鴇亜

文学の話をしたり短歌を詠んだりします。

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記事一覧

仲尾友貴恵『不揃いな身体でアフリカを生きる 障害と物乞いの都市エスノグラフィ』

 アフリカはタンザニア、ダルエスサラーム。  そこで物乞いをして生計を立てる障害を持った人たちの生活や都市における立ち位置に迫った一冊。  この本で初めて知ったけ…

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2日前
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ジェイムス・ラヴクローフ『シャーロック・ホームズとサセックスの海魔』

 シャーロック・ホームズ×クトゥルー神話シリーズ「クトゥルーケース」最終巻!  この巻のホームズは、引退して養蜂などをしながら余生を送り……つつ、やっぱり闇の力…

鴇亜
3日前

北村薫『中野のお父さんの快刀乱麻』

 一見のんべんだらりとした普通のお父さんが、推理になると冴え渡るシリーズ3作目。  最初の1作は、「本が絡むミステリー」程度だったのだけれど、だんだん「文学の謎を…

鴇亜
8日前

酉島伝法『奏で手のヌフレツン』

 酉島伝法の2作目の長編。  酉島伝法と言えば、デビュー作の『皆勤の徒』のイメージが鮮烈かつ濃厚だと思われますが、この作品ではそこは控えめ。読みやすさが増している…

鴇亜
2週間前
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森部豊『唐ーー東ユーラシアの大帝国』

 書きたい小説の架空の国のモデルを唐の時代の中国にしたくて読んだ本。  東ユーラシアという、ウイグルやチベット、遊牧民族にも目を向けた視点で、唐の歴史や内政、統…

鴇亜
4週間前
2

森博嗣『四季 春』

〈S&Mシリーズ〉や〈Wシリーズ〉で完璧な天才として登場する真賀田四季が、まだ完全でなくて、幾分幼さや不完全さを残していた幼女時代の話。  ミステリーでもあるけれど…

鴇亜
4週間前
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甲田学人『ほうかごがかり』

 ライトノベルの中でも私的には2番目に精神にくる作家、それが甲田学人。 『Missing』や『ノロワレ』では民俗学を、『断章のグリム』では童話をモチーフに、ホラーメル…

鴇亜
1か月前

ジェイムズ・ラヴグローヴ『シャーロック・ホームズとミスカトニックの怪』

 待望のシャーロック・ホームズ×クトゥルフ神話パスティーシュシリーズ第2弾!  ホームズとワトソンが、知恵と推理力を駆使して、邪悪な存在と闘っていくシリーズです。…

鴇亜
1か月前
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彩瀬まる『さいはての家』

 何かに追い詰められた人たちが、吸い寄せられるように住む家。その家に住む人たちの生活を描いた連作短編集。  短編は5本収録されているけれど、私が特に好きなのは、…

鴇亜
1か月前
3

岸政彦・打越正行・上原健太郞・上間陽子『地元を生きる 沖縄的共同性の社会学』

 久々にがっつりした本を読みました。と言っても、中心は聞き書きだったので、そんなに重たくはなかったですが。ただ、内容はかなり 重かったです。  この本を読んで、私…

鴇亜
1か月前
3

奈倉有里/逢坂冬馬『文学キョーダイ!!』

 ロシア文学者の姉と小説家の弟の、姉弟対談。とても読みごたえがあった。  まず、二人の家庭環境に、すごく共感するところがあった。私の両親も、子どもを一つの人格を…

鴇亜
1か月前
1

半藤一利『幕末史』

 戦前~戦後を生きた半藤一利が、太平洋戦争との関係性などにも触れつつ、幕末から西南戦争までの日本を語り下ろした本。  さまざまな小説や漫画や新書や専門書で、バラ…

鴇亜
1か月前
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明神しじま『あれは子どものための歌』

 ミステリー要素アリのファンタジーが好きな人に朗報!この本は、話が進んでいくなかで、だんだんと真相が明かされていくタイプの謎があるファンタジーです。  一話一話…

鴇亜
1か月前
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古川日出男『紫式部本人による現代語訳「紫式部日記」』

 紫式部が宮仕えの日々と自身が仕える彰子の出産の様子を描いた「紫式部日記」。これを現代の女性風な紫式部による註釈を入れながら、現代語訳した本。  とにかく読みや…

鴇亜
2か月前
8

映画「クラメルカガリ」

 見てきました、クラメルカガリ!  クラユカバを本来先に見るべきなのでしょうが、そちらはBlu-rayを購入してきました。  絶対にBlu-rayとパンフレットが欲しかったので…

鴇亜
2か月前
5

映画「マルドゥック・スクランブル 圧縮」

※できるだけネタバレはしない方針ですがうっかりしてしまうかもです。  まず、一言言わせてください。  林原めぐみさんの、あまりに澄んだ少女の声!  最近聴いていた…

鴇亜
2か月前
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仲尾友貴恵『不揃いな身体でアフリカを生きる 障害と物乞いの都市エスノグラフィ』

