鴇亜

文学の話をしたり短歌を詠んだりします。

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最近の記事

三田誠『ロード・エルメロイⅡ世の冒険2·3 彷徨海の魔人 上·下』

 今回のゲストキャラは空の境界より、コクトー。思った以上に出番が多くて、そしてコクトーらしさに磨きがかかった感じだった。コクトーがいたからこそのこの展開。空の境界ファンは読むべし。  ストーリーは、予想外の展開が続くいつものストーリー。特に暴かれる夜劫の神、ルオロンの竜、そしてエルゴの第2の神には心底驚いた。グレイと凛も大活躍。とくに凛の新技は「成程……!」という感じで、凛にしかできないもので感激した。  今回も充実の読みごたえ。満足です。

    • 米澤穂信『冬期限定ボンボンショコラ事件』

       小市民シリーズ、15年をおいての満を持しての最終巻!  中学時代に起きた、小鳩くんと小山内さんが出会い、小市民を目指すきっかけになったと思われるクラスメイト轢き逃げ事件と、現在の、似たような状況で起きた小鳩くん轢き逃げ事件が交互に語られる。そこから、二つの事件には何かしら関連性があるのでは?とまでは分かった。あと、一つ目の事件の犯人も予想がついた。  この巻の特徴は、小鳩くんは全治6ヶ月なのでできる限りの範囲でしか捜査ができなくて、その分を小山内さんが担っていた点。新しくて

      • 高野文緒『ビブリオフォリア・ラプソディ』

         本をめぐる、5本の独立した小説群。  不思議な話、リアルな話、様々混じっている。  私が読んでいて心に残ったのは、本に関するとある法律が施行された世界を描いた「ハンノキのある島で」。絶対にこんな世界で生きたくない!生きていけない!古い本にも価値はあるんだ!!と叫びたくなった。そういう意味で、心に残った。  もう一つ忘れられないのは、「詩人になれますように」。元天才美少女大学生詩人の、今は冴えない会社員が主人公。病んでいく様子が自分自身とすごく重なって、他人事と思えなかった。

        • 青崎有吾『地雷グリコ』

          推理作家協会賞、日本ミステリー大賞、山本周五郎賞、そして直木賞候補。 数々の賞を総なめにしている作品だけど、その価値はあった! まず、タイトルが良い。パンチが効いていて中身が読みたくなる。 そして展開されるのは、既存のゲームを改変した、もはやゲームとは言えない真剣勝負。相手の手の読み合い、裏の裏のかき合い、これぞまさに心理戦。事件は何も起きていないのに、これがミステリーにカウントされるのがよく分かる。 特に面白かった作品は『地雷グリコ』、『自由律じゃんけん』、『フォールーム・

        三田誠『ロード・エルメロイⅡ世の冒険2·3 彷徨海の魔人 上·下』

          柳広司「アンブレイカブル」

           ジョーカー・ゲームでD機関のスパイたちの活躍を描いた柳広司が送る、もうひとつの視点から見た日中戦争~太平洋戦争の物語。背後に見え隠れするのは、特高。  特高が関わる話ということで、どれもハッピーエンドとはいかなかったのだけれど、一つ目の小林多喜二が出てくる話がとても好き。小説の力を思い知らされた。  四話目の、今まで見え隠れするかたちで登場していた特高のクロサキ視点の話も良い。特高の人間も一人の人間なんだ、と感じられた。  ジョーカー・ゲーム以外の柳広司の作品では、一番好き

          柳広司「アンブレイカブル」

          仲尾友貴恵『不揃いな身体でアフリカを生きる 障害と物乞いの都市エスノグラフィ』

           アフリカはタンザニア、ダルエスサラーム。  そこで物乞いをして生計を立てる障害を持った人たちの生活や都市における立ち位置に迫った一冊。  この本で初めて知ったけど、アフリカでは、アルビノは身体障害に入るらしい。不吉な子供として、たくさんの子供が殺されてきたのだとか。ショックでした。  あと、この本で描かれる物乞い像は、日本での一般的なイメージとは全然違う。明るくて、尊厳を持っていて、お金をくれる人とも世間話をする。ちゃんとした家もある。日本人が抱いている物乞いのイメージとは

          仲尾友貴恵『不揃いな身体でアフリカを生きる 障害と物乞いの都市エスノグラフィ』

          ジェイムス・ラヴクローフ『シャーロック・ホームズとサセックスの海魔』

           シャーロック・ホームズ×クトゥルー神話シリーズ「クトゥルーケース」最終巻!  この巻のホームズは、引退して養蜂などをしながら余生を送り……つつ、やっぱり闇の力と戦っている。  そして、長きに渡るルルロイグとの戦いに、遂に決着の時が訪れる。  世界大戦前という歴史的背景を取り入れているのも、今回の魅力。しかし、戦前戦中のドイツの扱いって、大概ひどいな。  ドリームランドについてもしっかり触れられており、全集を読んでいてもドリームランドの意味がよく分からなかった私には、とても助

          ジェイムス・ラヴクローフ『シャーロック・ホームズとサセックスの海魔』

          北村薫『中野のお父さんの快刀乱麻』

           一見のんべんだらりとした普通のお父さんが、推理になると冴え渡るシリーズ3作目。  最初の1作は、「本が絡むミステリー」程度だったのだけれど、だんだん「文学の謎を解き明かすミステリー」になってきて、3作目では落語ミステリーも加わった。まさに作者の独壇場。  読んだことがない作品が出てくると読みたくなるし、読んだことのある作品が出てくるとにやにやしてしまう。  文学好き(落語好きも!)必読のミステリー。

