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散文

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#散文

散文『街路樹と換気扇』

散文『街路樹と換気扇』

 空回りする換気扇を眺めていた。風に吹かれて回るだけの存在はもう何十年もそこにいるらしい。粉のような雪が申し訳程度に降っている。久しぶりにここら辺で降ってみようか、なんて思っているかのように少しずつ、微かに舞っている。

 雀が小さな鉢に植えられたというのに大きく育ってしまった何らかの木に留まった。私にとってそれがなんの木であるかは関係ない。ただ、そこには木があって、窮屈そうに生えているのが心地よ

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写真詩『校舎の電気に怯えた』

写真詩『校舎の電気に怯えた』



この空の下で生きてきた
無視をされて無かったことにした日も
消えた上靴の居場所も
走って逃げたあの夜も
泣きながら登校したあの朝焼けも
全てはここにあった
きっとみんないる
私を傷つけた人も
私を責めた人も
ずっとここにいる
目を背けてきたつもりは無い
だけど少しずつ傷から逃げてきた
逃げ方を教えてくれたこの歌が
私に消そうとしたものを浮かばせた
止まってばかり
道をはずれてばかり
それでこそ

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散文『ポツポツ』

散文『ポツポツ』

繁華街をポツポツ歩く。

その一文だけがノートに残されていた。過去の自分が何を考えたのか、思い出そうとすら思わなかった。ただ、『繁華街をポツポツ歩』いてみたくなった。

電車が停止し、歩く。
ガヤガヤとした街は暗かった。都会ももう暗い時間なんだと思う。
死んだ都会は、見慣れた場所だと思った。

頭がバラバラと崩れるような、具体性がないような、全てが消え去る瞬間のような思考は断片的で線路の美しさに気

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散文 うのはなとしんごう

散文 うのはなとしんごう

時、トツトツと

キャップには誰かの使用言語が書かれている

車はコツコツ鳴る

和気あいあいと音楽が喋っているのを聞いているけど、君は他人でしかないね

笑う空をソリで駆け抜けたあの犬を田んぼに落とした

連続殺人鬼は霧立のぼる境内の中で眠っている

煌めいた人間の煩悩は野球のボールになった

バカバカしくて緑が泣いた

山の色がトンカラトンカラ変わっていく

傷が消えたあの川は赤くなった

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散文 私を生きる場所

散文 私を生きる場所

泣いていた。

私は泣いていた。

丁寧に家の片付けをして、洗濯物を畳み、お風呂を洗って、私の食べないご飯を作った。

二十歳を超えてもう数ヶ月。
夜の街にフラフラと歩き出す。

そういえば、猫は鳴かなかった。私が出ていく時、ケージに入れた猫は何も訴えなかった。いつもは切なそうに鳴くのに今日は何も鳴かないで、私が出ていくことに気付きもしないようだった。

それが悲しかった。きっと鳴いたら鳴いたで、

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詩『入道雲の残党』

詩『入道雲の残党』



夏戻り醒めない夢を届ける雲の微かなエグ味
泣けない子供に注ぐ青はただならぬ
自分の生命力を奪われて
さて、という

はじめましてはここにない

散文 外眺る君の輪郭線は青と緑

散文 外眺る君の輪郭線は青と緑

とりとめもなく、私の心には不愉快という靄がかかる。空の青さがその曇をより汚いものとするから、もういいかなって思い始める。

ベッドの上、何もせず、ただ嫌悪する。

自分に嫌気がさし、気を逸らす為に、音で頭を埋める。

そんな時間を過ごしていた。ふかふかと当たる空気の質量が夏を思わせて、夏休みがとうの昔に終わっていることを思い出し、また怪訝になる。

私は闇に引っ張られているのだ。影の方が心地が良か

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散文 点滅と借り物

散文 点滅と借り物



街が点滅している。

反射する川の色は、深い愛よりも歪に赤と青を折り合う。
重なり合った空をなぞるように私は見ているのだけど、きっと何も見えていないんだ。

高い場所に来た。街の中でも高い場所。夕焼けを見たいがために歩いた足は不安がある。何でこうなってしまったんだろう、なんて言葉を出せないほどに私の舌は硬く怯えている。

空が燃える。

どこかの放火をいつも毎日大きく写し出していた。

街が点

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散文 空気の色と駆け抜ける

散文 空気の色と駆け抜ける

風が優しくなった。それは、世界が私に優しくなったのか、私が世界に優しくなったのか。

自転車で駆け抜ける街を私はよく見ててこなかったんだと気づく。コンクリートを突き抜けて生えていた雑草の強さが少しだけ自分の身に着いてきた、と言えたらいいけど、そこまで私は意思がない。

黒猫が路地をゆく。

それを私も横目に見て、気にしなかった道を進む。駆け抜けて、駆け抜けてなお、私の街。何故、この街を自分のものだ

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散文 トンボの群衆

散文 トンボの群衆

僕は雨に打たれてる。
傘を持たずに、1人歩く。ザーザーと降っていた雨が緩やかになって、途絶えたその後のポツポツと体のバリアの外に弾かれるぐらいの雨粒に気持ちよさを感じたのだった。

雨が降り出した時のプールを思い出した。水の中に入っていれば、雨は冷たくもない。もっと入っていたかった。外に出たら寒くなってしまう。ぬるい雨に纏われるのが嫌で、僕は限界まで潜っていた。それでも、スピーカーからはプールから

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写真詩『尽きた命の音』

写真詩『尽きた命の音』



尽きた命の音がした
カシャっと乾いた音
死んだ命を踏んだこの足に罪はある

【写真詩集『はみ出す青』のボツ作】
掲載するつもりで作ったけど、微妙だ!と思ったのでこちらで供養です。好きだけど!!ちょっと単語が無意味に繰り返されてる感じがします。純度が低い……

そしてこれもsampleで兄が作ってくれた表紙案です。
これもとても素敵ですが、ちょっと水色過ぎるかなと!思って!リテイク出したらより良

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詩『はみ出す青』

詩『はみ出す青』



もう終わるらしい夏休みの
空を見ることなく
部屋の中
ひとりぼっちで吸う息に
とくとくと輝いた愛のなさ
めぐる命の空き箱は
何かを思わすことも無い
さおさおさお
竹の音がどこからか聞こえるの
さおさおさお
また聞こえる
それは猫の悲鳴をかき消すために

マスクから開放され
入ってくるのは青の音
侵食していくその色は
まぶたの裏に焼き付いた

散文 踏切の君に

散文 踏切の君に



私は明るく冷えた電車の中で、
君は猛暑の余韻の中、
私を探して踏切の向こうにいる。
君の硬い熱を掴んだ手でバイバイをする。

文体練習 山々はどこにでもある

文体練習 山々はどこにでもある

脈々と受け継がれてきた舞を葉っぱたちは踊る。一枚一枚が思いのままに自分の一生を体現しようとしているのが健気で私は出来るだけ道に落ちた落ち葉を踏まないように心掛けた。

さわさわと音を立てるのは僕ではなくて、世界の方だった。なんでもいいからと街から逃げた先からみた街は小さくて人間なんて居なかった。いつもそこにあるのが当然で、気に止めることもなかった山は、僕の小さな現実をどうでもいいというように独自の

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