説が大好きで、最新作の #森があふれる を読んだ。

小説家の夫と、夫の小説の題材として吸い取られていく妻

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あのひとは蜘蛛を潰せない(彩瀬まる)

_あのひとは蜘蛛を潰せない(彩瀬まる)

だいじょうぶだ、あってる。
言い聞かせて、それでも文章の語尾を少しいじってからファイルを添付し直す。

一行目から最後の行までをなぞり直す。
だいぎょうぶだ、あってる。

「あんた、言っとくけど、ああいうみっともない女になるんじゃないわよ」

母の言うことはいつも正しい。
正しくて、なにも言えなくなってしまう。
やっぱり私は牛みたいにぼーっとしてい

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暗い夜、星を数えて

彩瀬まるさん著の東日本大震災被災記、『暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出』を読んだ。

2011年3月11日。私は小学4年だった。帰りの会の途中、花瓶が割れた。横に縦にガタゴト。指示されるまでもなく本能でクラス全員が机の下に潜った。避難訓練で机に潜る時には、どこの机でも隣の子とのジャンケンが起こったりする。机の脚の間からニコニコ顔を合わせて会話してみたり。でもこの時は当たり前だけど、違

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娘から母へ 7/25

ずいぶんご無沙汰してごめんなさい。このところ書かない方の仕事がバタバタしていたから……精神的にも久々に削られました。

あっという間に「いまは、空しか見えない」の発売から2ヶ月が経ちました。

私の拙い色紙や、新潮社営業ご担当の力作ポップ/パネルを飾ってくださった都内の書店はできる限り回ってみました。
自分の本がそこにある、という事実を脳が受け入れないのか、いつも見つけるのにものすごく時間がかかり

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嬉しくて鼻血が出そうです
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相いれないことを読む。

先日、ちょっとした飲み会の席での出来事。目の前でささやかな諍いを目にする。どちらかが正解でもなく、どちらかが間違いでもない。ただ、互いに各々の立場への理解がほんの少し足りないだけの口論。交わることなく、平行線をたどる言葉だけがふたりの間を行き来する。ちょっとだけ、相手に歩み寄れば2人の領域は重なるはずなのに、いつまでもその距離は詰まらない。その間隔が側から見てもどかしいのだが、しばらく静観している

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親子という名の呪いについて。

主人公。野坂梨枝、28歳。ドラッグストア店長。実家暮らし。
仕事はそこそこ頑張っているけれど、家のことは母親が全部やってくれている。夫と離婚し、女手一つで子供を育て、家のローンを返済し、家事も手を抜かずにこなしてきた梨枝の母は自分にも他人にも厳しく、「あんたは世間知らずなんだから」「ちゃんとしなさい」「みっともないことをしないで」と繰り返す。そう言われるたびに、肺の狭くなるような気分を味わいながら

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