こんにちは。七緒ようです。 自分では「物書き」と名乗っていますが、いわゆるフリーライターとして活動しています。 「明日の世界をちょっと面白く」をモットーに、今日も文章を書いています 新潟県新潟市出身/岐阜県在住 主な仕事は、個人事業主や中小企業のHPライティング、メルマガ代筆、事業計画書ライティング ほか。 最近では、作家を軸としていくために、コンテスト応募(結果待ち)や童話絵本の自費出版も始めました。 お仕事のスタンス 自分の名前が表に出ないライティングを多くやって
赤い光が窓から差し込む。 隣を走るトラックのテールランプが、私の乗ったタクシーを追い越していく。 「はぁ」 タクシーに乗ってから三度目のため息をつく。 これで良かったんだと、今日だけで二十回も言い聞かせている。 「お姉さん、えらい元気無さそうですね。大丈夫ですか」 ミラー越しに運転手のお兄さんが話しかけてきた。まあ、そりゃそうだよね。化粧っ気のない三十路女性が十分間で三回もため息をついていたら、引くか心配するか、だいたいどっちかだ。 「ええ、すみません。大丈夫です」
赤い光が窓から差し込む。 真っ赤な稲光が幾筋も空を走る。地球のように、雷雲はない。降雨もない。何もない空に突然赤い稲妻が走る。大気が薄く、酸素が豊富なこの星では、雲が形成されない。 そして、その豊富な酸素の影響で、地表のあらゆるものが酸化化合物になっている。要するに錆びている。部屋を赤く染める雷がなくても、窓からは赤茶けた景色しか見えない。 「赤い光は目に良いって聞いてたけど、まったく目が良くなった実感がないな。地球に帰ったら、あの部分は優良誤認だって担当に訴えてやる」
私は、このあと死ぬつもりでいた。 溜池山王駅で地下鉄を降りて、六本木通りを赤坂アークヒルズに向かって歩いているが、ちゃんと目的地を知っているわけではなかった。おそらく同じ目的地だろうという人にあたりをつけて、その後ろを歩いているだけだった。 前を歩く薄い紫色のワンピースを着た女性が、歩道から赤坂アークヒルズの方へ曲がっていく。そのままついていくと、エスカレーターで上階に行き、さらに少し歩くと巨人のバーベルが半分地面に埋まったようなオブジェが見えてきた。 その先に、唐突
ネットショップで商品を買った。 こうそく便で頼んだら、発送完了メールを受信直後に宅配ボックスに届けられた。 しまった。 間違えて「光速便」にしていた。 ふわトロが売りのプリンは、衝撃と熱で炙りプリンになった。 『54字の物語』という超短編シリーズがあります。 どちらかと言うと児童書寄りのこのシリーズですが、ちょっとその真似事をしようと思った次第です。 なんだか、大喜利みたいで慣れないと難しいですね。 ところで、お急ぎ便ってありますけど、本当に便利だなあと思います。
このうみには たくさんのいきものが くらしています ちいさな ちいさな プランクトンから おおきな おおきな クジラまで ひろい ひろい うみのなかでくらしています クジラのなかには にんげんたちから 「せかいでいちばん こどくなクジラ」とよばれているクジラがいました そのクジラは ひとりで ふかいうみのなかを およいでいました ほかのクジラよりも ちょっとたかいこえの このクジラがやってきたのは むかし むかし おじいちゃんのそのまたおじいちゃんが まだ こどもだ
なあなあ、暇かい?どうせ暇だろ?どっかに行くこともせずに、こうやってワタシの話を聞いているんだから。 まあまあ、怒るなよ。え、お前がどっかに行けって?いや、そうは言ってもこの雨だぜ。雨が止むまでちょっと雨やどりさせてくれよ。何も取って食うつもりはないんだから。 にしても、久しぶりの本格的な雨だよな。ん?雨は嫌いか?そっちのあんたもか?ワタシは結構好きなんだよ、雨。 だって、雨が木々の葉っぱや地面に当たる音って独特だろ。それに、湿ってひんやりした空気が一面に広がっていて
「お会計、543円になります」 財布から千円札を一枚取り出してトレイに置く。これで財布の中に紙のお金が無くなった。次のバイト代が入るのが、明後日。いや、しあさってだったかな。 「457円のお返しです」 受け取った小銭から二枚の一円玉をレジ横の募金箱に入れて、残りをジャラジャラと小銭入れに流し込む。今まで募金した金額で、お茶くらい買えるんじゃないか。 僕は少し横にズレて、値引きシールの付いていたかつ丼がレンジの中で温められるのを待った。 店員の女の子が、いかにも熱そうに
