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【私の読書記録】#6 朝が来るまでそばにいる/彩瀬まる

 私は夜があまり好きではありません。暗くて静かで、永遠に感じるほど長くて、孤独を感じているはずなのに、目に見えないなにかにじっと見つめられているような感じがするから。

 この作品は、夜に重くのしかかってくる"湿度"のような不安が、「人ではないなにか」とともにもたらされ、そして、その中でほんの少しだけれど、たしかな光を見つけられるような作品だと感じました🪞

①君の心臓を抱くまで
②ゆびのいと
③眼が開くとき
④よるのふち
⑤明滅
⑥かいぶつの名前

 この作品は、以上の6編で構成されています。この中で私がいちばん好きなお話を紹介させてください🙌🏻 どのお話も好きでひとつに選ぶのがなかなか難しいのですが、私が紹介したいのは『よるのふち』です。


 このお話は、お母さんが事故で亡くなってしまい、遺された父親と、小学生の宏之、保育園に通うまだ小さな良昭が、変わってしまった家族の中で新しいかたちを探していくお話です。最初は悲しくてどうしたらいいのかわからない戸惑いを宏之と一緒に体験しているような感覚に陥りました。

 お母さんが亡くなってから、弟の良昭は夜が更けてくるとちゃぷちゃぷと何かを食べているような音を立てて、寝室の隅の方を向いています。その先には、何かがいるのです。怖くて怖くて、最初は弟を力ずくで布団に引きずり戻します。でも、その何かから香るのは、もう二度と会うことができないはずのお母さんが使っていたハンドクリームの香り。夜になり光がなくなったときに、お母さんの香りを纏わせて2人の前に現れるのです。
 そんな2人の子どもを1人で育てることになった父親は、お母さんが亡くなる前からは考えられないほどに荒んでしまっていました。それを痛いくらいに感じ取っていた宏之は、とうとうお母さんの香りを纏ったその何かに、「父さんを助けて」と縋るように願いました。

 次の日の朝、彼らはよるのふちから抜け出したような、やわらかな光に包まれました。

 終盤は、ぜひ小説の方でお楽しみください😌


 夜はやってくるんです、毎日、毎日。長くて、暗くて、静かで孤独な夜が。
 それでも、朝は来てくれるんです。空の夜のどこか、心の夜のどこかで、不安という名前のかいぶつに襲われても、朝が迎えに来てくれます。

 夜に読まなくたっていいんです。
 でも、心に夜が訪れているときには、きっと朝までそばにいてくれます。
 そんな、すこしだけ怖くて、それでいてあたたかい作品でした。

 それでは今回はこのあたりで失礼します🌙

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