鴇亜

文学の話をしたり短歌を詠んだりします。

鴇亜

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記事一覧

京極夏彦『病葉草紙』

 京極夏彦が描く、一風変わった長屋もの。  感じとしては、巷説百物語に近い。起きた事件を、存在しない「虫」のせいにして表向きは収めてしまう。ふと、百鬼夜行シリー…

鴇亜
3日前
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山口進『昆虫カメラマン、秘境食を味わう 人は何を食べてきたか』

 この本を書いたのは、ジャポニカ学習帳の表紙の写真でお馴染みの昆虫写真家さん。様々な珍しい昆虫を撮影するために、世界各地に赴いています。  そして、珍しい昆虫が…

鴇亜
4日前

時雨沢恵一『キノ旅ⅩⅠⅩ』

 久々に読んだキノの旅。  このバランスが良いな、と思う。  皮肉にもなり過ぎない、諷刺にもなり過ぎない、微妙なバランスで書かれている。  キノとエルメスも本当に…

鴇亜
6日前
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鶴岡真弓『ケルト 再生の思想--ハロウィンからの生命循環』

 ケルト文化については、以前から興味があった。  今までで一番ハマッたキャラクターが、アイルランドの出身だったのだ。  そのほかにも、好きな作家がアイルランドの出…

鴇亜
2週間前

北村薫『中野のお父さんと五つの謎』

 北村薫の研究成果がみっちり詰まった、文学と落語のミステリー。  菅虎雄が書家だったと知ってビックリした。漱石の友人で独文学者としか知らなかったので……。  特に…

鴇亜
2週間前
3

小山哲・藤原辰史『中学生から知りたいウクライナのこと』

 自分は本当にウクライナについて何も知らなかったんだな、と痛切に感じた。  描かれているウクライナの歴史は、とにかく大国に振り回されるもので、悲惨。読んでいるだ…

鴇亜
3週間前
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飯沢耕太郎編『泉鏡花きのこ文学集成』

 潔癖症で有名な泉鏡花。けれど、不思議な生態を見せるきのこに対しては、少し違っていた様子。きのこが出てくる小説や随筆が集められています。 「きのこの舞姫」が特に…

鴇亜
3週間前
3

杉本苑子『散華 紫式部の生涯 上・下』

 昨今の「ひかる君へ」ブームに載って新装版が出たと思われる、紫式部が主役の小説! 図書館で偶然見つけて借りたのですが、これが面白かったです。  紫式部の一生を、…

鴇亜
3週間前
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上遠野浩平『ブギーポップは笑わない』

 シリーズ最新刊にフォルテッシモが出ると知り、20年ぶりの再読(フォルテッシモふぁん)  徐々に核心に近付いていくところとか、大雑把なところは覚えていたけれど、最後…

鴇亜
4週間前
3

阿部智里『烏に単は似合わない』

 最初は、世間知らずのお姫様が入内していびられる系の話かな?と軽い気持ちで読み始めた。  でも、甘かった。  そんな単純な話が流行るわけがなかった。  四つの家の…

鴇亜
1か月前
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千早茜『さんかく』

 料理が好きで上手いアラフォーの女性と、彼女の料理に胃袋を掴まれてルームシェアを始めた男性と、その彼女の大学の研究室で働く研究員の女の人の話。  とにかく料理が…

鴇亜
1か月前

櫻田智也『サーチライトと誘蛾灯』

 ブラウン神父シリーズや亜愛一郎シリーズが好きな人には是非オススメしたい、一連の系譜を継ぐ推理小説。  探偵役は、虫を愛してやまないちょっととぼけた青年。彼の行…

鴇亜
1か月前
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峰森ひろかず『少年泉鏡花の明治奇談録--城下のあやかし』

 大のおばけずきの少年時代の泉鏡花--泉鏡太郎が、妖怪に見せかけた様々な事件を解決していく話。  展開は子供向けなので読めてしまう部分もあったけれど、元ネタの小…

鴇亜
1か月前
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ツェリン・ヤンキー『花と夢』

 初めて読んだチベット文学。  主人公は、チベットの中心地ラサのナイトクラブ「ばら」で働く4人の女性。彼女たちが如何にここに来るに至ったか、ナイトクラブの仕事内容…

鴇亜
1か月前
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空木春宵『感傷ファンタスマゴリィ』

 ミステリーに本格と変格があるように、SFにも本格と変格があるのなら、これは間違いなく変格SF短編集。どこかゴスや社会問題の提起やフェミニズムの要素が漂っている。す…

鴇亜
1か月前
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私にでもできること

 私は発達障害(ASD=自閉スペクトラム症)だ。双極性障害も患っていて、精神障害2級。当然ながら働くことはできなくて、どころか日々生きるのも精一杯で、大半の日々を希死…