          北村薫『中野のお父さんの快刀乱麻』

          酉島伝法『奏で手のヌフレツン』

           酉島伝法の2作目の長編。  酉島伝法と言えば、デビュー作の『皆勤の徒』のイメージが鮮烈かつ濃厚だと思われますが、この作品ではそこは控えめ。読みやすさが増している気がする。  ここではないどこかで、私たちの世界にはない、しかし私たちの世界で聞いたことのある名前に似たものたちに囲まれて生きている主人公たち。おそらく遠い未来に別の惑星に適応した人類か、と思われる。  一部では、一部の主人公の成長と共に、この世界とは異なるその世界の世界観が緻密に描かれる。この世界観の描き方が自然で

          酉島伝法『奏で手のヌフレツン』

          森部豊『唐ーー東ユーラシアの大帝国』

           書きたい小説の架空の国のモデルを唐の時代の中国にしたくて読んだ本。  東ユーラシアという、ウイグルやチベット、遊牧民族にも目を向けた視点で、唐の歴史や内政、統治機構を俯瞰した本。  武則天については、また研究が進んだら変わるかもなあと感じた。  思っていた以上に唐の末期がぐだぐだだったことに驚き。南北朝時代と五代十国時代の間だし、版図が広かったから仕方ないのかもしれないけれど。  科挙についてと民衆史的な部分をもっと知りたいなあと思った。  五代十国時代についてもざっと触れ

          森部豊『唐ーー東ユーラシアの大帝国』

          森博嗣『四季 春』

          〈S&Mシリーズ〉や〈Wシリーズ〉で完璧な天才として登場する真賀田四季が、まだ完全でなくて、幾分幼さや不完全さを残していた幼女時代の話。  ミステリーでもあるけれど、それ以上に森博嗣の世界で特別な立ち位置を占める四季を描き出すことに力点が置かれている気がする。淡々とした、白い文章。  引っ掛かって当然の部分をスルーして、というか勘違いして読んでしまったのは、正直自分に落胆した。それでも作品の面白さは変わらないけれど。  このシリーズ単品で読むよりは、前に挙げた関連シリーズと一

          森博嗣『四季 春』

          甲田学人『ほうかごがかり』

           ライトノベルの中でも私的には2番目に精神にくる作家、それが甲田学人。 『Missing』や『ノロワレ』では民俗学を、『断章のグリム』では童話をモチーフに、ホラーメルヘンのような世界を描いてきた作者が今度題材に選んだのは、学校の怪談。  7人の小学生が選ばれて、毎週金曜日、昼とは全く違う世界の小学校で怪異と対峙することになる。求められているのは、それを観察すること。配られた日誌に、彼らは怪異の様子を記述していく……。  甲田学人らしく、世界観内謎解き的な要素もあり、ファンと

          甲田学人『ほうかごがかり』

          ジェイムズ・ラヴグローヴ『シャーロック・ホームズとミスカトニックの怪』

           待望のシャーロック・ホームズ×クトゥルフ神話パスティーシュシリーズ第2弾!  ホームズとワトソンが、知恵と推理力を駆使して、邪悪な存在と闘っていくシリーズです。  今回は、脳の一部を入れ換えると人格が入れ替わるという架空の科学技術もあって、空想科学小説っぽさも加わっていてとても面白い。展開が読めてしまった部分もあったけれど、それでも十分に楽しめました。  特に「ルルロイグ」の正体は……これでこそシャーロック・ホームズ!といった感じでした。  面白かったので、クトゥルフも読む

          ジェイムズ・ラヴグローヴ『シャーロック・ホームズとミスカトニックの怪』

          彩瀬まる『さいはての家』

           何かに追い詰められた人たちが、吸い寄せられるように住む家。その家に住む人たちの生活を描いた連作短編集。  短編は5本収録されているけれど、私が特に好きなのは、3つ。 「はねつき」…お客さんと駆け落ちした女の子が、本を読むようになって行くうちに、それまでのぼんやりと生きてきた自分から考える自分に変化していく話。 「ひかり」…新興宗教の元教祖だった老婦人が、老いていくなかで、自分の人生と向き合う話。 「ままごと」…親の決めた結婚から逃げてきた姉と、束縛の強い彼氏に違和感を覚えつ

          彩瀬まる『さいはての家』

          岸政彦・打越正行・上原健太郞・上間陽子『地元を生きる 沖縄的共同性の社会学』

           久々にがっつりした本を読みました。と言っても、中心は聞き書きだったので、そんなに重たくはなかったですが。ただ、内容はかなり 重かったです。  この本を読んで、私の中の沖縄のイメージが100°くらい変わりました。  一般的な内地の人が想像する、「なんくるないさー」みたいなゆったりしたイメージのエスノグラフィーは、4つのうち1つだけ。あとの3つは、想像と全然違っていました。  特に衝撃を受けたのは、ヤンキーの子たちのその後。暴走族から建設業に移って行くんですが、この中での上下関

          岸政彦・打越正行・上原健太郞・上間陽子『地元を生きる 沖縄的共同性の社会学』

          奈倉有里/逢坂冬馬『文学キョーダイ!!』

           ロシア文学者の姉と小説家の弟の、姉弟対談。とても読みごたえがあった。  まず、二人の家庭環境に、すごく共感するところがあった。私の両親も、子どもを一つの人格を持った存在として見てくれたから。それに、父親が研究者というところも共通点。一気に親近感が湧いた。  中身は、かなりシリアスな面も。日本では暗黙の了解でタブーとされている小説家の政治への言及も、真っ向からしていた。とても好感。  逢坂冬馬先生の作品を読んだことはあったけど、奈倉有里先生の著作はまだ。近々読みたいなあと思っ

          奈倉有里/逢坂冬馬『文学キョーダイ!!』