運用開始から現在までのすべてのデータと、他の施設の参考データが入った鉱石メモリが破損し、実験場に降り注いだ。別のメモリをうっかりぶつけてしまった。 「あー、やってしまった。いくら長期保存しやすいといっても、やっぱり媒体そのものが脆かったらダメだよな」 幸いこの時間の担当は自分一人だった。交代まではしばらく時間がある。ちょっと誤魔化しておこうか。 「とりあえず、仮復旧して少し様子見するか」 残った鉱石メモリを集め、形と向きを整えてから実験場の傍らに据えると、観察と記録を続
目の前に置いてある貰い物のプーさんの時計は、21時15分を過ぎようとしていた。 私はモニターの向こうのカジモトに、つい八つ当たりをしてしまった。「やる」と言ったのは自分だけど、こんなに大変だと思わなかった。毎日新作短編を書いて、しかもそれを100日間続けるなんて。 「なあ、知ってるか。秋に赤く色づく桜の葉は、埋められた死体の血を吸ってて、だからあんなに真っ赤に色づくんだよ。これはな、信じていいことなんだ」 小さな出版社の編集者であり、幼馴染でもあるカジモトがZOOMミーテ
世田谷美術館近くのベンチは、立ち並ぶ大きなケヤキが作る日陰で少し涼しく感じる。 用賀駅の自販機で買ったペットボトルのお茶を一口飲んで、カバンからノートとボイスレコーダーと名刺入れを出す。 屋外でのインタビューはあまり経験がなく、少し緊張する。私はもう一口お茶を飲んでからペットボトルをカバンに入れた。 風に葉が揺れる音が心地よい。木のてっぺんで揺れる枝を眺めていると、声を掛けられた。 「あの、沢田さん、ですか?」 声のした方に目を向けると、異様に大きな白いトートバッグを
個性が大切とか、違いを認め合うとか、そんなことを言ってはいても、所詮私たちの個性や違いなんて無いに等しい。隣のこいつも向こうのあいつも、たいして違いなんてないだろう。 もし違いがあっても、違いすぎる場合は認めるのではなく、排除しがちではないだろうか。 あいつもそうだ。あいつは違いが原因でいじめられてた。 あいつは逃げなかった。どうせ暮らす場所は変わらないと言った。 今いる場所で精一杯やるのみだと。 私はあいつの隣で揺れていたい。私はそれで充分だった。 その時、
──そんな目で俺を見るな。俺は悪くないじゃないか。 周囲の目が一斉にこちらに向く。クラスの真ん中で俺を見るあいつから、不穏な期待と軽薄な侮蔑を感じて、つい悪態が口から出そうになる。顎にしびれが残るほど奥歯を噛みしめてから、努めて明るく聞こえるように言った。 「悪かったよ、ごめん。それと、俺の譜面に納得してくれてありがとう」 ──なんで俺が許されて、それを感謝する構図になってるんだよ。ふざけんな。 同調圧力という見えない搾汁機から絞り出された『ありがとう』は、空気の抜けた
暗く深い海に潜って、心臓をゆっくりと動かす。 ──こ゜くん── ──こ゜くん── 一分間に2回しか動かない心臓は、止まりそうなほど必死にゆっくりと血液を動かしている。 寝る前に消し忘れていたアラームの音で目を覚ました。 今日は休日だったのにもったいないことをしたな、と体を起こしながら思った。 朝食を食べながら新聞を読んでいると、ウミガメの心拍数に関する記事が載っていた。 『ウミガメが潜水すると急激に心拍数が少なくなり、水深140メートルを超えると1分間で2回
ごく普通の住宅街の袋小路になった突き当りにその扉はあった。 『13歳以上、お断り』 先週12歳になった僕は、2歳年下の先輩から教えてもらってようやくここに来ることができた。 扉の隣についているベルのボタンを押すと、インターホンから女の子の声で返事があった。 「はい、どちらさまですか」 僕は先輩から教えてもらっていた通りに答える。 「こどもだから、よくわかりません」 少し間があって、インターホンからまた声が聞こえた。 「いま、いくつですか。最新の身分証をカメラに見せて
映画や本を読むことが娯楽であるように、他人の人生や心の内を覗き見るのもある種の快楽ホルモンが出るのだろう。 相談に乗るのが好きだと公言している人たち、すぐに話を聴かせてほしいと言う人たち、落ち込んだ様子のSNS投稿に対して、「私で良ければいつでも話を聴くからね」とコメントする人たち。 私の周りにも何人かいる。その誰もが基本的には良い人で優しく、共感しやすいタイプだ。 そして同時に、無自覚に他人の不幸に興味があり、承認欲求が強い人でもある。あるいは、本当は聴く以上に自分