鴇亜
2か月前
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京極夏彦『病葉草紙』

京極夏彦『病葉草紙』

 京極夏彦が描く、一風変わった長屋もの。
 感じとしては、巷説百物語に近い。起きた事件を、存在しない「虫」のせいにして表向きは収めてしまう。ふと、百鬼夜行シリーズの途切れている続きが読みたくなった。
 長屋の藤介さんと周囲の人々との軽妙な会話もくすりとくる。とくに藤介が生まれたときには隠居していたという父親の藤左衛門との遣り取りが気が抜けていて面白い。少し軽めなのは、長屋ものだからなのだろうか。

山口進『昆虫カメラマン、秘境食を味わう 人は何を食べてきたか』

山口進『昆虫カメラマン、秘境食を味わう 人は何を食べてきたか』

 この本を書いたのは、ジャポニカ学習帳の表紙の写真でお馴染みの昆虫写真家さん。様々な珍しい昆虫を撮影するために、世界各地に赴いています。
 そして、珍しい昆虫がいるのは、大抵は自然豊かなところ。そして、古くからの食文化が残っているところも多いのです。
 この本を読んで、「サゴヤシ」という食べ物を始めて知りました。コメの美味しさが、それまでその地方にあった食べ物に勝りつつあることも。あと、原産地とい

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時雨沢恵一『キノ旅ⅩⅠⅩ』

時雨沢恵一『キノ旅ⅩⅠⅩ』

 久々に読んだキノの旅。
 このバランスが良いな、と思う。
 皮肉にもなり過ぎない、諷刺にもなり過ぎない、微妙なバランスで書かれている。
 キノとエルメスも本当に良いコンビだな、と思う。時々エルメスの方がとても鋭くて、ハッとする。
 あとがきは……オチは分かっていたけど笑いました。

鶴岡真弓『ケルト 再生の思想--ハロウィンからの生命循環』

鶴岡真弓『ケルト 再生の思想--ハロウィンからの生命循環』

 ケルト文化については、以前から興味があった。
 今までで一番ハマッたキャラクターが、アイルランドの出身だったのだ。
 そのほかにも、好きな作家がアイルランドの出身だったり、Fate/stay nightの推しサーヴァントがクー・フーリンだったりと、アイルランドとケルトが気になる理由は年々増えていた。
 そこで、図書館でこの本に出会ってしまったのだ。
 借りるしかない。
 私はそう思って、この本を

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北村薫『中野のお父さんと五つの謎』

北村薫『中野のお父さんと五つの謎』

 北村薫の研究成果がみっちり詰まった、文学と落語のミステリー。
 菅虎雄が書家だったと知ってビックリした。漱石の友人で独文学者としか知らなかったので……。
 特に印象に残ったのは、「漱石と月」。「漱石がI LOVE YOUを『月が綺麗ですね』と訳したと言われるようになったのは何故か?」という私の長年の疑問の一つの可能性が書かれている。気になる人は是非とも!読んで欲しい!
「清張と手おくれ」は、ミス

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小山哲・藤原辰史『中学生から知りたいウクライナのこと』

小山哲・藤原辰史『中学生から知りたいウクライナのこと』

 自分は本当にウクライナについて何も知らなかったんだな、と痛切に感じた。
 描かれているウクライナの歴史は、とにかく大国に振り回されるもので、悲惨。読んでいるだけで胸が痛む。
 あと、テレビを見ていると、どうしても大局的な……言い換えれば他人事的な視点でこの侵略戦争を捉えてしまうよな、と思った。でも、そこには人の生活があって、人の生命がある。それは忘れてはならないなと感じた。

飯沢耕太郎編『泉鏡花きのこ文学集成』

飯沢耕太郎編『泉鏡花きのこ文学集成』

 潔癖症で有名な泉鏡花。けれど、不思議な生態を見せるきのこに対しては、少し違っていた様子。きのこが出てくる小説や随筆が集められています。
「きのこの舞姫」が特に好きです。幼い頃天狗に拐われて、戻ってきてからも時々天狗のお里に帰るようになった杢若。彼が作るのは、蜘蛛の糸で編んだ、茸のお姫様のドレス。それらはやがて、人を狂わせるようになる。幻想的で、茸への愛があって、うっとりするようなお話でした。
 

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杉本苑子『散華 紫式部の生涯 上・下』

杉本苑子『散華 紫式部の生涯 上・下』

 昨今の「ひかる君へ」ブームに載って新装版が出たと思われる、紫式部が主役の小説! 図書館で偶然見つけて借りたのですが、これが面白かったです。
 紫式部の一生を、その時代背景も含めて描いています。平安時代の陰謀はありすぎて全部把握していなかったので、大変興味深く読みました。
 紫式部が、和泉式部の歌と『枕草子』に刺激されて『源氏物語』を書き始めたという設定も成程。
 また、源氏物語もしっかり読み込ん