仲尾友貴恵『不揃いな身体でアフリカを生きる 障害と物乞いの都市エスノグラフィ』

 アフリカはタンザニア、ダルエスサラーム。
 そこで物乞いをして生計を立てる障害を持った人たちの生活や都市における立ち位置に迫った一冊。
 この本で初めて知ったけど、アフリカでは、アルビノは身体障害に入るらしい。不吉な子供として、たくさんの子供が殺されてきたのだとか。ショックでした。
 あと、この本で描かれる物乞い像は、日本での一般的なイメージとは全然違う。明るくて、尊厳を持っていて、お金をくれる

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ジェイムス・ラヴクローフ『シャーロック・ホームズとサセックスの海魔』

ジェイムス・ラヴクローフ『シャーロック・ホームズとサセックスの海魔』

 シャーロック・ホームズ×クトゥルー神話シリーズ「クトゥルーケース」最終巻!
 この巻のホームズは、引退して養蜂などをしながら余生を送り……つつ、やっぱり闇の力と戦っている。
 そして、長きに渡るルルロイグとの戦いに、遂に決着の時が訪れる。
 世界大戦前という歴史的背景を取り入れているのも、今回の魅力。しかし、戦前戦中のドイツの扱いって、大概ひどいな。
 ドリームランドについてもしっかり触れられて

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北村薫『中野のお父さんの快刀乱麻』

北村薫『中野のお父さんの快刀乱麻』

 一見のんべんだらりとした普通のお父さんが、推理になると冴え渡るシリーズ3作目。
 最初の1作は、「本が絡むミステリー」程度だったのだけれど、だんだん「文学の謎を解き明かすミステリー」になってきて、3作目では落語ミステリーも加わった。まさに作者の独壇場。
 読んだことがない作品が出てくると読みたくなるし、読んだことのある作品が出てくるとにやにやしてしまう。
 文学好き(落語好きも!)必読のミステリ

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酉島伝法『奏で手のヌフレツン』

酉島伝法『奏で手のヌフレツン』

 酉島伝法の2作目の長編。
 酉島伝法と言えば、デビュー作の『皆勤の徒』のイメージが鮮烈かつ濃厚だと思われますが、この作品ではそこは控えめ。読みやすさが増している気がする。
 ここではないどこかで、私たちの世界にはない、しかし私たちの世界で聞いたことのある名前に似たものたちに囲まれて生きている主人公たち。おそらく遠い未来に別の惑星に適応した人類か、と思われる。
 一部では、一部の主人公の成長と共に

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森部豊『唐ーー東ユーラシアの大帝国』

森部豊『唐ーー東ユーラシアの大帝国』

 書きたい小説の架空の国のモデルを唐の時代の中国にしたくて読んだ本。
 東ユーラシアという、ウイグルやチベット、遊牧民族にも目を向けた視点で、唐の歴史や内政、統治機構を俯瞰した本。
 武則天については、また研究が進んだら変わるかもなあと感じた。
 思っていた以上に唐の末期がぐだぐだだったことに驚き。南北朝時代と五代十国時代の間だし、版図が広かったから仕方ないのかもしれないけれど。
 科挙についてと

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森博嗣『四季 春』

森博嗣『四季 春』

〈S&Mシリーズ〉や〈Wシリーズ〉で完璧な天才として登場する真賀田四季が、まだ完全でなくて、幾分幼さや不完全さを残していた幼女時代の話。
 ミステリーでもあるけれど、それ以上に森博嗣の世界で特別な立ち位置を占める四季を描き出すことに力点が置かれている気がする。淡々とした、白い文章。
 引っ掛かって当然の部分をスルーして、というか勘違いして読んでしまったのは、正直自分に落胆した。それでも作品の面白さ

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甲田学人『ほうかごがかり』

甲田学人『ほうかごがかり』

 ライトノベルの中でも私的には2番目に精神にくる作家、それが甲田学人。
『Missing』や『ノロワレ』では民俗学を、『断章のグリム』では童話をモチーフに、ホラーメルヘンのような世界を描いてきた作者が今度題材に選んだのは、学校の怪談。
 7人の小学生が選ばれて、毎週金曜日、昼とは全く違う世界の小学校で怪異と対峙することになる。求められているのは、それを観察すること。配られた日誌に、彼らは怪異の様

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ジェイムズ・ラヴグローヴ『シャーロック・ホームズとミスカトニックの怪』

ジェイムズ・ラヴグローヴ『シャーロック・ホームズとミスカトニックの怪』

 待望のシャーロック・ホームズ×クトゥルフ神話パスティーシュシリーズ第2弾!
 ホームズとワトソンが、知恵と推理力を駆使して、邪悪な存在と闘っていくシリーズです。
 今回は、脳の一部を入れ換えると人格が入れ替わるという架空の科学技術もあって、空想科学小説っぽさも加わっていてとても面白い。展開が読めてしまった部分もあったけれど、それでも十分に楽しめました。
 特に「ルルロイグ」の正体は……これでこそ

