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映画について

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映画の感想を書いています。劇場で観たものをメインに、たまに配信のも。個人の備忘も兼ねて簡単に書きます。
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戦争の虚無を描く 映画『ブラックパンサー ワカンダ・フォーエバー』

戦争の虚無を描く 映画『ブラックパンサー ワカンダ・フォーエバー』

世界は、私たちは、美談として受け入れていた復讐も、国のために命をかけた戦士たちの戦いも、許容できなくなってしまった。

その状況を踏まえて華麗で迫力のある殺陣を、あえて虚無に見せる演出。

気高い本当のヒーローは復讐に走らない。

個人的な怨恨に民を巻き込むのは良き指導者ではない。

前作の主役ブラックパンサーでワカンダ王のチャドウィック・ボーズマンが2020年にがんで亡くなった続編として、代役を

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アカデミー賞候補解説『パワー・オブ・ザ・ドッグ』

アカデミー賞候補解説『パワー・オブ・ザ・ドッグ』

28日のアカデミー賞発表に向けて、少し映画解説をしてみようと思います。

『ドライブ・マイ・カー』は言うまでもなく傑作なので、他の作品の見どころを。

Netflix映画の『パワー・オブ・ザ・ドッグ』は、今期最多の11部門12ノミネートはただごとじゃない。

私の感想としては、ものすごく斬新。難解だけど、じわじわ後からくる味わい深さと痛さ、目に焼きつく画角ひとつひとつの美しさも忘れられない作品です

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映画『東京裁判』

映画『東京裁判』

横川シネマで映画『東京裁判』観た。日本は戦争してたんだって初めて自分ごと化できた。もっと早く出会いたかった。中学の歴史の授業とかで。これを知ってる知らないで、どう生きていくかが変わる映画。第二次大戦A級戦犯を裁く裁判記録と戦争記録の4時間半のドキュメンタリー。1983年公開のデジタルリマスター化。映像も音もすごく綺麗でドキドキするほど。見る価値あり。

http://www.tokyosaiban

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映画『パヴァロッティ 太陽のテノール』

映画『パヴァロッティ 太陽のテノール』

広島サロンシネマで映画『パヴァロッティ 太陽のテノール』観た。上映前に支配人が「オペラは詳しくないですがパヴァロッティのファンになってしまいました」と挨拶。丁寧な接客大好きです。映画も良かった。若き声と老いた声を比べる愚かさを語るボノ。ダイアナ妃とのエピソード、ローマのカラカラ浴場での三大テノール最初のコンサート、泣ける場面いっぱい。私がパヴァロッティ最初に聴いたのはトリノ五輪のフィギュアスケート

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映画『タゴール・ソングス』

映画『タゴール・ソングス』

ドキュメンタリー『タゴール・ソングス』にえぐられた。最後に来日したインド人女性に自分が重なる。
インドとバングラディッシュでは誰もが知る詩人タゴールを通して今のベンガル人を描く。
「親の言うことが全て。結婚させられて社会を知らないまま生きていくのは嫌なの」と来日して出会ったインドと日本のハーフの同年代の大学生と話す場面は、インドと東京が距離を越えて繋がり、あ、これ今実際に起きてることなんだと実感す

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映画『マルモイ ことばあつめ』

映画『マルモイ ことばあつめ』

韓国語の辞書を作る話、日本で言う『舟を編む』だなと気楽に観たら衝撃。日韓併合時代の朝鮮で日本軍が朝鮮語を禁止したのに抵抗するために学者たちが方言を集めて辞書に残すという、文化とアイデンティティを守る話だった。日本が朝鮮半島でしたことを突きつけられた痛みと感動。傑作。

https://marumoe.com

映画『ペイン・アンド・グローリー』

映画『ペイン・アンド・グローリー』

芸能界の眩しさと危うさを美しく描き切った傑作。

華やかに見える映画監督や舞台俳優の暮らしは、破天荒で病的で繊細で脆くて儚い。ゆえに美しい。
私もかつて芸能界に憧れた。あのまま進んでいたら、と想像するとき、煌びやかな照明に照らされる自分と、闇の中で苦しむ自分の両方が見える。そして重たい感情がこみ上げる。私は、そこで生きていけるほど、強くなかった、と。
映画を撮り続けられず、持病に侵され燻るような毎