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上遠野浩平『ブギーポップは笑わない』

上遠野浩平『ブギーポップは笑わない』

 シリーズ最新刊にフォルテッシモが出ると知り、20年ぶりの再読(フォルテッシモふぁん)
 徐々に核心に近付いていくところとか、大雑把なところは覚えていたけれど、最後の展開などは全然覚えていなかった。こんなに登場人物多かったっけ!?とその時点でびっくり。一人一人の登場人物にちゃんと役割が割り振られていて、それがとても良かった。
 そして、ブギーポップと霧間凪はやっぱり格好良い。大好き。
 ブギーポッ

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阿部智里『烏に単は似合わない』

阿部智里『烏に単は似合わない』

 最初は、世間知らずのお姫様が入内していびられる系の話かな?と軽い気持ちで読み始めた。
 でも、甘かった。
 そんな単純な話が流行るわけがなかった。
 四つの家の政略関係。女房の不審死。後宮への侵入者。変わりゆく人間関係。そして明らかになる様々な真実。
 特に最後にやっと現れた若宮が解き明かしていく真実には、唖然とするほかなかった。本格ミステリー並みの切れ味の良さ。本当にデビュー作!?と疑うほどの

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千早茜『さんかく』

千早茜『さんかく』

 料理が好きで上手いアラフォーの女性と、彼女の料理に胃袋を掴まれてルームシェアを始めた男性と、その彼女の大学の研究室で働く研究員の女の人の話。
 とにかく料理が美味しそう。さすが食にこだわりがある千早茜。どの料理も読んでいるだけで食べたくなってしまう。
 ストーリー的には、はらはらどきどき。アラフォーの女性と男の人の間には恋愛感情は生まれないのだけど、ルームシェアを彼女が知ったら激怒するに決まって

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櫻田智也『サーチライトと誘蛾灯』

櫻田智也『サーチライトと誘蛾灯』

 ブラウン神父シリーズや亜愛一郎シリーズが好きな人には是非オススメしたい、一連の系譜を継ぐ推理小説。
 探偵役は、虫を愛してやまないちょっととぼけた青年。彼の行く先々で起こる事件を、彼はちょっとしたひっかかりを元に解決していく。
 連作短編で読みやすいし、コメディタッチだから難しさも感じさせない。思わずくすりと笑ってしまうこの小説、オススメです。

峰森ひろかず『少年泉鏡花の明治奇談録--城下のあやかし』

峰森ひろかず『少年泉鏡花の明治奇談録--城下のあやかし』

 大のおばけずきの少年時代の泉鏡花--泉鏡太郎が、妖怪に見せかけた様々な事件を解決していく話。
 展開は子供向けなので読めてしまう部分もあったけれど、元ネタの小説からのアレンジが秀逸。最後の話でそれまでの話が全て繋がるところも好きです。
 そしてこの泉少年が、本当に泉鏡花の少年時代に思えて仕方がないのです。おばけずき。博識。そして年上の美しい女性を前にすると称賛の言葉が止まらない。泉鏡花っぽい!と

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ツェリン・ヤンキー『花と夢』

ツェリン・ヤンキー『花と夢』

 初めて読んだチベット文学。
 主人公は、チベットの中心地ラサのナイトクラブ「ばら」で働く4人の女性。彼女たちが如何にここに来るに至ったか、ナイトクラブの仕事内容、そして彼女たち自身が描かれている。
 まず驚いたのは、宗教都市であるラサにナイトクラブがあること! 春を売らないかぎりは許されているのか……と衝撃。
 チベットの女性のおかれた境遇にも胸が痛んだ。この主人公たちにひどいことをした人たち、

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空木春宵『感傷ファンタスマゴリィ』

空木春宵『感傷ファンタスマゴリィ』

 ミステリーに本格と変格があるように、SFにも本格と変格があるのなら、これは間違いなく変格SF短編集。どこかゴスや社会問題の提起やフェミニズムの要素が漂っている。すごく好き。
 特に好きな短編は
「感傷ファンタスマゴリィ」これが一番ゴスっぽい。死者を写し出す幻燈をキィワードに、くらくらするような世界が広がっていく。
「4W/Working With Wounded Women」一番好きな作品。未来

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私にでもできること

私にでもできること

 私は発達障害(ASD=自閉スペクトラム症)だ。双極性障害も患っていて、精神障害2級。当然ながら働くことはできなくて、どころか日々生きるのも精一杯で、大半の日々を希死念慮と闘うことに費やしている。
 また、私はアロマンティックでアセクシュアルだ。他者に恋愛感情も性的衝動も抱けない。つまり、自分に素直に生きるなら、子供を産むことはおろか、家庭を築くことすらできない。
 こんな私が未来のためにできるこ

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