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彩瀬まる『さいはての家』

彩瀬まる『さいはての家』

 何かに追い詰められた人たちが、吸い寄せられるように住む家。その家に住む人たちの生活を描いた連作短編集。
 短編は5本収録されているけれど、私が特に好きなのは、3つ。
「はねつき」…お客さんと駆け落ちした女の子が、本を読むようになって行くうちに、それまでのぼんやりと生きてきた自分から考える自分に変化していく話。
「ひかり」…新興宗教の元教祖だった老婦人が、老いていくなかで、自分の人生と向き合う話。

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岸政彦・打越正行・上原健太郞・上間陽子『地元を生きる 沖縄的共同性の社会学』

岸政彦・打越正行・上原健太郞・上間陽子『地元を生きる 沖縄的共同性の社会学』

 久々にがっつりした本を読みました。と言っても、中心は聞き書きだったので、そんなに重たくはなかったですが。ただ、内容はかなり
重かったです。
 この本を読んで、私の中の沖縄のイメージが100°くらい変わりました。
 一般的な内地の人が想像する、「なんくるないさー」みたいなゆったりしたイメージのエスノグラフィーは、4つのうち1つだけ。あとの3つは、想像と全然違っていました。
 特に衝撃を受けたのは、

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奈倉有里/逢坂冬馬『文学キョーダイ!!』

奈倉有里/逢坂冬馬『文学キョーダイ!!』

 ロシア文学者の姉と小説家の弟の、姉弟対談。とても読みごたえがあった。
 まず、二人の家庭環境に、すごく共感するところがあった。私の両親も、子どもを一つの人格を持った存在として見てくれたから。それに、父親が研究者というところも共通点。一気に親近感が湧いた。
 中身は、かなりシリアスな面も。日本では暗黙の了解でタブーとされている小説家の政治への言及も、真っ向からしていた。とても好感。
 逢坂冬馬先生

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半藤一利『幕末史』

半藤一利『幕末史』

 戦前~戦後を生きた半藤一利が、太平洋戦争との関係性などにも触れつつ、幕末から西南戦争までの日本を語り下ろした本。
 さまざまな小説や漫画や新書や専門書で、バラバラには知っていた幕末前後の知識。それらが、滑らかな語りで統合されていく感じがした。
 特に、薩長土の軍閥が太平洋戦争の時にまで影響を及ぼしていたとは驚きだった。軍隊が能力主義じゃないだなんて、そりゃ日本は負けるよ。
 幕末については自分の

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明神しじま『あれは子どものための歌』

明神しじま『あれは子どものための歌』

 ミステリー要素アリのファンタジーが好きな人に朗報!この本は、話が進んでいくなかで、だんだんと真相が明かされていくタイプの謎があるファンタジーです。
 一話一話、独立した話として読んでもよいのだけど、やはり連作短編として固め読みするのが是非ともオススメ。最後の物語では、それまでの物語が全て合わさって、素敵なエンディングが待っています。
 ちなみに個別の話として私が好きなのは、並行して語られる三つの

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古川日出男『紫式部本人による現代語訳「紫式部日記」』

古川日出男『紫式部本人による現代語訳「紫式部日記」』

 紫式部が宮仕えの日々と自身が仕える彰子の出産の様子を描いた「紫式部日記」。これを現代の女性風な紫式部による註釈を入れながら、現代語訳した本。
 とにかく読みやすくて、するすると文章が頭に入ってくる。けれど、その分、原文が持っていた優雅さが少し失われている気がして、まあ現代語訳してしまったらそうなるのは当然なのだけど、少し残念。
 でも、原文の『紫式部日記』と並行して読んだら、すごく分かりやすくな

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映画「クラメルカガリ」

映画「クラメルカガリ」

 見てきました、クラメルカガリ!
 クラユカバを本来先に見るべきなのでしょうが、そちらはBlu-rayを購入してきました。
 絶対にBlu-rayとパンフレットが欲しかったので、交通費はかかるけれどマイナーな映画を見る人があまり行かなさそうな映画館で公開した週に見てきました。ふふふ。
 クラメルカガリのシナリオ原案は、『バッカーノ!』『デュラララ!!』の成田良悟です。そして私はナリター(成田オタク

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映画「マルドゥック・スクランブル 圧縮」

映画「マルドゥック・スクランブル 圧縮」

※できるだけネタバレはしない方針ですがうっかりしてしまうかもです。

 まず、一言言わせてください。
 林原めぐみさんの、あまりに澄んだ少女の声!
 最近聴いていた林原めぐみさんの声はブラック・ラグーンのレヴィだったから、感動しました。そうか、これが綾波レイの声……。
 あと、中井和哉さんのシェルがとても良かった。今まで聞いた中井さんの演技の中で一番良いと思いました。
 ボイルドがロングヘアなのは

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