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オースティン、テキサス──留年生の出稼ぎ日記 〈留年編〉
もうイッカイ、遊べるドン!
専任軍曹ハートマンからは「そこで取れるのは種牛とオカマだ」と罵られ、トラヴィスが放浪し、ケネディの前頭が撃ち抜かれた地、テキサス。その地への旅券を私が予約したのは、ある出来事から一週間後、大急ぎでのことだった。
留年である。それは長野で初のスノボに興じていたときだった、三月十日の正午、リフト内で恐る恐る大学のホームページを開く、「原級」の二文字が視界を捉えた、滑り
オースティン、テキサス──留年生の出稼ぎ日記〈日常編〉
キープ・ライト!
数ある渡米体験記と同じく、おれにとっても最初の難関は右側通行であった。車社会のテキサスで働くとあっては流石に一台は必須であり、半年滞在するならば中古車を買って帰りぎわに売った方がむしろ安い、そのためおれは燃費の悪い起亜車を購入した。
さて右側通行。道路に出ようとウィンカーを出す、しかし動いたのはワイパーだった、ハンドル横の操作も反転している、いよいよ道路へ、しばらく走ってい
オースティン、テキサス──留年生の出稼ぎ日記〈同僚編〉
勝気のシェルビー・言語学のマリーナ
私の研修を担当してくれたのは、シェルビーとマリーナだった。初日を担当してくれたシェルビーは、例えばロッカーの場所を説明するときに「You can put your shit inside there」と言うなど、とにかく下品な言葉を乱用したが、同時に責任感のある勝気な女性で、不意に見せる笑顔が眩しく、私は彼女を気に入っていた。彼女は研修翌日に日本語プリントの
オースティン、テキサス──留年生の出稼ぎ日記〈大谷翔平編〉
サイクル手前の打率八割
「オースティン、テキサス」と銘打ってはいるが、今度ばかりは「ヒューストン、テキサス」だ、ヒューストンにはメジャーの野球場があって、そこには史上最高の日本人選手どころか、史上最高の野球選手になろうとしている、あの大谷翔平が来るのだから……
アルコホール中毒の祖母が酔っ払ったタイミングで彼女のクレカを借り、メジャーリーグのサブスクに加入、以来退勤後にエンゼルス戦を観ること
オースティン、テキサス──留年生の出稼ぎ日記〈ザリガニ編〉
¥€$!円安バンザイ
「……このままだと、新しく仕事を探さないといけないな」サーバーの一人、アニメフリークのジャコビーが、閑散とした店内を見てそう呟いた。職場の同僚については散々書いておきながら、アルバイト内容について語らないのも野暮というものだろう(ちょっくら茶化しに来るには、あまりにも遠い距離なのだ)、私が働いているのはケイジャン料理、すなわちルイジアナ発祥の料理を扱うレストランで、一番人気
オースティン、テキサス──留年生の出稼ぎ日記〈海外おたく編〉
Yakisoba falling out of his pockets
同僚でアニメフリークのジャコビーは、同じアルバイト先でサーバーをする傍ら、ロゴデザインや一枚絵を請け負うイラストレーターとしても活動している。彼と話していると、やれあの映画は面白いだとか、あのイラストはここがスゴイだの、馴染みのある「おたく的」会話にたいてい発展するので、大学の漫研で同人誌を作るなどしている私からすれば、そ
オースティン、テキサス──留年生の出稼ぎ日記〈タスコ編〉
崖の上のタスコ
テキサスはアメリカ・メキシコ国境間に位置しており、ロスエンジェルスのようなアメリカ主要都市へ渡るよりも、むしろ南下してメキシコに入国してしまうほうが安く済む。せっかく車も購入したのだし、ドライヴで国境越えという日本では経験できないことをしてみたい、と思ってはいたものの、国境付近に屯するギャングを理由に周りから軒並み反対され、渋々飛行機で向かうことになった。
飛行機を降りてから
オースティン、テキサス──留年生の出稼ぎ日記〈サンタ・ムエルテ編〉
征服者の都市
メキシコシティにはとにかく数多くの文化が混合していて、それが一種のカオスを作り出している。──アステカ時代から続く先住民の、それを征服(コンキスタ)したスペイン人による植民時代の、そしてその二つの文化が融合した、混血(メスティーソ)による現代の文化。
例えば首相官邸のある中央広場、ソカロに目を向けてみる。現在のそれを、アステカ時代のソカロを3Dモデルで再現した(https://