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映画『レ・ミゼラブル』

映画『レ・ミゼラブル』

人も正義も何一つ信じられなくなるのが差別。若い世代に何を残すのか問う、今この世界中に刺さる映画。ひたすらに胸が痛い。負の連鎖はここで止めなければと強く思う。

ビクトル・ユゴーの小説「レ・ミゼラブル」の舞台で、パリから17キロの郊外にあるモンフェルメイユは移民が多く住み犯罪多発地区。この街で生まれ今も暮らしているレジ・リ監督が現状を伝えるために作ったという。

モスクを作り子供たちを指導して自治を

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映画『在りし日の歌』

映画『在りし日の歌』

ひとりっ子政策に翻弄された夫婦の物語。185分の長い映画なのに、もっと続きを観ていたかった。1980年代から2010年代までの場面は非連続で出てくる。主人公の老け具合、車や携帯電話や洋服なども含めて、ああこの頃かと想像しながら頭の中で物語を埋めるようにつなぎ合わせていくのは楽しかった。

同じ日に生まれた一人息子を大事にする二つの家庭は国有企業の社宅で親戚同士のように暮らしている。

楽しい庶民的

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映画『彼らは生きていた』

映画『彼らは生きていた』

殺し合いなんて、誰もしたくないんだ。

第一次世界大戦のイギリス軍の映像と証言を繋いでモノクロ映像をカラー着色で、ロード・オブ・ザ・リングのピーター・ジャクソン監督が手掛けたというから凄い。
兵士が志願してから過酷な戦地に行き地獄を見てから帰るまで、残されていた映像と肉声が生々しい。

嬉々として流行に乗るように我先にと志願する若者。年齢をごまかして入隊した15歳や17歳の少年は軍服もタバコも似合

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映画『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』

映画『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』

フランスとデンマークの合作。舞台は19世紀の帝政ロシア。探検家の祖父が船長として北極点へ旅立ち行方不明に。帰ったら次の冒険は一緒に行こうと言われていた孫の少女。2年越しで私なら見つけられると北極海へ船出する。

美しかった。ベタ塗りの色と色で見せてくる新しい感覚のアニメ。北極海の氷山の海を進む船のリアルに惚れ惚れ。こんなふうに氷山の中を進み、氷山は崩れ船を破壊するのかという恐怖。

公開は2019

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映画『キャプテン・マーベル』

映画『キャプテン・マーベル』

週末久々に観た映画『キャプテン・マーベル』。90年代、米軍では女性はパイロットになれなかった。そこを打破したいキャサリンが知った秘密のプロジェクト
。マイノリティ側に感情移入しっかりさせてくれたうえに、善悪を交錯させる現代映画の王道を行きつつ、ほっこりもほろりも笑いもきちんと入れてくるマーベルはすごい。冒頭のスタン・リー追悼にまず泣きそうになったし。 そして、女性がカッコよく活躍するアクションはい

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映画『劇場版シティーハンター 新宿プライベートアイズ』

映画『劇場版シティーハンター 新宿プライベートアイズ』

週末観た映画『劇場版シティハンター 新宿プライベートアイズ』
賛否両論あるようですが、予想通りの懐かしさ。セリフまわしも衣装も小物もアクションも、何から何まで古典表現の繰り返しが心地よくもあり。小さい頃、お家でテレビ見ていてシティハンターの時間になると誰かしらテレビのチャンネル変えるというね、謎めいた胸騒ぎの番組だったわけで、そんなあの頃見せてもらえなかったシティハンターの世界を堪能しました。笑笑

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映画『ファースト・マン』

映画『ファースト・マン』

映画『ファースト・マン』撮影技術が高度すぎて恐怖恐怖の大活劇!クルーの目線での揺れ、視野、回転、重力、生々しくて酔いそうになる。冷戦時代の宇宙開発がどれほど危機と隣り合わせだったか。信頼できない開発中の機材に人間を乗せて実験してしまうことの恐怖を感じながら、そこに未来を感じて身を投じたパイロットとその家族の苦難、反対運動、政府、NASA、ロシア、いろんな関係が上手く描かれていてドキドキの連続でした

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